二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 524章 影 ( No.775 )
日時: 2013/03/19 23:07
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 ダンカンスはウッドハンマー受けて戦闘不能になったが、同時にその反動でカンカーンも戦闘不能となってしまう。
 ダンカンスが倒れた影響か、水は引き、強化ガラスの柵も地面へと潜っていった。
「戻れダンカンス。お前の役目は終わりだ」
「お前もだ、カンカーン。後は任せな」
 お互いポケモンをボールに戻す。両者相打ちで始まったバトルは、中堅の戦いへと移行する。
「2ndトライアル。実験スタートだ、オンネット!」
「ぶちかませ! カイリュー!」
 アシドの二番手は、操りポケモン、オンネット。
 真っ黒な体で、人型だが小柄な割に頭が大きく、腕も太い。
 イリゼが繰り出すのは、ドラゴンポケモン、カイリュー。
 大きくがっしりとした体つきに、優しげな瞳を持つポケモンだ。
「オンネットか……またぞろ面倒そうなのが出て来やがったぜ。カイリュー、まずはエアスラッシュ!」
 カイリューは体に反して小さな翼を羽ばたかせ、大きな空気の刃を五、六発ほど飛ばす。
「オンネット、影討ち!」
 だが空気の刃はオンネットを捉えない。オンネットは影に身を潜ませてエアスラッシュをやり過ごすと、カイリューの背後に現れて太い腕の一撃を叩き込む。
 ただ、初撃なのでカイリューの特性、マルチスケイルが発動。よってカイリューの受けるはずのダメージは半減された。
「サイコバレットだ!」
 だが直後、オンネットが至近距離から念力を固めた銃弾を連射し、カイリューの背に直撃させる。流石のカイリューも、この攻撃は効いただろう。
「ちっ、炎のパンチ!」
「影討ち!」
 カイリューは裏拳のように炎を灯した拳を振るうが、オンネットは影の中に潜って裏拳を回避。今度はカイリューの真正面に現れ、太い腕を叩き付ける。
「怒りの炎!」
 そしてオンネットは怒り狂うように燃え盛る憤怒の業火を放つ。業火は日照りの影響を受けて攻撃力が上昇しており、カイリューを容易く呑み込む。
「日照りを逆に利用されるとはな……だがそれでも効果いまひとつだぜ。カイリュー、振り払ってドラゴンダイブ!」
 カイリューは急上昇して炎を振り払い、全身に龍の力を纏ってオンネット目掛け急降下する。
 が、しかし、

「影討ち」

 カイリューの攻撃はオンネットには当たらず、オンネットは影から這い出て来ては太い腕をカイリューに叩き付ける。
「ギガスパーク!」
 そして今度は巨大な電撃の球体を生成する。大きく膨れ上がったそれを、オンネットは投げ飛ばすようにしてカイリューへと放った。
「カイリュー、こっちも十万ボルト!」
 カイリューも強力な電撃を放ってギガスパークに対抗するが、ギガスパークの方が僅かに強く、十万ボルトは押し切られてしまった。
「まだまだ! サイコバレット!」
「かわしてエアスラッシュ!」
 直後、オンネットは追撃にと念力を固めた銃弾を乱射する。しかしカイリューは大きく旋回して銃弾を回避。スピード重視で空気の刃を一発だけ飛ばし、オンネットを切り裂く。
「今だカイリュー! 炎のパンチ!」
 そしてオンネットが怯んだ隙に、日照りによって強化された炎のパンチをオンネットに叩き込む。
 その一撃をまともに受け、オンネットは地面へと叩き落とされた。
「追撃だ! ドラゴンダイブ!」
 カイリューは攻撃の手を緩めず、龍の力を纏ってオンネットの落下地点に向けて急降下する。
「迎え撃て! オンネット、ギガスパーク!」
 オンネットもなんとか立ち上がり、巨大な電撃の球体を生成し、盾のように構える。
 もう修正の利かないカイリューは、そのまま雷球へと突っ込んでいった。なかでバチバチと激しく電気が弾ける音が響く。そして、やがて雷球は爆散し、カイリューも弾き飛ばされる。
「くっそ、失敗か。カイリュー、十万ボルト!」
「オンネット、怒りの炎!」
 カイリューは十万ボルトの電撃を放ち、オンネットは憤怒の業火を放つ。双方ともに激しくぶつかり合うが、日照りで強化された怒りの炎が十万ボルトを上回り、電撃を飲み込んでカイリューへと迫る。しかし、
「その攻撃もらった! カイリュー、炎のパンチ!」
 カイリューは拳に炎を灯し、襲い掛かる怒りの炎を吸収してしまう。日照りと怒りの炎で、カイリューの拳に灯った炎はかなり大きくなった。
「行け、カイリュー!」
 カイリューは爆炎の拳を振りかぶり、一直線にオンネットへと突っ込む。そして、拳を振り下ろすが、
「効かねえなぁ! オンネット、影討ち!」
 オンネットは影の中に潜り込んでしまう。よってカイリューの拳は空振り。直後、影から出て来たオンネットの攻撃が、カイリューを襲う。
「怒りの炎だ!」
 続け様にオンネットは憤怒の業火を放つ。効果いまひとつでも日照りの影響を受けて増大した炎は、確実にカイリューの鱗を焼き焦がしていく。
「オンネットは攻撃力がずば抜けているが、それ以外の能力は言うほど高くねぇ。エアスラッシュと炎のパンチを一発ずつまともに叩き込んでるから、あと一発、クリーンヒットさせれば勝てそうなんだがな……」
 しかしその一発を当てるのが難しい。
 カイリューの技は大振りで大味なものが多い。ゆえに攻撃が読まれやすく、小回りも利きづらいため、攻撃がかわされやすい。
 そうでなくともオンネットの影討ちが非常に厄介だ。威力自体はさほど高くないが、一度影の中に潜られてしまえば手も足も出ない。こちらの攻撃を完全にかわしてしまうところが、この技の強みだ。
「オンネット、ギガスパーク!」
 オンネットは巨大な電撃の球体を生成し、投げつけるようにカイリューへと放つ。カイリューは旋回してその攻撃をかわすが、
「サイコバレット!」
 直後に念力の銃弾が乱射され、カイリューは撃ち抜かれてしまう。
「ぐっ、カイリュー、十万ボルト!」
「オンネット、影討ち!」
 反撃に放ったカイリューの電撃も、影に入り込んでオンネットは回避。背後からカイリューは襲われる。
「サイコバレットだ!」
「カイリュー、急上昇! とにかくかわせ!」
 オンネットが乱射する念力の銃弾を、カイリューは急上昇して回避する。オンネットは執拗に、狙い撃つように銃弾を連射するが、カイリューは必至でかわしていく。
 カイリューの耐久力は、イリゼの最強メンバーの中でもかなり高い。特性で能力が著しく変動するオニゴーリは除くとして、三番目に堅いエルフーンと差をつけ、最も強固なヒードランに迫る耐久力を誇っている。が、それでも攻撃の高いオンネットからこうも強力な攻撃を連続で浴びせられれば、限界が来るのは必然。実際、カイリューはかなり消耗していて、もうあと何発か撃ち込まれれば戦闘不能になってしまいそうだ。
「オンネット、ギガスパーク!」
 オンネットは巨大な雷球を生成し、カイリュー目掛けて放つ。
「カイリュー、かわして十万ボルト!」
 カイリューは旋回してギガスパークをかわしつつ、強力な電撃を放つが、
「影討ち!」
 影に潜り込んだオンネットに電撃は当たらず、カイリューはオンネットの拳を受けてしまう。
(ん……? 待てよ)
 ふと、イリゼはオンネットの行動パターンに疑念を抱く。
(こいつ、さっきから影討ちでしか攻撃をかわしてなくないか……?)
 思い返してみれば、確かにオンネットはカイリューの攻撃をかわす時には、必ず影討ちを使用してかわしていた。迎撃や相殺は他の技を使うが、回避だけは影討ちを使用している。
 それは、つまり——
「……そういうことかよ。だったらカイリュー、炎のパンチ!」
 カイリューは拳に炎を灯し、オンネットに殴り掛かるが、
「当たらねぇつーの! オンネット、影討ち!」
 オンネットは影に潜り込んでカイリューの背後に回り、拳を回避。そのまま太い腕を叩き付ける。
 しかし、

「後ろだ! 十万ボルト!」

 直後、カイリューは真後ろに向かって電撃を放つ。オンネットはその電撃を避けられず、直撃を受けてしまう。しかも運の悪いことに、麻痺状態になってしまった。
「お前のオンネットは攻撃をかわす時、必ず影討ちを使う。それ以外の攻撃にしたって、オンネット自身はほとんど動かなかった。つまりよ、お前のオンネット、鈍いんだよな」
 オンネットは今まで、影討ち以外ではカイリューに接近することはなかった。それはつまり、動きが鈍いから、先制技の影討ち以外では、カイリューを追えないのだ。
「だったら動きを止めればそれで片付く! カイリュー、ドラゴンダイブ!」
 カイリューは急上昇し、龍の力を身に纏って急降下する。
「ちっ、オンネット、影討ち!」
 アシドはそう指示を出すが、麻痺が発動し、オンネットは動けなかった。
 そのためカイリューのドラゴンダイブがオンネットに直撃。オンネットは大きく吹っ飛ばされて戦闘不能となった。
「……戻りな、オンネット。お前の番はもう終わりだ」
 アシドはオンネットをボールに戻す。これで、アシドの使用ポケモンは残り一体となった。その最後の一体が入ったボールを手に取る。
「あと……一体か」
 最後のボールを握り締め、アシドはそれをジッと見つめる。それは彼らしくもない、どこか感傷的な雰囲気を感じさせる眼差しだった。
「これが、僕のプラズマ団としての最後の一戦——」
 アシドは思い返す。自分がプラズマ団に入る前のことを。孤独で孤高の、科学者だった過去を——