二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 505章 御寝 ( No.748 )
日時: 2013/03/12 22:06
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「行きますよ、サマヨール!」
 ザンバが繰り出すのは、手招きポケモンのサマヨール。一つ目のミイラのような姿をした、ゴーストタイプのポケモンだ。
「サマヨールかぁ……うん、まあサナギラスがバンギラスに進化してるのを見て、その可能性も考えていはいたかな」
「そうですか。しかしバンギラスとは違い、サマヨールは進化しても戦術は変わりませんよ。ただ、耐久力だけは上がりましたがね」
 言って、サマヨールはジッとシャワーズを見据える。そして、
「鬼火です!」
 直後、サマヨールの周囲に青白い火の玉が無数に浮かぶ。火の玉はゆらゆらと不規則に動き、シャワーズへと迫るが、
「溶ける」
 体を液状化させたシャワーズは、鬼火を回避。
「ハイドロポンプだ」
 そしてサマヨールの背後に回り、大量の水を噴射する。
「もう一度ハイドロポンプ」
「守る!」
 続けて水流を発射するシャワーズだが、二度目の攻撃は守るで防がれてしまう。
「だったら連続で行こうか。シャワーズ、ハイドロポンプ」
 守るでも守りきれないような連続攻撃を仕掛けるつもりで、シャワーズはさらに水流を噴射する。しかし、
「サマヨール、影分身!」
 突如、サマヨールの姿がブレる。そして次の瞬間には二体目のサマヨールが現れ、さらにその次は三体目、四体目と、自らの分身を増やしていく。
 終いには、シャワーズは大量のサマヨールに囲まれてしまった。
「おやおや、これはホラーな光景だねぇ。シャワーズが怖くて眠れなくなっちゃうだろう?」
 発言とは裏腹に、あまり怖がっているようには見えないロキ。どころか楽しそうにすら見える。
「シャワーズ、ハイドロポンプ」
 とりあえずなのか、シャワーズは水流を噴射するが、影分身を破壊しただけに終わってしまった。
「無駄ですよ。これだけの分身を作り出せば、本物を見抜くのは困難です。サマヨール、毒々!」
 無数のサマヨールはそれぞれ毒液を発射する。効き目があるのは本物だけだが、シャワーズからすれば四方八方から毒液を飛ばされているようなものなので避けようがない。
 案の定、シャワーズは本体が放ったらしい毒液を受け、猛毒状態になってしまう。
「バンギラスもルナトーンも、猛毒でやられてしまいましたからね。せめてもの意趣返しです」
 猛毒を受け、体を蝕まれるシャワーズ。今までのバトルで受けたダメ—もあるので、そう長くはもたないだろう。
 しかし、ロキは笑みを崩さなかった。
「鬼火、守る、影分身に、毒々か……うん、なるほどね」
「どうしましたか? 負けが確定し、もう笑うことしか出来ませんか?」
「いやいや、そうじゃないよ。むしろボクは、負けないことが確定したよ」
「……?」
 ザンバは首を傾げる。残り体力の少ないシャワーズが、高耐久のサマヨールを倒せるとは到底思えない。こちらには守ると影分身もあるので、シャワーズが倒れるまで凌げばそれでいい。普通に考えれば、もうザンバの勝利は確定しているようなものだ。
 しかしザンバは気付いてしまった。シャワーズがまだ三つしか技を出していないことを。そして、ロキの先発が、アメリシアだったことを。そして、ロキがシャワーズのことを、眠り姫と呼んでいたことを——

「シャワーズ、眠る」

 突如、シャワーズはその場に崩れ落ちるようにして、睡眠に入る。
「なっ……!」
 ただ眠っただけなのだが、ザンバは驚愕の表情となる。
 眠るは自身を眠り状態にすることで、体力を全回復する技だ。よってシャワーズが今まで受けたダメージはすべて回復される。
 しかしここで重要なのは体力回復よりも、自身が眠り状態になること。眠るによる状態異状は、他の状態異状に上書きされる。つまり、事前に毒状態になっていたポケモンが眠るを使えば、毒は消え、代わりに眠り状態になるのだ。
 それはすなわち、
「君のサマヨールに攻撃技はない。眠り状態のポケモンに対して状態異状は効かないし、起きて状態異状にしても、また眠ればいいだけだ」
「……!」
 自らをあえて眠り状態にすることで、耐久型のポケモンの戦術を潰す。しかしロキも、サマヨールに対して決定打があるわけではない。
「さぁ、泥試合を始めようか。なぁに、上で戦ってるザキ君とミキちゃんが勝つまでの辛抱さ。それまで、ゆっくりしてようじゃないか——」



 一階のミキ&ザキ対ツユサ&ウズメのバトルも、終わりに差し掛かっていた。
 ツユサはドサイドン、ウズメはメタグロスを最後に繰り出し、ザキのエレキブルを一蹴。場にはその二体に、フィニクスとテペトラーが並んでいる。
「ドサイドン、剣の舞!」
「メタグロス、毒々!」
 ドサイドンは剣のように鋭く舞い攻撃力を高め、メタグロスは毒液を放ってフィニクスを毒状態にする。
「テペトラー、氷柱落とし!」
 テペトラーは一直線にドサイドンへと駆け、その途中で何本もの氷柱を発射。ドサイドンに突き刺す。
「サイコパンチ!」
 そしてドサイドンへと突っ込むように念力を纏った拳を突き出すが、
「カウンター!」
 ドサイドンも同時に拳を繰り出しており、テペトラーの拳を掻い潜って鉄拳を叩き込む。
「ぐっ、テペトラー……!」
「岩石砲!」
 氷柱落としのカウンターを受け、吹っ飛ばされるテペトラー。そこにドサイドンが追撃の手を構える。
「兄さん……フィニクス、ダイヤブラスト!」
 だがそこにフィニクスが飛び出し、煌めく爆風でドサイドンの注意を逸らす。
「ハリケーン!」
 続けて巨大な突風を放ち、ドサイドンを攻撃。しかし効果いまひとつなため、決定打には乏しい。
「まだまだ! フィニクス、ダイヤ——」
「メタグロス、ブレインバースト!」
 フィニクスがさらに追撃しようとするが、そこをメタグロスに邪魔される。メタグロスは脳の断片のようなエネルギー波を放ち、フィニクスを攻撃した。
「コメットパンチ!」
「岩石砲!」
 さらに今度は二体で追撃してくる。ドサイドンは手を構え、メタグロスは拳を突出す。しかし、
「俺を忘れてんじゃねぇだろうな! テペトラー、スプラッシュ!」
 そこに飛び出したのはテペトラー。テペトラーは水を纏ってドサイドンに体当たりし、態勢を崩す。
「ミキ! 一気に叩き込むぞ! インファイト!」
 さらにテペトラーは拳による連続攻撃をドサイドンに叩き込む。さしものドサイドンも、攻撃を受けるだけで精一杯のようだ。
「ぐっ……大地の怒り!」
「流星群」
 反撃にとドサイドンは防御しながら大地を踏み鳴らそうとするが、そこにフィニクスが放つ流星の群れが襲いかかる。テペトラーも最後の一撃を繰り出そうとしているので、ドサイドンの攻撃は間に合わないだろう。
 しかし、そこに横槍を入れる影が一つ。
「メタグロス、地震!」
 少し離れた位置から、メタグロスは巨大な地震を引き起こす。
 地面を割るような勢いで放たれる衝撃波はドサイドンとテペトラーをまとめて吹き飛ばした。効果抜群で大ダメージを受けていたドサイドンと、インファイトで防御力の落ちていたテペトラーは、その一撃で瀕死寸前まで追いやられる。
 予想以上に苦戦を強いられているミキとザキだったが、ここでザキはミキに呼びかける。
「ミキ……行けるか?」
「先に流星群を撃っちゃったから不安だけど……たぶん、大丈夫」
「なら、行くか」
 その言葉を皮切り、二体は動き出す。
 しかし、

「お二方、今すぐ撤収しますよ!」

「え?」
「は?」
 どこからともなく現れた鉢巻の男——ザンバは、ツユサとウズメのボールを素早く奪い取ってポケモンを戻すと、二人の首根っこを掴み、瞬く間にストレンジャーハウスから出て行ってしまった。
「我々の目的は概ね達成いたしました! もうあなた方に用はないので、ここいらでお暇させていただきます!」
 叫ぶようにそう言い残すと、三人は颯爽と去って行ってしまう。残されたのは、ミキとザキの二人だけ。
「……なんだったんだ、あいつらは……?」
「さあ……?」



「……ん、ザンバから報告書が来たか。必要データは概ねとれたっぽいな……お、前代英雄のデータもありやがる」
 画面に表示された文字の羅列にザッと目を通してから、アシドは背もたれに体を預ける。
「……この組織にいられなくなったら、僕はどうすっかね」
 どこかアンニュイな感じで、ぼそりとアシドは呟く。
「どうせこの組織以上に設備が整ってる機関なんざねぇし、いっそのこと故郷にでも帰って、自分で新しく立ち上げるかな。トレーナー研究機関、アシッド機関! ……なんつってな、ケヒャハハハ」
 ひとしきり笑うと、アシドは溜息を吐く。同時に、画面に新しい表示が出て来た。
「ん? なんだ? このコードは……ゲーチスから?」
 タッチパネルを操作し、画面に表示される文章を読み進め、アシドはにやりと笑う。
「そうか……もう浮上させるのか。気の早い奴だぜ。ケヒャハハハ!」

 アシドの高笑いが、ラボの中でこだまする。それは、プラズマ団と英雄たちが雌雄を決する日の、前日だった——



あとがき諸共、ちょっと急ぎ足になってしまいましたが、第五節終了です。次回は十六幕のラストを飾る第六節、聖電隊の出番となります。最も直属部下の多い聖電隊ですが、誰が出るのかは……次回をお楽しみに。