二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 448章 親父 ( No.632 )
日時: 2013/01/20 23:08
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「ぐっ……テペトラー……!」
 地に伏したテペトラーと、超然と佇むレイを交互に見遣り、ザキは歯噛みする。
 普通のポケモンバトルなら、手持ちを全て失えば敗北する。それで終わりだ。しかし今はそうではない。手持ちがなくなればそれで終わりではない。
 言うなれば、闘いは終わっても、戦いは続いている、ということだ。
「……エレクトロさんが目を付けていた彼女、名前は何と言いましたか。確か、そう……リオ。彼女ほどではないにしろ、あなたもプラズマ団においてはかなりの要注意人物に指定されています。この意味、分かりますか?」
 レイの言葉の一つ一つが、ザキの体に突き刺さる。ザキはそんな感覚を覚えていた。話の内容など二の次だ。
「あなたを見逃す理由はないということです。ここで確実に仕留めさせていただきます。もう、再起不能になるように。残念でしたね、もしあなたが最初のヘルガーを残していれば、まだ私が負ける可能性も少なからずあったでしょうが、もったいないことをしましたね。今度こそ、あなたに引導を渡します」
 すると、レジュリアが攻撃の構えを取る。狙いは当然、ザキだ。
「そろそろアシドさんの方も探し物を見つける頃でしょうし、時間はかけません。一瞬で決めます。レジュリア、アイス——」
 レイがレジュリアに向けて指示を出す、その時。

「やれやれ、本当に最近の若い子は短気だねぇ。そう先を急ぐものじゃないよ?」

 ポンッと、レイの肩に何者かの手が置かれた。
「っ!」
 バッと反射的にレイはその手を振り払い、すぐさま振り向きその者を視認する。
 男だ。若いように見えるが、実際の年齢はいまいちつかめない。赤黒い髪をしており、たとえは悪いが変色しつつある血のような色だ。眼鏡の奥の目は糸のように細く、思考が読み取れない。
 レイは頭の中でこの男が誰かを思い出そうとするが、完璧に記憶しているはずのブラックリストのどの顔にも一致しない。
 ヒオウギにPDOの支部はないはず、ならば住人がプラズマ団の行動を見かねて手を出して来たのかとレイは推測するが、しかしその推測は外れた。
 答えは、意外にも後方のザキの口から語られる。
「なんで、ここにいるんだ——いや、なんで今更戻ってきやがった……!?」
 その声は驚き——否、怒りに満ちており、男の登場を疎ましく思っているかのような口調であった。
 その、男の正体とは、

「クソ親父……!」

「おいおいザキくん。実の父親に向かって、そういう口の利き方はないんじゃないのかな?」
「うるせぇ! てめぇ今までどこほっつき歩いていやがった!」
 男の態度が気に喰わないようで、ザキは怒りを露わにして怒鳴っている。
「……思い出しました」
 そんな中レイがポツリと呟く。
「あなたは、PDOセッカ支部の統括ですね。現状ではそこの統括代理の方が実質的な統括であることと、一年前にプラズマ団が本格始動し始めた時に行方をくらましたことから、あなたのデータはほとんどありません。どうりで顔が浮かばないわけです」
「まあね。息子と娘、揃って世話になっているよ……ああそうだ、自己紹介がまだだったね。ボクはロキという。以後よろしくお願いするよ、お嬢ちゃん」
 最後の、お嬢ちゃん、という単語に、レイはピクリと眉を動かす。
「わたしはもう、お嬢ちゃんなどと言われる歳ではありません」
「いいや? 君なんてまだまだ、ボクからすれば幼い女の子と同じだよ。それにしても——」
 レイの抗議をよそに、ロキはスッと流れるような動きでレイの後ろを取った。そしてその青い髪をつまみあげ、
「焦げ目が真新しいね。ダメじゃないかザキくん、女の子をいじめたりじちゃあ。男は女性をエスコートするものだよ」
「っ!」
 ザキをたしなめる。
 ロキの動きに気を取られて行動が一瞬遅れたレイは、再びロキを振り払った。ロキは軽くレイの手をかわしてザキの側まで寄る。
「ほら、見て見なさい。彼女あんなに気が立っているじゃあないか。君は昔から女の子に対しては不器用だったけど、少しは改善しようと努力するべきだよ」
「うるせぇつってんだろ。今更てめぇにそんな説教くらいたかねぇし、今のはてめぇが原因だろ」
「そうですね」
 唐突に、そして意外にもレイはザキに同意した。
「わたしは親、特に父親という存在が大嫌いなのですよ。それが誰の父親であろうと。加えてそのつかみどころのない気取った態度、癪に障ります」
「おやおや、ボクも嫌われてしまったねぇ。そんなこと言われても、これがボクだし、昔からこういう性格だったから、今となっては直しようがないんだよ。ちょっとは大目に見てくれたまえ」
 直しようがないというより、直す気がないと言った方が正しそうなロキの態度に、レキの目はさらに鋭くなる。
「……まあいいでしょう。わたしも敵にそこまで過度なものを求めたりはしません。それで、あなたはなにをするんですか? まさかなんの目的もなく出てきたわけではないでしょう?」
「当然さ。なにやら息子が危ない橋を渡ってるみたいだから、少しばかり助力をしようと思ってね」
 後ろで露骨に顔をしかめるザキを一瞥し、ロキはボールを一つ取り出した。
「頼んだよ、マイハニー、アメリシア」
 ロキが繰り出したのは、水色のアメフラシのような姿をしたポケモン、アメリシア。
 アメリシアが場に出るや否や、突如として尻尾の赤い球が光を発した。

 ピチャン

「これは……」
 レイは空を見上げる。見渡す限りの黒い雨雲が、空を覆い、小さな雫を流している。
「アメリシアの特性、雨降らしさ。君だって知っているだろう?」
「ええ、まあ……それにしても、随分と大きな雨雲ですね。かの伝説のポケモンほどではないにしろ、この効果範囲は相当なものですよ」
「ボクのアメリシアは雨を降らす範囲が広いのが特徴だからね。たぶんタチワキシティの方まで雨雲は広がっていると思うよ。ふふ、それにしても」
 ロキは雨に降られて再びずぶ濡れとなったレイを見て、怪しげな笑みを浮かべる。
「雨に濡れた女の子というのも、なかなか風流で目の保養にな——がっ!」
 ロキの言葉は中断された。ロキは頭を押さえ、その後ろには拳を握りしめたザキが立っている。
「アホなこと言ってねぇで真面目にやれや、クソ親父。あんたが今までどこでなにしてたかは後でみっちり聞かせてもらうが、今はここを切り抜けぇことには前に進めねぇ。俺はもう戦えねぇから、癪な話だが、今はあんたに頼るしか手がないんだ。しっかりしやがれ」
「痛いなぁ……実の父親を本気で殴るなんて酷いじゃないか。君だって少しは興味があるんじゃないのかい? もう十八だろう? それに彼女、なかなかの美人じゃないか」
「もういっぺんぶん殴られてぇのか?」
 ドスの利いたザキの声と、ポキポキと鳴る拳の音。その二つを聞いてロキは大人しく引き下がったが、その態度に変化はない。
「じゃ、大分脱線しちゃったけど、始めようか」
「……脱線の原因はあなたでしょう」
 流石のレイも呆れたように息をつく。とことんロキはマイペース、というより、自分のペースに他人を引き込んでいるかのようであった。

 突如出現した好男子、ロキ。彼の立ち振る舞いは、英雄とプラズマ団の戦いを激化させる種となるのであった。



今回も少し短めです。ここに来てまさかの新キャラ、ザキ、そしてミキの父親であるロキの登場です。一応、前作でも存在自体は明かされていました。というか、ミキがイリスの弟子となる間接的な原因を作った人物です。そして分かるとは思いますが、他の味方キャラを敗北に追い込んだ原因はこいつです。なんか恰好つけてますが、全ての元凶はこいつです。とりあえずロキについて軽く触れましたが、まだかなり余裕がありますので、アシドの手持ちについてでも書いときます。えーアシドはまずイメージタイプである毒タイプのスモーガス、それに研究者ということでジバコイル。ダンカンスは大昔のポケモン→化石→化石復元の機械といった連想。オンネットはなんか性格悪そうだったので、アシドに合わせました。さーてまだまだあとがきスペースがありますが、あまり長くするとあれなんでこの辺にしときます。では次回はイリスかロキか、どちらかのバトルにする予定です。とはいえ、あまり長くはなりませんが。それでは次回もお楽しみに。