二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 第百三十二話 もう一人のマター ( No.317 )
- 日時: 2012/12/07 00:20
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: 1ZQMbD0m)
「ジバコイル、十万ボルト!」
「リザードン、ダイヤブラスト!」
ジバコイルとリザードンは、実力がほとんど拮抗しており、なかなか試合展開が進まない。
ジバコイルの放った強烈な電撃を、リザードンの煌めく爆風が打ち消す。
「気合玉だ!」
続けてリザードンは気合を凝縮した弾を投げつける。
「ジバコイル、まだだ! バグノイズ!」
ジバコイルは気合玉を喰らい、体勢を崩しながらも、狂ったような雑音を放ち、
「ハイドロポンプ!」
大量の水を放出し、リザードンを捕らえる。
「この程度の技! リザードン、エアスラッシュ!」
対するリザードンは無数の空気の刃でジバコイルの動きを止める。ジバコイルと同じ戦法で来たのだ。
「火炎放射!」
そして灼熱の炎を放ち、ジバコイルの鋼のボディを焼いていく。
「チッ、ジバコイル、磁力線!」
「ダイヤブラスト!」
ジバコイルは軌道の見えない磁力の波を放つが、リザードンは煌めく爆風で強引に磁力の波を相殺してしまう。
だが、
「十万ボルト!」
この後の動きはザントの方が早かった。
ジバコイルは素早く強烈な電撃を撃ち出し、リザードンは電撃をまともに浴びる。
しかし、
「これを待っていました」
マターの自信に満ちた声が聞こえると同時に、リザードンの尻尾の先の炎がより力強く、そして青白く輝き始める。
「リザードンの特性、猛火です。どうです、猛々しく、かつ神々しい姿でしょう?」
「だが、猛火の発動はリザードンがピンチであることの証でもある。次で決めさせてもらおうか」
「上等です」
そして、二人は動く。
「リザードン、憤怒の業火を放て! 火炎放射だ!」
「ジバコイル、これで仕留めろ! 十万ボルト!」
リザードンは轟音を立てて燃える灼熱の業火を放ち、ジバコイルは左右のユニットをフル回転させ、最大電力の電撃を放つ。
お互いに競り合うことなく一直線に標的へと向かい、双方で爆発が起こる。
砂煙が晴れると、双方のポケモンは力を使い果たし、戦闘不能となっていた。
「ジバコイル、上出来だ。これで勝てる」
「リザードン、戻っておけ。これで私の勝ちだ」
そして、お互いに最後のボールを取り出す。
「次のポケモンが、私の最後の一手。私の初めてのポケモンであり、私の暗い過去と今の覚悟の象徴、私の本気。その力、お見せしましょう」
いつの間にか表情から嘲りを失くし、真剣な表情となり、ボールを構えたマターに、ザントは告げる。
嘲笑を浮かべて。
「何が覚悟だ」
その言葉に、マターの動きが止まる。目が細くなり、ザントを睨む。
そして、その鋭い眼光に動じることもなく、ザントは続ける。
「世界を変えるために、自分だけが世界の王となるために、今までの仲間も全て切り捨てると誓っておきながら、自分の最初のポケモンに頼る。そんな矛盾した覚悟で、世界を征服するなどとほざいている時点で、貴様の覚悟など知れたもの——」
「黙れ!!」
ザントの声は、マターの怒声によりかき消される。
普段、常に他者を見下すような男が。常に余裕を持ち、決して取り乱したことのない男が。
我を忘れたかのごとく、声を荒げ、さらに怒声を上げる。
「貴様に私の何が分かる! 私の孤独で暗い過去が! 幼き頃に心の拠り所を全て失った、私の思いが! 貴様などに分かってなるものか!」
目の前にいる男、ザントが、昔どのような立場にあり、その立場に至るまでの過去がどのような物であったかも知らぬまま、マターは激昂する。
「このボールの中のポケモン、こいつは私の唯一の心の拠り所だった! こいつは私の一部! こいつは私と共にある! この私の最後の一手は、ただの仲間といった生ぬるいものではない! こいつはもう一つの私なのだよ!」
マターは止まらない。その歪んだ勢いは、さらに勢いを増していく。
「私の過去など何一つ知らないのに、あたかも私の全てを知ったようにほざきやがって! 貴様だけは絶対に許さぬ! 石化するだけでは足りん、そのあとでその体を粉々に砕いてくれるわ!」
終始、ザントは無言だった。
ザントは、マターと同じか、それよりも暗い過去を歩んできた自信がある。善人面して気取った奴らを潰すために、世界征服の野望を掲げ、グループを作り上げる。ほとんど、昔のザントと同じだった。
だからこそ、ザントは感じたのだ。
この男に、自分と同じ失敗を繰り返させてはならないと。
そして、ザントのそのような思いなど知るはずもなく、マターはついに最後の一手を繰り出す。
もう一人の自分とも称した、マターの最強の切り札を。
「絶望と破壊を与えろ! ブレイドン、抗う者全て絶やせ!」
マターの切り札は、非常に頑強そうな体を持つ、恐竜のような外見のポケモン。大きさは先ほどのドサイドンより少し小さいが、それでも通常サイズよりと比べて三倍ほどある
目は真紅に光り、口は巨大な刃のように鋭く、尻尾も刃のような形をしている。
ブレイドン、切っ先ポケモン。鋼・岩タイプ。
ドサイドンと同じような体つきで、少し小さいにも関わらず、その放つ威圧感は桁違いに大きい。
「こいつは一体で七将軍の全ての手持ちを相手取ることができる。そこに私の今までの手持ち四体を加えても同様! こいつが出た時点で、貴様に勝ち目などないのだ!」
マターの言葉に呼応し、ブレイドンは大地を揺るがすような咆哮を上げる。
その咆哮はネメアの咆哮をも凌駕する力強さを持つが、それを見てもザントは顔色一つ変えない。
「叩き潰されるのはお前の方だ。終焉を告げよ、サザンドラ!」
ザントの最後の一手、サザンドラも、目の前の敵がいかに強いかを感じ取ったはずだ。
しかし、ザント同様、一切動じることもなく、うっすらと笑みを浮かべ、ブレイドンを見据える。
最後にして最強のポケモン同士の戦いの幕が、切って落とされた。