二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 428章 能力 ( No.585 )
- 日時: 2012/12/30 16:27
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「ケヒャハハハハハハハ!」
ここは、知る者ぞ知るプラズマ団の拠点。その一角にある、とあるラボ。即ち、7Pが一人、アシドの砦である。
「……どうしたアシド。もとから変な奴だとは思っていたが、いきなり高笑いし出すとか、狂気の沙汰だぞ。ただでさえお前は笑い方が変だっていうのに……遂にネジがぶっ飛んだか?」
アシドの背後から現れたのは、同じく7Pの一人、フォレス。
「おう、フォレスか。別に自分の部屋で笑ってようと、僕の勝手だろ?」
「そりゃそうだが……で、なんで笑ってんだ? 最近、お前不機嫌だったから、なんかいいことでもあったのか?」
「まあな。いやなに、ちょっとばかし面白いもんを見つけたのさ」
そう言ってアシドは手元のモニターを操作し、いくつかの画面をディスプレイに表示する。
「んだこりゃ……? 英雄とそのポケモンのデータ……それと、その仲間のデータか?」
「それに加えて僕ら7Pのデータも、何人分かあるけどな。フォレス、これなんだと思うよ?」
アシドのその問いかけに、フォレスは首を捻る。
アシドはプラズマ団の中でもとりわけ性格が悪く身勝手ではあるが、ずば抜けた天才であることは確かだ。対してフォレスは、成り上がりで今の地位に付いたようなもの。生まれ持っての才能というものはない。
加えてアシドの性格の悪さから、答えが明確に存在するかも怪しい。フォレスはプラズマ団の中でも、アシドとウマが合う唯一の人物だったりするのだが、それでも彼の考えは読めない。その結果、
「分からん。何だ?」
率直にそう答えた。
だがアシドは気分を害することもなく、嬉々として説明し始める。
「これはな、英雄の持つポケモンの、能力値のステータスだ。仲間の方は、そいつらの性格をデータ化したもんだよ」
「あ? 性格をデータ化って、どういう意味だ?」
あえてそんなものがデータ化できるのかという問いかけはしない。プラズマ団の科学力は、今や世界有数、もしかしたら世界一と言っても過言ではないかもしれない。そんなこと、聞くだけ野暮というものだろう。
なのでフォレスは、その意味を問う。
「性格のデータ化っつうのは、ありていに言っちまえば、そいつの生い立ちや育った環境、人間関係を考慮して、そいつの人生における正常値かどうかを見るもんだ。普通この数値はゼロだが、いわゆる『道を踏み外した』って状況に陥ると、この数値が変動する。数値が大きくなればなるほど、大きく道を踏み外したことになるのさ」
いまいち分かるようで分からないアシドの説明だが、つまりは普通に生活していれば数値はゼロで、何か些細な切っ掛けで道を踏み外したり、ぐれたりすると数値が変動し、その変動幅が大きいほど大きく道を踏み外していることを示しているようだ。
「ん? 待てよ。そいつの生い立ち——人生での出来事を考慮した基本値がゼロなんだろ? だったら、例えばなんかの事件に巻き込まれて両親を亡くした奴が、心を閉ざしたりしたら、それは事件のせいで心を閉ざしているわけであって、つまりある意味まっとうな心理だろ? だったら数値はゼロのはずだ」
「事件の程度にもよるが、まあな。確かにそれだと、どんな大事件に巻き込まれようと、その事件が考慮されるから数値はゼロ。でもこの数値は、本人の性格が加味されない。まあ、本人のメンタルを表す数値だとでも思っといてくれ」
本題はこっからだ、とアシドは前置きし、説明を続ける。
「まず英雄のポケモンだがな、こっちが英雄のポケモン十二体の能力値。こっちが、それと同じポケモン十二体の能力値だ。相互関係における補正はかかってないぜ」
アシドはディスプレイの画面を二つ拡大させ、フォレスに見せる。
「……英雄のポケモンの方が能力値が高いな。でも、こんなの当然だろ? 腐っても英雄だぜ? 一般的なポケモンより強くて当たり前だ」
「確かにそうなんだが、こっちの十二体は一般的なポケモンじゃない。そのポケモンにおける能力の限界値だ」
「……なに?」
フォレスの顔が曇り、訝しげに目を細めた。
「つまり、英雄のポケモンは能力値が限界突破している。さらに英雄の仲間を見てみると」
アシドはモニターを操作して新たな画面を拡大させる。そこに移っているのは、英雄の片割れN、英雄の弟子であるミキ、そして7Pの一人レイの三人だ。
「まず英雄の片割れ、旧王様だがな……こいつはポケモンの言葉が分かるらしいが、その能力が弱まっている」
「そうらしいな」
「で、この数値を見てみろ」
先ほど説明していた、性格をデータ化したものの数値を表示する。見ると、Nとレイ、特にレイの数値はゼロから大きく離れていた。逆にミキの数値は、ほぼ原点のまま。
「レイさんの幅が大きいな……まあ、あの人なら分からなくもないが」
「そう思うよな。だがあのレイだぜ? あの絶対零度のクールビューティーが、ここまで精神をかき乱されているんだ。それも、英雄と関わり始めたあたりからな」
言われてみればそうだ。フォレスも最近のレイは様子がおかしいと氷霧隊の者——特にサーシャから言われていた。よく考えればそれは、英雄と本格的に接触し出してからだ。
「他にもいるぜ。英雄の幼馴染だとかいう奴ら、PDOにおける要注意人物ザキ、僕らで言えばエレクトロとかな。全員、最近おかしな点がある」
「そういやそうだな。フレイも、エレクトロの性格が変わってきてるとか言ってたような気がするわ。あと、あれは英雄のせいだとか——」
とその時、アシドがビシッと人差し指を突き出してきた。
「それだよそれ。どいつもこいつも、英雄と関わりだしてから、おかしくなっちまいやがった。まるで、英雄が道を踏み外させているようにな」
アシドは有頂天になりながらも、口を開き続ける。
「極東の辺鄙なところに、なんつったか……ランセ地方? とかいう場所があってだな、まあ時代遅れというか封建的というか、結構閉鎖した地方であんま情報がないんだが、ランセ地方ではこの地方でいうトレーナーに相当する人間は、ポケモンになにかしらの力を与える、いわば特殊能力みたいなのがあるって話だ」
「……まさか、英雄にもそれがあると?」
恐る恐るフォレスが問うてみると、
「そうだ」
アシドはあっさりと肯定した。
「そこで僕は一つの仮説を立てた。英雄には人やポケモンの道を踏み外させる……いやいっそ、運命を変えると言うべきか。そんな能力があるとする。無論無自覚なその能力が発動して、英雄のポケモン達は『限界値まで到達する』という運命が変えられ、能力値が限界突破してしまう。次にレイ。あいつも英雄の能力で『感情を押し殺したまま保つ』という運命が変えられ、鉄面皮を剥がされて今に至る、って感じだ」
聞いていてフォレスはこじつけっぽいと思ったりしたが、しかし妙に説得力があった。成程、そう考えれば、ここ最近気になっていた、人格のブレも説明がつくが、
「じゃあこれはどうなんだ、英雄の弟子。こいつの数値はほとんど変動してないぞ」
フォレスはミキの画面を指さして言う。
英雄に運命を変える能力があり、それが人の人格にまでも影響を及ぼすのなら、ミキの数値も変動していていいはず。しかし彼女の数値は、ほぼゼロだ。
「それはだな、たぶん英雄の弟子にも能力があるんだと思うぜ。運命を変えられないとか、他の能力を受けつけないだとか」
半ば投げやりな感じでアシドは言った。たぶん、まだ調査中なのだろう。
グッと背筋を伸ばし、アシドはこうまとめた。
「ま、僕が何を言いたいかっつーとだな。トレーナーの中には、そういう特殊能力みたいなもんが存在しているらしいってこった。んで英雄は、人の運命を変える、人の人格をずらすような能力を持っている。今の僕の見解はこんなもんだ」
しっかし、とアシドは続ける。
「ポケモンの生態を調べる研究者は数多くいるが、トレーナーについて調べる奴はいねぇよな。ケヒャッ、こりゃいいテーマが見つかったぜ。題して『トレーナーとトレーナーがもつ未知の能力』とでも言うのかね。ケヒャハハハ!」
愉快に笑うアシドだが、不意にピタッと笑いを中断し、フォレスに向き直る。
「そういやフォレス、お前何しに来たんだ? まさか僕の話を聞きに来たわけじゃねーだろ?」
「ああ、そうだった」
いきなりアシドが高笑いするので頭から飛んでしまったが、フォレスは元々アシドを呼びに来たのだった。
「これから例の作戦を実行する。俺はセイガイハシティ方面、お前はヒオウギシティ方面に向かえってよ」
今回はバトルのない回でした。前回のあとがきで、モスギスとバトルした後を書くみたいなこと書きましたが、ごめんなさい、違う話を入れてしまいました。しかも会話のみという面白みに欠ける話です。しかしここで、以前からフレイが言っていた『英雄によって性格が変えられた』ことについてのメカニズムが判明しました。ランセ地方は知る人ぞ知るポケノブの舞台です。あのゲーム、案外おもろいです。原作ポケモンとはまた違った戦略を要求されますしね。まあそんなことはさておき、次回こそモスギスとのその後を描きますが、プラズマ団がまた動きだし、親子対決になるのか? という感じです。では次回も楽しみに。