二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 382章 若駒 ( No.491 )
日時: 2011/11/24 22:51
名前: 白黒 ◆KI8qrx8iDI (ID: GSdZuDdd)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

”英雄の弟子よ、一つ頼まれてくれるか”
コバルオンはソンブラとの戦闘中、ふとミキにそう尋ねた。
「な、何を……?」
”我らが愛弟子を迎えに行ってやって貰いたい。何があったのか、今我らは奴と連絡が取れない状況にある。だから、貴様に奴の所へ向かって貰いたいのだ”
「それって、私である必要はないんじゃないかな……?」
ミキの意見に、コバルオンは首を横に振った。
”否。奴に何かあったとすれば、それは恐らく、我々では手の施しようがない事態だ。それに、貴様は英雄の弟子なのだろう。だったら我らの愛弟子と、通ずる所もあるやもしれん”
コバルオンは一旦フィニクスとの距離を取ると、ミキの横目で見て、言った。
”……頼まれてくれるか?”
「……了解」
ミキが踵を返して駆け出すのと同時に、それを察したソンブラのいにクスが逃がすまいと炎を放つ。しかしその炎は、コバルオンが解き放った鋼の波動により相殺される。
「……逃がしちゃったか。まあいいや。救世主の一体でも首を落とせば、手柄としては十分だろう」
”それは叶わぬ。何故なら、首を落とすのは我が刃で、落ちるのは貴様の首だからだ”
互いに睨み合い、そして同時に、動き出す。



「暗いなぁ……層が深くなってきたからかな。ラルトス、大丈夫?」
ミキは足元で発光しているラルトスにそう呼びかける。ラルトスは気丈に振舞っているが、疲れたのか、その光は弱まっている。
しかしそれとは反対に、先に進むにつれて洞窟の闇は深くなっていき、視界も悪い。
「うーん、このままじゃ何も見えない……出て来て、ゴルドー」
ミキは火の鳥ポケモンのゴルドーを出す。ゴルドーの炎で周囲は多少明るくなり、幾分かマシになった。
「さて、進もうか」
そう意気込んでアルミを進めたミキだが、しかしその意気込みはすぐに消失した。
理由は二つ。
一つは少し歩みを進めた所に、目的地と思われる泉が見えたから。
決して広いとは言えない、地底湖のような泉。湧き水だからか水は綺麗に澄んでいて、泉の底がはっきりと分かる。
聞いた話によるとこの泉は神秘の泉と呼ばれているらしい。
いつものミキならその美しい景観に感動を覚えるだろうが、もう一つの理由のせいでそれも消失する。

泉の水際に、倒れたプラズマ団が大量に積み重なっていたのだ。

「こ、これは……!?」
その驚愕の景色に違う意味で目を奪われていると、泉の中央付近から何かが歩み寄ってくる。
そう、歩んでいるのだ。水上を。
”……今度は誰……?”
聞こえてきたのは、気の弱そうな少年のような声。その声には不安感や不信感が募っているようで、なおかつ怯えたような印象も受ける。
声の次は、その姿が明らかになる。それは当然ながらポケモンで、まるで子馬のような姿だ。尻尾と襟元には鮮やかな水色の毛、頭部には雄々しい鬣。頭からは角の様な剣が生えている。
”僕に何の用……?”
弱々しくも威圧的に、そのポケモンは言った。
「……君は、救世主と呼ばれていたポケモン達の、弟子、だよね」
”師匠達を知ってるんだ……。……そう、僕はケルディオ。いつだったか師匠達に技を教わり、彼らが眠ってから今まで、ここで自己の鍛錬をしていたんだ”
「この人たちをやったのも、君なの?」
ミキは周囲に積み重なるプラズマ団——よく見ると普通のトレーナーもいる——を横目で見つつ、ケルディオに尋ねる。
”そうだよ。大丈夫、殺してはいない。気絶させて、眠らせただけだから”
「何でこんなことを?」
次なる質問に、ケルディオはしばし口を閉ざした、しかしやがて口を開き
”……そこの彼らは、物珍しさに、自分の栄誉のために、邪魔だから……そんな理由で、僕に近づいてきた。勿論、襲い掛かってきた。僕はそれを撃退しただけ。人間達の世辞には疎いけど、こういうのは正当防衛って言うんだと思うよ”
「……眠らせたっていうのは? さっき言ってたよね」
”昔、草原の救世主と呼ばれていた師匠に教わった技の、応用。彼らを逃がしたら、またやってくる。だったら、ここで眠らせておいた方がいい”
「……そう。まあ、それは君の方が大体正しいかな。ただ、ちょっとやりすぎな感じがあるけど」
善悪で言ったらこの場合の善はケルディオにあるので、ミキは咎めない。
恐らくその辺に積み重なっているプラズマ団は、先駆けしてケルディオの捕獲に乗り出したが返り討ちにされた団員だろう。
ミキは疑問を払拭し、本題に入る。
「今、君の事を狙っている組織がいる。私達はその組織と敵対していて、君を保護しに来たんだ。だから——」
”一緒に来てくれとでも言うの? だったらお断りだよ。そう言って僕に近づいてきた人間は何人もいる。もう、誰も信じられない”
「君の師匠に、君の事を頼まれてるの。君を迎えに行ってくれって」
”それはまた、新しい切り口だね。でも、もう僕は引っ掛からないよ。今まで一番上手い嘘を吐いた人間は、僕をこの岩場の入口付近まで連れて行った。でもそこで口を滑らせて今はその辺のどこかにいるはずだよ”
取り付く島もない。ケルディオは違った方向で、師匠達と同じく人間不信になっているようだ。
「聞いて、ケルディオ。君の師匠は今、戦っている。救世主だからそう簡単にやられないとは思うけど、結構ピンチな状況で——」
”しつこい!”
ついに怒り出したケルディオは、大量の水を噴射してミキを威嚇する。
”もう人間は信用ならない。師匠達も人間を見限っている。今日はたくさん人間が来た。全部返り討ちにした。だからもう疲れた。本当は休みたいし戦いたくないけど、あんまりしつこいようならその辺に積み重なっている人間とおなじ目に遭わせるよ”
「せめて話しさえ聞いてくれれば……!」
しばし考え込んだが、こうなれば実力行使しかないと結論に至った。
「分かった。じゃあ勝負しようか。君が勝てば私を好きにしていい。私が勝てば、私の話を聞いてもらう。それで配当は決定だね」
ミキはボールを構え、目の前に佇む若駒を見据える。



今回は遂に救世主の愛弟子、ケルディオの登場です。ケルディオはまだゲームで未登場なので、設定等にはいくつか捏造部分が含まれていますが、ご了承ください。ちなみに神秘の泉と言うのは僕が半分適当に考えました。コバルオンが導の間、テラキオンが試練の室、ビリジオンが思索の原、なのでそれになぞらえてそれっぽいものにしてみました。では次回はミキとケルディオのバトル。ミキはケルディオの心を開く事ができるのか。次回もお楽しみに。