二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 545章 降着 ( No.799 )
- 日時: 2013/03/25 02:23
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
ここに来てフルパワーを超える出力で放たれた噴火の直撃を受けたフィニクス。
全てを焦がし尽くす爆炎は容赦なくフィニクスを飲み込み、不死鳥をも焼き尽くす——はずだった。
「っ——! 耐えてる……!?」
フレイが珍しく驚きの表情を見せた。今の一撃で決めるつもりが、フィニクスはまだ戦闘不能ではない。紫色の体も煤けてしまっているが、いまだ翼を羽ばたかせて力強く空を舞っている。
「……私だって、今まで何もせずにいたんじゃない。兄さんやお父さんの力もあったし、お母さんを見つけたいって思いもある。でも、それ以上に師匠の——真実の英雄の一番弟子として、負けたくないんだ!」
ミキは叫ぶ。それと同時に、フィニクスの炎が激しく燃え上がった。
「う……これって」
フレイは顔を引きつらせた。次に放たれるであろうフィニクスの攻撃が分かってしまったからだ。
あの技は、聖電隊の者が使用するエース級ポケモンの奥の手。フレイも以前、一度だけ強化されたその技を目にしたことがある。あの火力は、ストータスの噴火に勝るとも劣らない強烈な攻撃だった。
それが今、ミキのフィニクスから放たれようとしている。
「フィニクス——テラブレイズ!」
フィニクスは莫大で、強大で、膨大な爆炎を解き放つ。
噴火の炎を受け、それを吸収したテラブレイズの破壊力は計り知れないほど凄まじかった。ともすれば、かの伝説のドラゴンポケモン、真実の龍、レシラムの炎に匹敵するかもしれないほどの業火が解放される。
「ストータス!」
業火の直撃を受け、ストータスは悲鳴をあげる。威力は四分の一まで落ちているはずだが、尋常ではない火力だ。ダメージが蓄積し、耐久力の落ちているストータスには追い打ちのような一撃となっただろう。
やがて炎が鎮火する。大空にはフィニクスが、大地にはストータスが、いまだに君臨している。
「……まだ倒れないんだね、そのストータス。その諦めの悪さと力強さ、まるで師匠みたいだよ」
「残念だけど、あたしも簡単には負けられないんだよ。ジレンマっつーか、変な意地張ってるのかな。あたしでも、負けたくないって思っちゃった」
お互い満身創痍。技を放つだけでも精一杯の状態だ。次の一撃で、勝負が決まる。
「ねえミキちゃん、ちょっとした賭けをしよっか。次の一撃でどっちのポケモンが勝つか、賭けよう」
急にフレイはそんな事を言い出した。ミキとしては、敵の持ちかけた提案などに乗る理由などはない。ないのだが、
「……賭けに勝ったら、何があるの?」
賭けに乗るかのような返答を返した。それに対しフレイは、にへらーとした笑いを浮かべる。
「相手のお願いを一つ聞く。君との最後のバトルだもん、こんくらいが順当っしょー」
と言ってフレイは指差した。指の方向にはストータス——ではなく、フィニクスがいる。
「あたしはフィニクスに賭けるよ」
あろうことか自分ではなく相手のポケモンが勝つことに賭けたフレイ。当然ながらミキは訝しげな目でフレイを見つめる。
「まさか、バトルに負けても後から逃げられるようにするためとかじゃないよね?」
「まっさかー。あたしがそんなこすい真似すると思うー? あたしはゲームではフェアプレイを心情としてるから、そんなことしないよー」
「ならいいけど……でもそれじゃあ、私はストータスに賭けるしかなくなっちゃったよ」
「それが狙いだかんねー。先駆けたもの勝ちの世の中なのさー」
二人の少女の会話で、張りつめた空気感が和らいでいく。だがそれでも、今はバトルの時。刹那の内に、和らいだ空気は緊張感のあるものへと変貌する。
そして、二体は動き出す——
「ストータス、噴火!」
「フィニクス、流星群!」
ストータスは灼熱の甲羅から、凄まじい爆炎を噴き上げる。
フィニクスは果てしない大空から、数多の流星を降り注ぐ。
大地からは天を衝くような爆炎、天空からは地を砕くような流星。それぞれの大技は激しくぶつかり合い、空と地を震撼させる。
雲は吹き飛び、地面は割れる。激しい衝撃波と熱風が嵐の如く吹き荒れ、ミキとフレイは吹っ飛ばされまいとするが、それでもそれぞれのパートナー——フィニクスとストータスをしっかりと見つめている。
長い間せめぎ合っていた流星と爆炎だが、やがて二つの均衡が崩れた。
噴火が必殺の一撃に対し、流星群は文字通り星の群れだ。その量は正に星の数。一発の威力なら断然噴火の方が強力だが、立て続けに流星を撃ち込まれ、遂に噴き上げられた爆炎は跡形もなく散ってしまった。
そして、爆炎が消えても、流星は流れ続ける。止まることを知らない流星群は、大地に居座るストータスへと降り注ぐ——
「…………」
フレイは目を瞑っていた。結果は見なくても分かる。分かるのだが、それをこの目で確認するのは怖いと、そう思ってしまう。
負けてもいい、むしろ彼女に負けるのなら本望だ。そう思っていたはずなのに、いざ敗北を喫するとなると、躊躇してしまう。悟った風なことを言っておきながらこんな時に臆するなど、やはり自分はまだまだ子供だ。
だがいつまでもこうしているわけにはいかない。ちゃんと、ストータスがやられた姿を、自分の敗北を確かめなくてはならない。それが、次に繋がるのだから——
「……頑張ったね、ストータス。本当にありがとう。あたしがここまで来れたのは、君のお陰もあったんだよ。あの人から貰った卵があったからこそ、あたしは今、こうしてここにいるんだ」
お疲れ様、と言って、ゆっくりと目を開いたフレイは手元のモンスターボールにストータスを戻した。
「あはは……負けちゃった。あたし、本気出してちゃんと負けたの、初めてだ」
手元に置いてある四つのモンスターボールを浴衣の中に仕舞い込むと、フレイは清々しい表情で、無邪気に笑っていた。
対するミキはというと、喋る気力もないのか、肩を上下させながらフィニクスをボールに戻すだけだった。しかし、顔には勝利の喜びが浮かんでいる。
「ミキちゃん、バトルには負けたけど、賭けはあたしの勝ちだよ。ミキちゃんにはあたしのお願いを一つ聞いてもらう。だから、ちゃんと見ててね」
「……?」
そう言ってフレイは、前に体重をかけた。段に着いていた手を離し、前に作用する勢いのまま、体を預ける。
「え……!?」
それが意味する事実は、ミキにとっては受け入れがたい、そもそも理解ができないような事実だった。
その真実、フレイの取った行動が意味すること。それはすぐに明らかになる。
刹那——
——フレイは、地面に降りたった。
「あぅ」
が、しかし、すぐに膝を折って地面に手を着いてしまう。
「だ、大丈夫?」
ミキは小走りでフレイへと駆け寄った。するとフレイは腕を伸ばし、
「ごめん……ちょっと、肩貸して……」
「う、うん……」
言われるがままに、ミキはフレイに肩を貸す。それで分かったが、フレイは非常に軽く、同時に相当小柄であった。年下のはずのミキよりも背が低い。
だがそんなことよりも、ミキは違う点に疑念を抱いていた。
「立てたんだ。師匠からは足が弱いから自分じゃ立てないって、7Pの人から聞いたって言ってたけど……」
「えへへー、まあねー」
自慢げに言うフレイだったが、語調は軽いものだった。
「足のことに関しては、プラズマ団じゃ知ってる人はほとんどいないよー。知ってるのはゲーチスと、アシドぐらいかなー。リハビリとかもめんどくて全然してなかったし」
ミキに支えられながら、二人はひとまずコロシアムから出るために歩を進める。
「確かにあたしは足の病気で自分の足じゃ立てなかったんだけど、プラズマ団に入る条件として、ゲーチスに治してもらったんだよ。いや……治しやがった、って言うべきかな」
ほんの少しだけ怒気を含んだ声でフレイは言う。
「あたしはフォレスと生きていくうちに、色々なことを思ったんだよ。最初はあの人に依存するのが心地よかったものだけど、それがあの人の負担になるって分かった時、足を治したいって思ったんだ」
「だから……プラズマ団に入って、足を治したの?」
「うん、概ねそんな感じ。でも、プラズマ団でフォレスと再会した時、また思ったんだ。足の病気がなくなれば、フォレスはもうあたしのこと見てくれないんじゃないかって。フォレスはあたしが一人じゃなにもできないから、一緒にいてくれたんじゃないかって。だから、ずっと足が弱いままでいるふりをしていた」
そしたら癖になっちゃったけどねー、と軽口を叩くフレイ。
「だけど、最近になってまた気付いた。こんな甘えた考えじゃダメだって。あたしにとっても、あの人にとっても。だからミキちゃん、君に負けてプラズマ団と縁を切って、あの人とのけじめをつけることにしたんだ」
君を利用したみたいで悪いけど、とフレイは付け足し、続ける。
「そう考えると、足を治してもらったのは最終的には良かったよ。あたしの足はかなりの難病らしくてね、治せるのはプラズマ団くらいだそうだよ」
言って二人はコロシアムから出た。ミキはここからどこへと向かうのか、フレイに尋ねる。
「そーだねー、そんじゃー森に向かってくれるかな」
北の方向を指差し、フレイはミキをまっすぐと見据える。そして言った。
「フォレスのとこに連れて行って、ミキちゃん」