二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 501章 砂嵐 ( No.742 )
日時: 2013/03/09 14:31
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 他の連中も思っていることだろうが、そろそろこの組織も潮時だ。
 しかし連中と自分の一番の違いを挙げるなら、この組織における思い入れだろう。思い入れという表現もおかしい気がしないでもないが、この際そんなことはどうでもいい。重要なのは、この組織と自分を如何に容易く切り捨てられるかだ。
 連中と同じく、自分もこの組織に入る条件として奴からは恩恵を受けている。正直、この組織の研究環境は相当なものだ。同じ環境を探せと言われても、そう簡単に見つけることは不可能に近い。それだけは惜しいが、その他のものはゴミクズ同然だ。なくなったところで痛くもかゆくもない。どころかむしろ清々する。
 ……と、思っていたのも昔の話か。今ではほんの少しだけ、惜しいと思ってしまう。連中との別れが。本当に、ほんの少しだけだが。
 それはともかく、自分はこの組織から抜けたら何をする? 決まっている。いつも続けてきたことを、別の場所で続けるだけだ。それだけは揺るぎない。
 ちょうど今、いい研究テーマが見つかった。そのためのデータだけは、組織を抜ける前に手に入れたいところだ。
 英雄の弟子。英雄に最も近い場所で、最も長く共にいた奴が、英雄の影響をほとんど受けていない。そのデータが欲しい。できることなら、その兄と、最近見つかったという父親の分も。
 そしてもう一つ。英雄の研究を進める上で発見した、奴のデータ。この偉大で天才なる我が手でもって収集したいデータがある。
 英雄の父親、前世代の英雄。奴のデータは、非常に興味深い。是非とも、直々に戦ってみたいものだ——



 プラズマ団基地唯一のラボ。その最深部にて、7Pアシドはいつものように巨大なコンピューターの前を陣取っていた。
 いくつも表示されるディスプレイ。それらを見つつ、高速でタッチパネルを操作する。一人の人間が処理できる情報量とは到底思えないが、アシドはそれを、口笛を吹きながら軽くこなしている。
「……っと、こんなもんか。あとはここが浮上する直前くらいに微調整するくらいだな。ケヒャハハハ! これを見たらあいつはどんな反応すんだろうな。再び復活する古生代ポケモン、しかもこの僕が徹底的にチューンアップしたスペシャルバーションだ」
 アシドはタッチパネルを操作し、開いていたディスプレイをすべて閉じ、新たな画面を開いた。
「次はこっちか。ちっ、相変わらず英雄共々は見つかんねえな、どこ行きやがったんだ……だが、弟子の方は一向に動く気配がない。ゲノセクトの調整も大体終わったし、そろそろこっちに手ぇ出してみるか。おい、ザンバ!」
 アシドが暗闇に向かって叫ぶと、そこから一つの影がゆっくりと出て来た。
 アシド毒邪隊の直属部下、ザンバだ。
「お呼びでしょうか」
「ああ。ちょっくら英雄の弟子の所に行ってこい」
「人数はどうしましょう? 私一人ですか?」
「そうだな……向こうは三人だが、レイの報告通りの奴なら、たぶん父親の方は手ぇ出さねえだろ。だから二人だ」
 指を二本立て、アシドはもう片方の手でパネルを操作し、新しい画面を表示する。
「二人……ちょうど手の空いてそうな奴は……ちっ、ロクな奴がいねぇ。だが、早くしねぇと時間も迫ってるしな……気は進まねぇが、双子を動員するか」
「双子というと……彼らですか。聖電隊の」
「ああそうだ。エレクトロが言うには、相当な実力者らしいが……どうなんだかな。あいつらに仕事を任せるのは不安だぜ。ま、つっても今回はデータの計測。その役目はお前だから、双子はバトル専門になる。まだマシか」
 言ってアシドはさらにパネルを操作する。どうやら、その双子と連絡を取っているようだ。
「つーわけでザンバ、命令だ。英雄の弟子とその兄……ミキ、ザキ兄妹のデータを収集してこい」



 ストレンジャーハウス一階。そこではペアが二組で、対面していた。
「……まさか、わざわざこんなとこまで来るほど暇な奴らだとは思わなかったぜ。そんなに人様の特訓する様子が楽しかったか?」
「べっつにー。ただ基地全部の掃除とバトルのどっちがマシかと一時間考えて、バトルの方が楽だと思っただけ」
 ペアの片方は、ミキとザキ。二人とも少々薄汚れた格好をしていて、髪も乱れているが、もう片方の二人組を見て険しい表情をしている。
 そのもう片方というのが、ツユサとウズメ。先日ヒオウギでイリスを追い詰めた二人組だ。
「消極的なバトルの申し出に、たった二人ってことは……私たち倒すため、とかじゃなさそうだね」
「どーだか。案外、近くに伏兵がいるかもしれねえぞ。ま、そいうのは親父に任せるが……つーかあいつどこ行った。トイレにしても長すぎるだろ」
 言ってザキとミキは、ボールを構える。ただバトルをするというのなら、特訓中の二人にとっては望むところだ。
「行くよ、カミギリー!」
「出てこい、ブーバーン!」
「出て来い、ハガネール!」
「行け、ボスゴドラ!」
 ミキとザキはそれぞれカミギリー、ブーバーンを繰り出す。
 対してツユサが繰り出したのは、鉄蛇ポケモン、ハガネール。複数の功績が連結した蛇のようなポケモンで、天井の高いストレンジャーハウスの天井に頭がつくほど巨大だ。
 ウズメが繰り出したのは、鉄鎧ポケモン、ボスゴドラ。分類通り鉄の鎧で覆われた、二足歩行の怪獣のようなポケモン。ハガネールほどではないが、こちらも大きい。
「鋼タイプ……カミギリーじゃきついかも……」
 カミギリーの覚える技のほとんどは、鋼タイプによって半減されてしまう。そのためミキは少し曇った表情を見せるが、
「安心しろ、俺がまとめて葬ってやる」
 ザキはミキそう言葉をかけ、ブーバーンが一歩前に出る。そして、
「ブーバーン、大地の怒り!」
 次の瞬間、ストレンジャーハウスの床板が吹き飛び、大量の土砂が噴出される。痛んでいる家を破壊するかの如き勢いだったが、この家を支える大きな柱は予めロキが補強しているので、問題ない。
 ともあれ大量の土砂がハガネールとボスゴドラに襲い掛かる。効果抜群なので、当たれば相当なダメージになるが、
「ハガネール、ジャイロボール!」
 ハガネールはボスゴドラを覆うようにとぐろを巻き、そのまま渦のように体を回す。高速でボスゴドラの周りを回転するハガネールは、ボスゴドラの盾となって土砂による攻撃をシャットアウトしてしまう。さらに、
「砂嵐!」
 そのまま回転を続け、大量の砂を竜巻のように舞い上げた。それにより家の中は砂で充満し、砂嵐が吹き荒れる。
「天候を利用したコンボ……師匠の言った通りだ」
 ミキは砂嵐に目を細めながら呟く。もっともイリスの場合は強い日差しで、コンボというほどではなかったが。
 しかし砂嵐の中だと、岩、地面、鋼タイプ以外のポケモンはダメージを受ける上、岩タイプのポケモンは特防が上がる。特殊技がメインのブーバーンにとっては、戦いにくくなったことだろう。
「ハガネール、捨て身タックル!」
「ボスゴドラ、ヘビーボンバー!」
 二体の攻撃はまだ終わらず、ハガネールはブーバーンに、ボスゴドラはカミギリーにそれぞれ突っ込んで来る。
「カミギリー、かわして爪とぎ!」
「ブーバーン、大地の怒りでぶっ飛ばせ!」
 真正面からは太刀打ちできないカミギリーは大きく横に跳んで攻撃をかわし、床に爪を擦りつけて研ぎ澄ます。
 逆にブーバーンは土砂を噴出し、真っ向からハガネールを迎え撃つ。しかしダメージは通っているのだろうが、ハガネールは土砂を突き破り、ブーバーンを吹っ飛ばして壁に叩き付けた。
「もう一度爪とぎ!」
「させるか! ストーンエッジ!」
 再び爪を研ぐカミギリーを、ハガネールは鋭い岩を乱射して止めようとするが、機動力ならカミギリーの方が圧倒的に高い。ストーンエッジは軽くかわされ、カミギリーは爪を研いで攻撃と命中を高める。
「起き上がれブーバーン! ダイヤブラスト!」
 砂煙が舞う中ブーバーンは体を起こし、白色の爆風を放ってボスゴドラを攻撃。効果いまひとつに加え砂嵐で特防が上がっているので、ボスゴドラへのダメージは少ない。さらに、
「メタルバースト!」
 ボスゴドラは鋼の光線を発射し、ブーバーンを再び壁に叩き付ける。
 メタルバーストは相手から受けたダメージを1,5倍にして返す技。元々のダメージが少なかったので、ブーバーンへのダメージもあまりない。
「カミギリー、辻斬り!」
「ハガネール、ジャイロボール!」
「ブーバーン、オーバーヒート!」
「ボスゴドラ、諸刃の頭突き!」
 隙を見つけては斬撃を繰り出すカミギリー。回転しながら動き回るハガネール。爆炎を放つブーバーン。凄まじい勢いで突貫するボスゴドラ。
 ストレンジャーハウス内で暴れまわるポケモンたちをよそに、一つの影が、家の階下へと進んでいく——



第五節 探究、毒邪隊の出番なのに、戦ってるのはツユサとウズメです。まあ、ザンバのバトルもありますけどね。ちょいネタバレになりますが。現状では、相性的に双子が少し有利ですかね。それでは、ストレンジャーハウスの地下へと足を踏み入れたのは誰か。次回もお楽しみに。