二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 495章 炎上 ( No.732 )
日時: 2013/03/03 14:55
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 ガラッと。
 今度はさっきよりも控えめに、言い換えれば、普通に襖が開かれた。
 ハンゾウはまたぞろティンが戻って来たのかと思い身構えるが、今度はティンではなかった。
「失礼します」
 入って来たのは、レイ率いる氷霧隊の工作員、サーシャだった。室内用なのか、若干カジュアルな軍服に身を包み、腰には小経口の黒い拳銃を吊っている。
 サーシャの姿を見て、ふとハンゾウは思う。時代に即している工作員と言えば、ハンゾウよりも佐0社の方がよっぽど即している。やはり忍というものは、時代錯誤なのかもしれない。
 だがそんなことはおくびにも出さず、ハンゾウは静かに口を開く。
「……また珍しい客人がきたものだな。拙者に何の用だ? とりあえず座れ。茶くらいは出すぞ」
 そもそも他の部隊の居住区に来ること自体、珍しいことなのでハンゾウの言うことはもっともだ。しかし相手が相手なので、きっと断るだろうと思い、茶を出すつもりはさらさらなかったが。
 そして案の定、サーシャは首を横に振った。
「結構です。用件もすぐに済みますので。それより、フレイ様がどこにいるか、ご存じないでしょうか? 少し用事があるのですが……」
 どうやらサーシャもフレイ絡みの用件らしい。フレイは基本的に自分のことしか考えていないため、知らず知らずのうちに面倒事を引き起こす種となっていることが多々ある。まあ、それも彼女は「一級フラグ建築士フレイちゃんだよー」などと言って、むしろ喜んでいる節があったが。
 それはともかく、ハンゾウはフレイの所在は知らない。この時間なら部屋にいる可能性が高いが、機動力が低いわりに神出鬼没なので、実際はどうだか分からない。
「悪いが、拙者はフレイ殿がどこにいるのかまでは把握していない」
 それに、ハンゾウはなにもフレイに付きっきりというわけではないのだ。外での活動なら、終始どこかで監視しているものの、安全な基地の中では、他に世話する者がいるのだ。
 その辺を勘違いするものが非常に多いため、ハンゾウは言えるうちに言っておこうと、続けた。
「拙者はフレイ殿の護衛が主な任務ではあるが、基地の中ではそれも意味はなかろう。なによりフレイ殿は、己の世話を他の方に任せている。拙者の出る幕ではないのだ」
「……その、他の方とは?」
 面倒なことにならないようあえて名前は伏せたのだが、サーシャは喰いついてきた。どれだけ彼が嫌いなのだろうと思いつつも、ハンゾウは即答する。
「フォレス殿だ」
 途端、サーシャは露骨に不機嫌そうな顔をした。
「貴方は……それでもいいですか? あのフォレス様ですよ? 何をしでかすか分かりませんし、むしろ心配では?」
 などとサーシャは言うが、ハンゾウはフォレスがどれほどフレイに献身的であるかを知っている。口では面倒だのだるいだの言ってはいるが、それでも最後にはきっちり面倒を見ているのだ。それも毎回。彼の面倒見の良さには、頭が下がる。
 なので再び、ハンゾウは即答する。
「いや、心配無用だ。フォレス殿がフレイ殿に手をあげることはありえぬ。それに、フレイ殿はフォレス殿に世話を焼かれたがっている節がある。ならば拙者たちは、フレイ殿の意向に従うまで」
「……そうですか。では、お邪魔しました」
 真っ向から意見が対立し、サーシャはなにか言いたげだったが、他に優先すべきことがあるようで、ゆっくりと襖を閉めて去っていった。
「…………」
 そしてハンゾウは、サーシャがいなくなったことを、気配が遠ざかっていくことを確認し、目を閉じる。
 サーシャはプラズマ団でも屈指の工作員。工作員とは、言い換えれば諜報員でもある。さらに言えば、現代に生きる忍とも言えなくはないだろう。
 正に時代に即した忍。姿こそ違えどやっていることはほぼ同じだ。それだけで彼女は、特に弊害もなく工作員としてやってきた。
 しかしハンゾウは、忍は無理をしていた。無理をして自分たちという存在を残そうとした。その、無理をした末路は、酷く悲惨なものであった——



 我が目を疑った。
 ハンゾウは今まで忍として生きており、一瞬の物事を視覚でも判断せざるを得ない状況に何度も身を置いていた存在であるため、自身の目には自信を持っていた。そうでなくとも、今まで我が目を疑うほどの事態に直面したことはない。
 逆に言えば、今は生涯初めて我が目を疑うほどの事態が起こっているというわけである。
 ハンゾウが見たものを端的かつ率直に、分かりやすく言うなら、こうだ。

 里が燃えていた。

 里全体が見渡せる唯一の場所。とある山の切り立った場所で、ハンゾウは轟々と燃える生まれ故郷を見た。
 忍の里も、カモフラージュの町も、すべてが燃えている。宵闇で光る赤い炎が、里を暗く照らしている。
 自分が任務から帰る途中に何があったのか。ハンゾウはいてもたってもいられず、ボールを取り出した。
「出て来い、モアドガス!」
 出て来たのは、三つ子のドガース、モアドガスだ。
 ハンゾウはサッとモアドガスの体の上に飛び乗り、
「モアドガス、急いで里に降りろ!」
 そう指示を出した。
 そして指示通り、モアドガスはガスを噴出させながら里へと下る。



 里に降りたハンゾウが真っ先に向かったのは、自身が仕える主の下だった。忍である以上、ハンゾウにとって最も大事な人間は主だ。その無事を確認することが、最優先事項だ。
 忍者屋敷というにふさわしい外観の家屋の奥、隠し扉になっている壁をけ破るようにして、ハンゾウは主の部屋へと踏み入った。
 しかし、そこには、
「……っ!」
 地に伏した主の姿と、その周りには複数の見なれぬ者たちがいた。全部で五人。皆それぞれ違う服装をしているが、共通したデザインではある。恐らく何かの組織なのだろう。
「貴様ら……何者だ」
 とは言うが、ハンゾウは既にこの者たちが何者であるか、概ね見当がついている。
 平和維持を謳い、時代に即さない忍を狩る組織。ここへ来る途中にも、知らない人間の気配を多々感じたので、かなり大勢で来たのだろう。
 組織の者たちはハンゾウの声で振り返り、
「……なんだ。まだ残ってる奴がいたのか。誰だよ全員捕縛したって言ったのは」
 リーダー格と思しき男がそう言って、モンスターボールを取り出した。
「まあ相手は隠れるのと逃げるのが得意な奴らだし、一人二人くらいは取り逃がしてる奴がいても不思議じゃないか」
「貴様ら……!」
 ハンゾウもボールを構え、戦闘態勢に入る。死なずとも主を失った今、ハンゾウにできるのは仇討くらいなものだ。いや、せめて仇を取らねば、気が済まない、と言った方が正しいか。
 こちらがやる気になったのを見て、相手の残る四人もボールを取り出し、それぞれポケモンを繰り出す。
「出て来い、ドータクン!」
「行け、ドラピオン!」
「やれ、マグカルゴ!」
「頼んだぞ、メガヤンマ!」
 そしてリーダー格の男は、
「叩きのめせ、ハンタマ!」
 目の前に立ちふさがるポケモンたちを見つめ、ハンゾウは苦い顔をする。
 なぜなら、相手は確実にこちらに対して有利なポケモンを使用しているからだ。忍はその性質上、地味かつ静かなポケモンを好む。そのため、毒や虫タイプのポケモンを多く所持する傾向にあるのだ。時代に即した忍の例として挙がった、カントーのジムリーダーや四天王も、毒タイプの使い手だ。
 だがこの組織の者たちは、あからさまに毒や虫タイプのポケモンに対し、有利なポケモンを繰り出している。こちらの技は通りにくく、逆に相手の技はこちらの弱点を突くようなものばかり。それが五体も並んでいては、いくらハンゾウでも一人で相手取ることなど無謀だ。
(しかし、拙者にできることは、もうこれくらいしか……)
 三つのボールを構え、ハンゾウは現在持ちうるすべてのポケモンを繰り出す。
「出陣だ、カミギリー! モアドガス! テッカニン!」
 繰り出すのは、やはり相手のポケモンたちには不利な毒や虫タイプが中心のポケモン。数でも相性でも不利なハンゾウに、勝ち目は薄い。
(しかし、今の拙者にできるのはこのくらい。我が主よ、その身を守れず、最期を看取ることもできなかった拙者にお許しを)
 心の中で嘆くように謝罪をして、ハンゾウは決死の覚悟で敵に向かう。
 その時ふと、彼の頭の中に一つの影が差した。赤い総髪の、自分を慕ってくれていた、町に住む少女——
(……あの娘は、無事なのだろうか)



第三節その三、起承転結の転ですね。サーシャが登場で再び回想中断です。ちなみにお気づきだと思いますが、第二節と第三節……というか二節から六節までは時間軸はほぼ同じです。サーシャとの話の内容も、二節で書いたものとほぼ同じですしね。ただ区切りと地の文、その他にも少々手直ししてますが。それにしても、敵の組織は随分と嫌らしいですね。先に出したとはいえ、あからさまにハンゾウに対して有利なポケモンを使っています。今のところ忍よりよっぽど狡いです。さて、では次回、結末というか、第三節終了です。お楽しみに。