二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 534章 傾慕 ( No.784 )
日時: 2013/03/21 20:06
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 7Pフレイ。彼女には両親がいない——というのも、彼女は捨て子なのだ。
 とある無法者の街で、彼女は捨てられた。理由ははっきりしている、足の病気だろう。彼女は生まれつき足が非常に弱いそして、。あんよも出来ない赤ん坊を守りながら生き続けられるほど、その街は甘くなかった。だから捨てられたのだ。
 普通ならそのまま野垂れ死んでいただろう。彼女に視線を向ける者はいても、彼女を拾おうなどと考える者は誰もいなかった——たった一人の男を除いては。
 その男は、彼女を救った。彼女にとっては救世主のような人だった。その上、彼女がこの世界で生きられるように、育ててくれた。
 彼女にとって、彼は唯一の家族であり、自分の拠り所だった。依存しているとえばそれまでだが、その依存は、彼女にとっては心地の良いものだった。
 この時間がずっと続けばいい。彼女は男と暮らすうちに、無意識のうちにそう思っていた。
 しかし、永遠などこの世には存在しない。別れや変化は、どこかで必ず訪れるものだ。
 突然、その街にとある組織がやって来た。どうやら街の者を組織に取り入れ、戦力の増強を図るつもりらしい。男は彼女を隠し、その組織に立ち向かっていった。

 そして、男は戻ってこなかった。

 それからというもの、彼女は無気力な日々を過ごしていた。同時に、彼に依存したいと思う自分に気付いた。彼がいない世界は、彼女にとって生きる価値のない世界だった。
 そんな時、一人の男が彼女の前に現れた。当然、彼とは違う男だ。如何にも胡散臭い言葉を並べ立て、遂には彼女を男の組織に勧誘したいという始末。
 だが彼女は、その申し出を受けた。
 自暴自棄になっていたのかもしれない。彼がいなくなって、彼女の世界はかき回され、もうどうしたらいいのか分からない時に、よく分からないままによく分からない組織に入っていた。そんな感じだ。
 彼女は、表立って動いている幹部の、真の幹部という立ち位置らしい。言ってしまえば隠し玉で、しばらくは何もしなくていいと言われた。
 そんなことを言われても、何もすることがないのだから何もしないのは当然で、だから彼女は何もしなかった——そう、彼と再会するまでは。
 奇跡だった。この時ばかりは、特に信じてもいなかった神に礼を言ったかもしれない。あの時、唐突に自分の前から姿を消した彼と、再会できるとは思わなかった。
 ただ、再会したと言っても、それは一方的なことだ。自分は幹部以上の上位に立っているのに対し、彼は名前もない平の下っ端。繋がりも何もないし、仮に彼女が権限を行使できて会えたとしても、立場上、彼とは昔のような関係ではいられない。
 しかも、彼は違う女を見ていた。幼い彼女には、それが恋慕なのか憧憬なのか哀憐なのかは分からない。だが、どのような形であれ自分を見ない彼を、彼女は悲しく思う。
 それから長い時間が経過し、次の奇跡が起こる。
 彼と彼女は、同じ立場の者となった。彼は彼女の存在にたいそう驚いていたが、彼女はそれ以上に驚き、同時に嬉しくもあった。組織に縛られているとはいえ、また彼と一緒にいられる。それだけで、彼女は幸せだった。
 けれども、その感情が間違っていることに気付く。彼女が組織の者として本格的に動く最中、彼女の思いは少しずつ変化していく。
 依存したままでいいのかと、甘えたままでいいのかと。彼女は自問自答を繰り返す。
 その過程で出会ったのが、彼女だ。自分よりも幼い少女。師に憧憬や思慕の念を抱く少女。自分と彼女は近い存在だと、何度も戦っているうちに理解した。
 そして、彼女は決心をする。自分と彼の関係にけじめをつけようと。
 そのためにまず、組織という束縛から抜け出さなくてはならない。分かりあえそうな少女を利用するようで心苦しいが、この際致し方ない。
 彼女は——フレイは覚悟を決める。自分の戦いの果てにあるもの、彼との未来を見るために——



 砂煙が舞い上がり、視界は不明瞭となる。どれくらい経ったか、しばらくすると砂煙も晴れ、二体のポケモンの行く末が明らかになる。
「……うん、まーそうだよねー」
 倒れていたのはノコウテイ。ピクリとも動かず、完全に戦闘不能となっていた。
「ありがとう、ノコウテイ。戻っていいよー」
 フレイはノコウテイをボールに戻す。結局フレイは、ミキのポケモンを一体も倒せないまま、残り一体まで追い詰められてしまった。
「これがあたしの最後の一体。あたしのすべてを、この子に賭けるよ」
 いつもとは違う雰囲気を醸し出すフレイ。彼女は、最後のボールを握り締める。
 そして、

「ストータス、出番だよー」

 フレイの最後のポケモンは、石炭ポケモン、ストータス。
 2mにもなる陸亀のようなポケモンで、赤褐色の肌と煤けたように黒い甲羅を持つ。甲羅にはいくつもの穴が開いており、中では轟々と炎が燃やされている。
「来た……!」
 ミキはそのストータスを見て、緊張を走らせる。
「このストータスについては知ってるよね? あたしの最強のポケモンにして、プラズマ団で最も強固なポケモン」
「……っ!」
 いつもと違うフレイが発する気迫に飲まれそうになるも、ミキはなんとか自身を鼓舞し、奮い立たせる。
「大丈夫、兄さんやお父さんと特訓したんだ……」
 キリッと、ミキはストータスとフレイをまっすぐに見つめる。
「ふぅーん、いいねー、その目。あたしももっとまっすぐなら、こんなに悩む必要はなかったのかもしれないねー」
 そう言って、フレイはストータスへと指示を出す。
「ストータス、噴火!」
 ストータスの背中から、凄まじい勢いで莫大な量の石炭が噴射された。溶岩と思えるほど熱された石炭は爆炎を纏い、ポリゴンZへと襲い掛かる。
「ポリゴンZ、ハイドロポンプ!」
 ポリゴンZは大量の水流を噴射するが、正に焼け石に水だ。降り注ぐ石炭の勢いは止まらない。
「破壊光線!」
 続いてポリゴンZは、赤黒い極太の光線を発射する。光線は石炭と激しく競り合うが、ほんの僅かな差で破壊光線が押し切られ、石炭がポリゴンZに降り注いだ。
「ポリゴンZ!」
 ハイドロポンプと破壊光線で威力を減衰していたので、まだ戦闘不能ではないが、ポリゴンZはかなりの大ダメージを受けていた。
(やっぱり、この噴火だけ他の技とは違う。威力が桁違いに高い……!)
 前に戦った時にも思ったことだが、これで確信した。このストータスは、噴火の威力だけがずば抜けて高い。
「でも、今はとにかく攻める! ポリゴンZ、ハイドロポンプ!」
 ポリゴンZは大量の水を噴射し、ストータスに直撃させる。
 炎と岩、二つのタイプの弱点を突く水タイプの大技、ハイドロポンプ。普通ならこの一撃で戦闘不能、もしくは致命傷を与えられるはずなのだが、
「やっぱり、効いてない……?」
 フレイのストータスは、いつもと変わらぬ立ち姿で、ハイドロポンプを受け切っていた。
「残念だけど、四倍弱点を一発や二発撃ち込んだくらいじゃあ、あたしのストータスは倒せないなー。ストータス、大地の怒り!」
 ストータスは大地を揺るがし、地面から大量の土砂を噴出する。
「っ、バグノイズ!」
 襲い掛かる土砂を、ポリゴンZは狂ったような音波で打ち消す。やはり、噴火以外の技の威力は並程度だ。
「もう一度、ハイドロポンプ!」
「ジャイロボールだよ!」
 再び水流を噴射するポリゴンZだが、ストータスはその場で超高速回転。直撃する水流を散らしてしまう。
「そっか、ジャイロボールもあったんだね……だったらこれ! 十万ボルト!」
 ポリゴンZは強力な電撃を放ち、ストータスを攻撃。しかし効果抜群でもないこの技は、ストータスには有効打を与えられない。
「大地の怒り!」
「バグノイズ!」
 再び噴き出される土砂を、騒音の如き音波で吹き飛ばすポリゴンZ。
「ハイドロポンプ!」
 そして間髪入れずに水流を噴射。ストータスに直撃させるが、
「ジャイロボール!」
 途中でストータスは高速回転し、水を散らしてしまう。攻撃が遅かったのである程度はハイドロポンプも当てられたが、あまりダメージには期待できない。
「十万ボルト!」
 続いてポリゴンZは、強力な電撃をストータスに浴びせる。しかしハイドロポンプでも堪えなかったストータスが、効果抜群でもない電撃でやられるはずもない。
「でも麻痺しちゃうのは嫌だなー……よし、なら一気に決めちゃおうか」
 と言って、フレイはストータスに指示を出す。
「ストータス、噴火だよ!」
 ストータスは背中から大量の石炭を噴射する。溶けるほど高温にまで熱された石炭と炎は、山なりの軌道を描き、一直線にポリゴンZへと襲い掛かる。
「っ——ポリゴンZ、破壊光線!」
 少し逡巡するが、避けるのは無理と判断し、ポリゴンZは攻撃の態勢を取った。分離した腕と尻尾の先端を合わせ、超高密度のエネルギーを最大まで圧縮し、解き放つ。
 刹那、赤黒い極太の光線が発射された。
 噴火の爆炎と破壊の光線が激しくぶつかり合い、バチバチとスパークし、火山雷が発生する。
 派手にせめぎ合う双方の技だが、結果自体はあっさりしていた。
「ポリゴンZ!」
 爆炎が破壊光線を突き破り、そのままポリゴンZへと降り注ぐ。
 電脳世界の戦士は、なす術もなく爆炎に飲み込まれてしまった。