二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: どうぶつの森〜どうぶつ村の軌跡〜 ( No.29 )
日時: 2012/01/07 20:47
名前: るきみん (ID: JryR3G2V)

              第一話

      Ⅴ

この村は森をくりぬいて造ったような村だった。
海のすぐ近くに森、と言うと、大体ジャングルのようなものを想像するだろうが、そんなことはなく、普通の公園に生えているような木だ。
道はコンクリートではなく、土でできている。整地はしていなくてボコボコしてて歩きにくい。
周りはだいたい森で囲まれている。村の真ん中には大きな広場がある。そこでいろいろなイベントなどが行われるらしい。

村の住人は・・・よくわからなかった。
やっぱりあのバス停の前にあった地図は昔のもので、今の住人などは書いていなかった。
まあ書いてあってもまだ朝は早いし起きてないかもしれないけど。
とりあえずすることもないので、狼さんの家に行ってみることにした。別に散歩をしてもいいのだが、あんまり歩き回ると迷子になってしまいそうなのでやめた。まだこの村の地形とかも分からないし。狼さんとも仲良くしたいし。

歩くこと数分。狼さんの家の前に到着した。
さすがに昨日の今日なので、迷うことなくすんなり来ることができた。
…それにしても、立派な家だと思う。きれいな壁にきれいな屋根。羨ましいことこの上ない。大体私の家なんてサ○エさんのエンディングの歌のときにサ○エさん一家がみんなで仲良く入っていくあのウサギ小屋みたいな家なのに。
お母さん…もうちょっといい家を借りてくれてもいい気がする。少し酷いんじゃないですか?

「ひ、人の家の前で、なにをしている!?」
狼さんの家の前でボーッとしていると、中から狼さんが出てきた。
…とりあえず、あなたは人ではなくどうぶつですよ。だから人の家の前でじゃなくてどうぶつの家の前で、って言うべきですよ。…というツッコミはしないほうがいい雰囲気だ。
「え…っと、あ、傘を返したほうがいいかなって思って、返しにきました」
「いらない! あれはあなたにあげるから帰って! というか傘なんて持ってないじゃない!」
「あれ!? 家においてきちゃった!?」
「バカだ! 傘を返す目的できたのに傘を持ってこないとかすごくバカ!」
「バカじゃないよ! みなみだよ!」
「アンタの名前なんて聞いてない! 用が終わったなら早くどっかいって!」
「いや〜、特にやることもないので、とりあえず狼さんの家でお茶でもご馳走になろうかなぁ、なんて」
「すっごいずうずうしい!めちゃめちゃ迷惑だから、早くどこか行って!」
「いやいや〜」
「きぃぃぃぃぃ〜〜〜!!!」
私が近寄ると、狼さんはすごい勢いで走り去って行った。もちろん、二足歩行で。
…ちょっとショックかも。

                 ☆

「みなみさーん、今度は外にこれを植えてきてほしいんだなも!」
ところ変わってたぬきち商店。
狼さんに拒絶されたショックから何とか立ち直ったみなみは、たぬきち商店でバイト中である。
「はーい。…あ、たぬきちさん、空曇ってますよ。雨降りそうです」
「なぬっ! ああ、そういえばお店の裏に洗濯物を干しておいたんだなも! みなみちゃん、今こっちは手が離せないから、取って来てほしいんだなも!」
「まっかせてくださーい!」
かくして、率先してパシられるみなみなのであった。

たぬきちのお店は、切り立った崖のすぐ前にある。しかし、崖と言ってもそれほど禍々しい崖ではなく、ちょっとした丘を削ったような形だ。雨が降ったら土砂崩れを起こしそうである。
なぜそんなめんどくさい場所に建てたかはたぬきちしか知らない。知るよしがない。
「うう、結構な量・・・」
みなみが商店の裏側に回ってみると、それはそれは大量の洗濯物があった。
「これ…たぬきちさん一人分…?…ちょっと変なにおいが…」
崖と店に挟まれているせいか、この場所は少々におう。そんななかでみなみはみなみの体と同じくらいの量の洗濯物と格闘する。すると、不意に崖の上のほうから物音がした。
「だれ?」
上を向くと、誰も居なかった。しかし、少しだけ、白色の毛が見えた気がした。見間違いかもしれないが。
「…早く戻らなきゃ、雨が降ってきちゃう」

「あ、おかえりなんだなも。洗濯物多かったでしょ? お疲れ様なんだなも」
たぬきちはニコニコしながらみなみをねぎらう。みなみはふと気になり、さっきのことを聞いてみる事にした。
「あの、さっき裏に行ったとき、崖の上にチラッと狼さんらしき物体がが見えた気がしたんですけど…あのがけの向こうって、なにかあるんですか?」
「ああ、そこには海を見渡せる高台が…」
そこまで言って、たぬきちの笑顔が固まる。そして、みるみるうちに悲しそうな顔になっていく。
慌てて、みなみはたぬきちに聞く。
「わ、わ、わ…ど、どうしたんですか? 何か聞いちゃいけないことを聞いちゃいましたか!?」
「い、いや、なんでもないんだなも…気にしないでなんだなも…」
「は、はい…」
たぬきちは、「まさかまだ引きずってるんだなもか?」とか、「どうしたらいいんだなも?」とか、よくわからないことをぶつぶつ言っている。そして、しばらくすると、黙り込んでしまう。
気まずい沈黙がお店の中に流れる。
たぬきちは何もしゃべらず、みなみはその空気に気圧されてしゃべることもできず、聞こえる音は外の雷のゴロゴロという音だけだった。
「みなみさんは、」
「へ?」
不意に、たぬきちは口を開く。その凛とした顔には、いつもののほほんとした雰囲気は微塵も感じられない。
「みなみさんは、狼さん、もとい…ビアンカさんの、過去を、受け止めることができるんだなもか?」
「ビアンカ…さん」
きっと、あの白い狼さんの名前なのだろう。いや、今は名前なんかよりも、
「ど、どういうことですか? おおか…ビアンカさんの過去って?」
「うん…もしかしたらビアンカさんは怒るかもしれないけど、でも、みなみさんなら、みなみさんになら、伝えたほうがいいと思うんだなも…」
そう、前置きし、一呼吸おいてから、

「ビアンカさんのお母さんは、10年前に、誘拐れてしまったんだなも。それも、人間の手によって誘拐されたんだなも」
そう、言ったのだ。