二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 496章 邂逅 ( No.733 )
- 日時: 2013/03/03 18:59
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
暗い夜の森を駆ける影が一つ。木々の鬱蒼と生い茂る森の中で、音も立てずに走るというのは普通の人間ではまず不可能なことだが、しかし彼にとって音や気配を殺すのは呼吸をするかのように容易く、また生まれてから慣れ親しんだ森の中を駆け抜ける程度は、家の門扉を潜るようなものであった。
しかしそれでも、彼の表情は酷く苦しそうで、辛そうだった。焦燥や不安が巡り、迷いが渦巻いているかのようだった。
「……くっ、もう来たか」
彼——ハンゾウは足を止める。すると次の瞬間、目の前には一人の男が現れた。
「流石はニンジャって奴だな。逃げ足の速いこって。だが、俺たちに目をつけられたが最後、逃がしはしないぞ」
男はモンスターボールを取り出し、ポケモンを繰り出す。
「出て来い、バフォット!」
繰り出されたのは悪魔ポケモン、バフォット。悪・鋼タイプのポケモンだ。
「……くっ。出陣だ、テッカニン!」
ハンゾウもテッカニンを繰り出すが、厳しい表情をしている。
主の安否を確認すべく屋敷に向かい、最初に戦った組織の五人は、辛うじて退けた。しかしその後に現れた増援は、こちらが疲弊していたこともあり、逃げるのが精一杯だった。モアドガスもカミギリーももう戦えず、残るテッカニンにしろ、追っ手を振り切るために戦い、消耗している。そんな状態で、決して相性が良いとは言えないバフォットと戦うのは、無謀というものだ。
(確かに、勝利を収めるのは不可能に近い状況……しかし、逃げる隙くらいは、見出せるはずだ)
ハンゾウの生まれ育った忍の里は大昔、武士から派生したのか、戦争において討ち死にをするのは不名誉なことだと言われている。故にハンゾウも、今は壊滅同然の里の理念に従い、討ち死にだけは免れたい。どうせ捕まるのなら、自害した方がよっぽどマシである。
「バフォット、ぶち壊す!」
バフォットは凄まじい勢いでテッカニンに突進する。
「テッカニン、影分身だ!」
テッカニンも無数に自らの分身を作り出し、バフォットの攻撃を回避。さらに分身でバフォットを取り囲むことにより、バフォットを惑わそうとするが、
「そういうのは対策済みなんだよ! バフォット、マグネットボム!」
バフォットは磁力を帯びた爆弾を浮かび上がらせ、すべてのテッカニンへと一斉に放つ。爆弾は次々と分身を消していき、最後に残った鉄筋へと吸い付き、爆発する。
「テッカニン!」
体力が残り僅かだったテッカニンは、それだけで戦闘不能となってしまう。
組織の者たちは、本気でハンゾウたちを滅ぼそうとしているようで、忍の常套手段に対して、徹底的に対策をしている。毒を無効化する鋼タイプや、必中技のマグネットボムがいい例だ。
結局テッカニンは逃げる隙すら作れずにやられてしまい、これでハンゾウは、いよいよ打つ手がなくなってしまった。
「さあ、観念してもらうぞ。言っておくが、もうお前は逃げられないからな」
「…………」
それは分かっていた。男がバフォットを繰り出してから、こちらにいくつかの気配が近付いて来ることを、ハンゾウは察知していた。それが味方であると思えるほど、ハンゾウも楽観的ではない。
そして今まさに、ハンゾウは十人余りの組織の人間に、包囲されてしまった。
「くっ……こんな、ところで……!」
よぎるのは後悔の念ばかり。里が襲われるという時にその場にいなかった自分。忠誠を誓い、命を賭してでも守ると決めた主。そして、
(あの娘は、無事だろうか……)
最後に思うのは、自分を慕ってくれたあの町娘だった。無事である可能性は絶望的。しかし、気休めでもなんでも、そう思いたい自分がいた。
組織の者たちが包囲網をじりじりと狭めていく。逃げることはおろか、戦うことすらできない。己の忍としての人生が終了する。それは覚悟の上であったが、しかし、それでも気がかりなことは多い。
今まで生きてきた記憶を走馬灯のように思い出しながら、ハンゾウはゆっくりと目を閉じる。そして、次に目を開く時、
灼熱の熱気と共に、森が焦土と化した。
「……!?」
再び、ハンゾウは我が目を疑った。里が襲われる以上に、恐ろしいことが起こったと言っても過言ではない。
もはや諦めるしか道がないという時、次に目を開いた時が自分の最後だと思い目を閉じて、開いたらこの有様だ。
一瞬にして焼野原となった森。どうやらここら一帯だけが燃え尽きたようだが、本当に一瞬、瞬きをするかのような短い時間で、ここまで大規模なことをしでかすことができるというのだろうか。
組織の者たちは熱気に当てられ、気を失っている。訓練を受けているハンゾウは無事だったが、しかし今この状況に困惑しているのは確かだ。
その時、一つの人影が現れた。
「はー……だーるいなー」
それは、小柄な少女だった。鉄足ポケモン、メタグロスの上に乗り、うつ伏せで寝そべっている。その場に陸亀のような石炭ポケモン、ストータスが黒煙を噴いていた。恐らく、このストータスが森を消し飛ばしたのだろう。
非常に場違いな少女の登場に、ハンゾウは戸惑う。しかし彼にとって、その少女の姿は場違いなどという言葉以上の意味があった。
(馬鹿な……まさか……!)
少女の姿は、簡素な紅色の浴衣に、赤い総髪、眠たげな眼。背中に奇妙な模様の団扇を差してはいるものの、ほとんど彼女と同じ姿だ。
そう、ハンゾウが気にかけていた、町に住む娘だ。
まさか無事だったのかと思ったが、ハンゾウはすぐにその考えを振り払う。まず口調が違うし、ポケモンだって彼女の持っているものではない。
「あーあー、かったるいなー。なーんでゲーチスはあたしにこんなことさせるんだろー? こーいうのはフォレスの方がいいはずなのにさー。んー、なんか面倒になってきたしー、もう帰ってブログでも更新しよっかなー?」
メタグロスの上でゴロゴロしつつ、やる気なさ気にそんな事をいう少女は、そこで初めてハンゾウの存在に気が付いたようで、視線を合わせる。
「あっれー? ストータスの噴火の熱気を受けても無事な人いたんだー。もしかして噂に聞くニンジャさんかなー?」
メタグロスからべちゃっと降りて——もとい落ちて。匍匐前進でハンゾウの足元まで少女はやって来る。
「へー、まだ生き残りがいたんだー。もうみんな捕まって連れてかれちゃったのかと思ったー」
興味深そうにハンゾウを見上げる少女。そこで初めて、ハンゾウはこの少女に助けられたことに気付いた。
(……このような娘に救われるとは、拙者も落ちたものだな……しかし)
ハンゾウは静かに片膝を着く。そして頭を垂れた。
「んー?」
少女は首を傾げて疑問符を浮かべていたが、ハンゾウは構わず、
「そなたに願う。どうか、拙者の主となってはくれないだろうか……」
と、懇願する。そして、
「いーよー」
少女は即答した。それはもう、呆気ない程に。
これが、7Pフレイと、ハンゾウの最初の邂逅。そしてこの一件で燃え尽きた森、炎によって焦土と化した地が、焦炎隊の名前の由来であった——
「ハンゾウー」
サーシャが去ってすぐ、ズザザザザとゆるやかに襖が開かれた。このとろい感じの開け方と声は、プラズマ団の中でも一人しかいない。
「……フレイ殿」
匍匐前進で入室してきたのは、フレイ。いつものように赤い簡素な浴衣を着て、背中にはプラズマ団の紋章が刻まれた団扇。眠たげな垂れ目。
そして本人曰くチャームポイントの赤いポニーテールは、今日は見られなかった。今はストレートロングの赤髪となっている。
ハンゾウも、フレイが髪を下ろしているところは初めて見た。なかなか新鮮で悪くはなかったが、何分フレイが小柄なのに対して髪が長いので、髪に埋もれているように見える。軽くホラーだ。
フレイは入って来るなりハンゾウの所へと寄って来る。少し不機嫌そうだ。
「ハンゾウ聞いてよー。今日さー、起きたらフォレスがいないんだよー。」
「それで、どうなされた」
「うーんとねー、とりあえず布団から出て、寝間着のまま来たんだけどー」
寝間着というが、いつも同じ浴衣を着ているようにしか思えない。浴衣も元は寝間着なのでおかしくはないが。
「髪括ってー」
ゴム紐を差し出しつつ、フレイはそんなことを言ってきた。
「いつもはフォレスがやってくれるんだけどー、どこにいるか分かんないんだよねー。だからハンゾウが代わりにやってー」
「……御意」
とりあえずハンゾウは、フレイを囲炉裏に座らせる。そしてフレイの赤い髪を手に取った。
(……これがあの娘に対しての償いになるとは思えん。だが、今の拙者には、これくらいしか出来ることがない。せめて、この方を最後までお守りするのが、拙者の使命にして、残された唯一の道だ)
その使命を果たすためなら、英雄だろうと、世界であろうと敵に回してみせる。
そんなハンゾウの決意が打ち砕かれるのは、そう遠くない未来だ——
第三節、これにて終了です。今回は本当にまともなバトルなかったですね。それとかなりグダグダになった感があります。やっぱバトルがないとどうしても上手く行かない気がしますね。ともあれ第三節も終了し、次は第四節 思慕。森樹隊の出番です。森樹隊唯一の直属配下、ティンがなにをしでかすのか。次回をお楽しみに。