二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 第百三十六話 暴走 ( No.326 )
日時: 2012/12/13 00:22
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Pa6wZ.rX)
参照: ギガントブレードは岩タイプの技です。

ブレイドンの鋼の砲撃は、確実にサザンドラを捕らえた。爆風と共に、砂煙が上がる。
「…つまらんな」
ふとマターは呟く。
「バトル前にはあれだけの大口を叩いていた癖に、いざやってみればこの結果。実につまらん」
マターの口調に、再び嘲りが戻ってくる。
「ふ、何が、その程度の力では世界の征服など出来ないだ、笑わせるな。私よりも弱かったくせに、よくあれだけの大口を叩けたものだ」
終始、ザントは黙っていた。
「さて、これで終わりだ。貴様らは全員石化してもらう。そしてソルナのジムリーダー、貴様の体はその後で粉々にしてやる」
不敵に笑い、マターは『リモコン』の操作を始める。
ザントは敗れた。それは、マターが現在ウチセト最強のトレーナーとなったことを意味している。
そして、ガタノアを手にした今のマターは、世界で最強と言っても過言ではないほどの力を得ている。
もはや、誰にもマターを止められることは出来ない。
そう思っていたのは、マターだけでは無かった。
この場にいる全員が、そう思っていた。
ただし。
ただ一人を除いて、の話だが。

刹那、ブレイドンの足元から土砂が噴き出し、ブレイドンを吹っ飛ばす。

「!?」
慌てたのはマターだ。すぐに『リモコン』操作を中断し、前を見る。
マターが前に振り向いた瞬間に、砂煙が吹き飛んだ。
そこにいたのは、
「…馬鹿な。今のメタルブラストで、確実に仕留めたはずだ…!」
赤い瞳に燃え盛るような怒りを浮かべ、腹の切り傷から血を流す、黒いドラゴンポケモンだった。
「なぜサザンドラが倒れていないか教えてやろうか」
ザントの表情はほとんど変わっていないが、口元がわずかに緩んでいる。
「お前が最後の最後で油断したからだ。ブレイドンのメタルブラストは、柱の残骸に威力を削られ、サザンドラを倒すまでの威力に至らなかった。正直にギガントブレードを放っていれば、サザンドラは倒れていたものを」
ポケモンの状態的に考えると、まだブレイドンが有利。
しかし、トレーナーの今の気持ちを考えると、確実にザントの方が有利だった。
「…笑わせるな。確かに私は今サザンドラを仕留めそこなったが、そのダメージの量では、力尽きるのも時間の問題。次で確実にそのサザンドラを倒し、ガタノアの力で世界征服を始める。それだけだ!」
マターの言葉に対し、ザントは先ほどのマターの言葉をそのまま返す。
「足掻く権利くらいは認めてやる。叶える権利があるかどうかは分からんがな」
そして、両者は同時に動く。
「ブレイドン、ギガントブレード!」
「サザンドラ、クリムゾンエイト!」
ブレイドンが刃のような口を振り抜き、全てを切り裂く刃の衝撃波を飛ばす。
対して、サザンドラは両腕の顔から真紅の花弁のような八つの赤い光線を放つ。
真ん中の顔から放たれるものより威力は劣るが、それでも二つの光線は何とか刃の衝撃波を相殺する。
しかし、
「サザンドラ!」
ザントの一声で、最後の——真ん中の顔から、真紅の八つの光線が放たれる。
攻撃直後のブレイドンには、ギガントブレードを再び放つ余裕も、回避する余裕もなかった。
真紅の光線がブレイドンを貫き、遂にブレイドンは地に倒れる。
「ッ、ブレイドン!」
戦闘不能だった。ブレイドンは完全に倒れていた。
「……」
マターは俯き、無言でブレイドンをボールに戻す。
「観念するんだな。やはりお前では、俺には勝てない。敗北を認めろ」
ザントは言い放つが、そこでふと気づく。
マターの体が、小刻みに震えていることに。
怯えではない。怒りでもない。悔しさでもない。
その震えの正体は、
「…フフ」
マターの口から聞こえたのは、不気味な笑い声だった。
「…フフフフ」
小さな笑い声だったが、しかし、次第に力強さを増していく。
そして、突然マターはバッと顔を上げる。天を仰ぎ、高らかに笑う。
「フフ…ハハハハハ! ハハハハハハハハハハ!」
その狂気の笑い声は、聞く者に恐怖の念を与えるほどのものだった。
「何が俺には勝てないだ。何が敗北を認めろだ! 今のは前哨戦にすぎん! 本番はこれからなのだよ! ガタノア!」
マターの呼びかけと共に、ガタノアも吼える。
そして、マターは『リモコン』をかざす。
「終わりだ! ガタノア、こいつらを石化せよ!」
ガタノアの目に、赤い光が宿る。この眼光が最大限に達した時、それを見た者は体が石となってしまうのだ。
「…ッ! まずい、レオ、ウェイガ、絶対に奴の目を見るなよ!」
石化を防ぐには、そうするしかない。だが、ガタノアを見ることができなければ、こちらも完全に無防備となる。いつ攻撃を受けてもおかしくない。
しかし、その時。
マターの高らかな笑い声が、急に止まったのだ。
「…?」
思わず、目を開けてしまったレオ。しかし、レオは石化することは無かった。

ガタノアの視線の先にいたのは。ガタノアの眼光をまともに見ていたのは。
ガタノアを操っていたはずの、マターだったからだ。

ザントもウェイガも、異変に気づき、目を開けていたようだった。
その場にいた全員が驚愕していた。
勿論、マター自身も。
「…は?」
マターはそれだけ呟いて、そして、マターの動きは止まってしまう。
今この場で起こっていることが理解できないレオだが、何とか頭を回転させ、状況を把握する。
「…マターが、裏切られた…?」
そう。
狡猾で悪賢いガタノアは、初めから『リモコン』に操られたふりをしていたのか。
もしくは、『リモコン』の洗脳の力に打ち勝ち、自分を操ろうとしたマターに逆襲したのか。
そんなことはどうでもいい。大事なのは、ただ一つ。
マターは、手駒だったはずのガタノアに牙を剥かれ、石化したのだ。
そして、操り人が失われた今、ガタノアに起こるのは、力の暴走。

「yrsnmvoiagn bnfonv usahweo gnvaosbvhpua!!!」

自分の力を抑えきれず、ガタノアは暴走を始める。
絶望と悪夢が、レオたちに襲い掛かる。