二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 451章 立涌 ( No.645 )
- 日時: 2013/01/28 02:05
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
突然現れたアシドは上機嫌に笑っており、エレクトロもどこか満足げな表情をしている。
「アシド、例のあれは見つかりましたか?」
「おうよ。なかなか探すのに手間取ったが、ま、この僕にかかればなんてことはない。きっちり見つけてやったよ、ほら」
そう言ってアシドが掲げたのは、彼の掌よりも少し大きい、なにかだった。
三角錐の形をした物体で、先端部から灰、白、黒、といった配色。底面には黄色い錐体が逆方向を向いてはまっている。
イリスはそれを見ても、どういうものなのかは分からない。それでもあえて言うなら、楔のようなものだと思った。
「よくやりましたよ。それにしても、見つけるのに苦労しましたね。ソウリュウに安置されていたものを、カゴメ、サザナミ、ホワイトフォレストと場所を移し、一気に飛ばしてヒオウギとは」
「まったくだ。お陰で場所を特定するのに随分と時間がかかっちまった。ソウリュウのジイさんも面倒なことしてくれるぜ」
「それは……なんだ」
蚊帳の外にされていたイリスが口を開く。
アシドが持つそれがなんなのかは分からないが、なにか重要なアイテムであろうことは予測できる。なら、ここでみすみす持ち帰らせるわけにもいかない。
「これか? さあな。正直、これがなんなのかは僕にゃ分かんねーし、興味もねーなー。ゲーチスが取ってこいつってただけだしよー」
アシドはそんなことを言いながら、その物体を白衣のポケットに押し込んだ。
「ただ、キュレムと、レシラム、ゼクロムに関係するものであることは確か、らしいぜ。ゲーチスがそんなこと言ってたような気がするってだけの話だがな。ケヒャハハハ!」
どうやらイリスの予想は当たっていたようだ。だったら、やはりこのまま持ち帰らせるわけにはいかない。
「こうなったら双子は後回しだ。行くぞ、リーテ——」
「ちょっとタンマー。ドンパチするならあたしも混ぜてー」
【迎エニ来タゾ、『エレクトロ』、『アシド』】
イリスがリーテイルを繰り出そうとしたその時、音もなく現れた一つの人影と、雲をかき分けるようにして現れた一つの巨体。
忍装束に身を包んだ焦炎隊に属するプラズマ団の一人、ハンゾウ。そしてハンゾウの背からヒョコッと顔を出す7Pの一人、フレイ。
空から降りて来たのは超巨大なドラゴンポケモン、ドラドーン。その背に乗るのは同じく7P、ドランとレイだ。
7Pのうち五人が、この場に集まった。
「来ましたか……それでは、我々はこれでお暇させて頂きましょうか」
「目的のモンも見つかったことだし、僕はさっさと帰って研究の続きをしたいとこだぜ」
「さっきはあんなこと言ったけど、今日はもう大満足だしー、英雄君とドンパチするのはまた今度ねー」
「わたくしも、もうあなたと語らうことはありません……あとはガイアさんにでも任せます」
【行クゾ、『ドラドーン』】
プラズマ団一行は次々とドラドーンに乗り込んでいき、あっという間に飛び立ってしまう。だがその間際に、
「英雄、イリス。あなたも薄々感づいているでしょうが、我々の作戦はもうすぐ、最終段階へと移行します。もうあと一月もあれば冬、境界の水晶のエネルギーが溜まり、キュレム復活の準備が整う。そして、その時が我々とあなた方の雌雄を決する大戦となるでしょう。どうか、その時を楽しみにしていてください。では——」
エレクトロはそう言い残し、今度こそ去っていった。
結果的に、プラズマ団は目的を達成してしまったが、それでもイリスにおけるタスクの一つは解消された。だから、次は、
「リオさん……」
イリスがこの場に出て来てから、ずっと俯いたままのリオだ。漠然とした物言いだが、彼女をなんとかしなくてはならない。
だがイリスにはどうしていいのかは分からない。正直に言って、イリスも彼女が負けるとは思わなかったし、直接戦ったことは今まで一度もないが、それでも彼女の方が格上だと認めていた。ゆえ彼女が敗北することはイリスにとっても認められない。
ゆえに、どう彼女に言葉をかけてればいいのか、分からない。
そんな状況に頭を抱えていると、また新しい人物が、この場に現れる。
「アキラ、さん……?」
その人物とは、アキラだった。ここまで走って来たのか、呼吸は乱れ、息も荒い。しかも全身ずぶ濡れだ。そんな彼であったが、その眼は、真剣そのもの。微塵も疲れを感じさせない。
「悪ぃ……いきなり出て来てこんなこと言うのもなんだけど……ここは、俺に任せてくれ」
アキラはまっすぐなまなざしでイリスを見据える。イリスも、この場はアキラに任せた方が良いだろうと判断する。少なくとも、リオの幼馴染である彼ならば、自分より側にいる人間としては相応しいだろうと思ったのだ。
「……はい、分かりました。それじゃあお任せします」
「ああ」
その後。
イリスはウォーグルとデンチュラを探し、下っ端に襲われていた少女の下へと訪れた。
少女は無事帰宅できたようで、リオルも大事はない。他の住民たちにも怪我などはなかったらしく、ヒオウギシティ自体には特に被害はなかった。
それでもまだ街は軽くパニック状態だったので、次の街、サンギシティに行ってみれば、ここもプラズマ団の影響が出ていたようで、住人たちは軽く錯乱している。
というわけで現在、イリスはタチワキシティのポケモンセンターにいるのだった。
『そうか。ヒオウギにプラズマ団が向かったのは、その楔のようなものを手に入れるためだったのか。こっちは特に大きな動きは見せていなかったし、もしかして囮だったのかも。うん、分かった。じゃあその楔については、僕の方で調べてみるよ。君はゆっくり休むといい。じゃあね』
「はい、それじゃあ」
イリスはライブキャスターの通信回線を閉じる。
とりあえず一段落が付いたのでキリハに報告をしていたのだが、セイガイハシティでは特に大きな動きはなかったらしい。なのでキリハも大したプラズマ団とは戦わず、下っ端を数人倒しただけに終わったとのことだ。
「さて……ちょっと早いけどもう寝ようかな。明日こそ、父さんと連絡取ってバトルしたいし」
時刻は午後九時。まだ寝るには早い時間だが、唐突に現れるイリゼのことだ、突然バトルを挑んできても不思議ではないので、いつでもバトルが始められるよう、体を休めておきたい。
そう思い立ち上がったその時、イリスは声をかけられた。
「そこの君、ちょっといいかな?」
「はい?」
振り向くと、そこに立っているのは一人の男だ。若いように見えるが、年齢を特定できない不思議な顔立ち。赤黒い髪に、眼鏡を掛けており、その奥の糸のように細い目は、どこか不思議な雰囲気を出している……と言えば聞こえはいいが、率直に言って胡散臭い。
見たことのない人物だが、それと同時に誰かに似ているような気がする。
そんなことを思うイリスに構うことなく、男は話を続ける。
「間違ってたらごめんだけど、君がイリス君かな?」
「え? えっと、まあ、はい……」
いきなりの質問に戸惑ってしまい、曖昧に返してしまう。
なんで自分のことを知っているのだろうと怪訝に思うイリスとは対照的に、男は嬉しそうに声を上げた。
「そうか。君がイリゼの子か。うん、やっぱりお父さんに似ているね」
一人でうんうん頷いている男だが、そこにイリスには聞き逃せない言葉が含まれていた。
「……父さんを知っているんですか?」
「うん、知っているもなにも、ボクと彼は大親友さ。ベストフレンドだよ」
男はやはり満足そうに語る。まさかあんな異形の中年に、親友と呼べる人がいたとは、とイリスは驚きを隠せない。
「そういえば自己紹介がまだだったね。ボクはロキ。子供二人、特に娘が世話になっているね」
「子供、娘……? ……ああ!」
言われて、イリスは気付く。
「もしかして、ミキちゃんとザキさんの、お父さん……?」
「うん、そうだよ」
よく見れば、確かに顔つきがザキと似ているような気がする。ザキはいつも不機嫌そうなしかめっ面だが、ザキが笑うとこんな感じなのだろうかと、どうでもいいことを思った。
「さて、イリス君。ちょっと君に頼みごと……ううん、違うな。来てほしいところがあるんだ」
「来てほしいところ? 僕がですか?」
「うん。そんなに長くはかからないだろうし、どうかな?」
イリスは考える。確かにロキは胡散臭そうな外見だが、それでもミキやザキの父親なら信用できるだろう。正直、一刻も早くベッドに入りたいところだが、少しくらいなら、とイリスは了承する。
「うんうん、そう言ってくれると思ってたよ。それじゃあ、付いて来てくれ」
そうして、イリスはロキの後に付いて行く。
その先になにが待ち構えているのか、知らないままに——
今回はバトルがない回でした。アシドが持っていたものがなんなのかは、まあ概ね予想できるでしょう。そして後半ではロキがイリスをとある場所へと連れ出します。どこへ連れて行くのかは、次回明らかになりますね。そういえば白黒は最近、ホワイト2を最初からチャレンジモードでプレイしているのですが、中々面白いです。ジムリーダーのポケモンが一体追加されているので、バトルがスリリングになります。ではあとがきもこの辺にして、次回をお楽しみに。