二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 546章 暴走 ( No.800 )
- 日時: 2013/03/24 23:15
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
ギリッ、と。
レイは、歯軋りした。
「あなた如きに……あなた如きに、わたしが敗れることなどありません。あなたのような幸せ者に、わたしの痛みが分かるはずありません」
「……なに言ってんだ、お前」
端正な顔を怒りに歪めるレイ。ザキはその怒気に気圧されることなく、敢然と立ち向かう。
「おいでなさい、レジュリア!」
レイの握りしめたボールから出て来たのは、人型ポケモン、レジュリア。
細身で美麗な女性型のポケモン。ドレスのような赤い衣装と長く煌めく金髪が特徴だ。
怒りの形相で睨み付けるレイに睨み返しながら、ザキもボールを握り込む。
「急にキレ始めて意味分かんねえけど、なんにせよ俺もこいつが最後だ。負けるわけにはいかねえ」
そして、ザキは最後のボールを放り投げる。
「今度こそあいつをぶっ飛ばすぞ、テペトラー!」
ザキの最後のポケモン、河童ポケモン、テペトラー。
レジュリアとは対照的に、若干ずんぐりした体格。河童のような意匠で腹には赤い×印、頭には皿のようなもの。そして腕も足もがっしりとしており、非常に逞しい体つきをしている。
「行くぞ! テペトラー、スプラッシュ!」
テペトラーは全身に水流を纏い、水飛沫を散らしながらレジュリアへと突っ込んでいく。しかし、
「レジュリア、サイコバーン!」
レジュリアはテペトラーが突撃する直前に念力で爆発を引き起こし、衝撃波でテペトラーを吹き飛ばした。
「放電!」
そしてすぐに掌から電撃を放つ。広範囲に放つのではなく、テペトラーを狙って電撃を集束させた威力重視の放電だ。
「ちぃ、氷柱落とし!」
電気技はテペトラーに効果抜群なので、テペトラーとしてはこの攻撃は受けたくない。虚空から何本もの巨大な氷柱を落として地面に突き刺し、壁にして放電をシャットアウトする。
「突っ込め! スプラッシュ!」
「吹き飛ばしなさい! サイコバーン!」
テペトラーは再度、水流を纏ってレジュリアに突貫。レジュリアも同じように念力の爆発でテペトラーを迎撃しようとするが、
「同じ手は効かねえよ! テペトラー、跳べ!」
テペトラーは衝撃波が放たれる直前に跳躍し、背後からレジュリアにぶつかっていく。
「シャドーパンチだ!」
さらに影を纏った拳でレジュリアを殴って追撃。効果抜群なので、ダメージはそれなりに大きいはずだ。
「やってくれますね……! レジュリア、アイスバーンです!」
「かわしてシャドーパンチだ!」
レジュリアは振り返って氷の衝撃波を飛ばすも、既にそこにテペトラーはいない。テペトラーは再びレジュリアの背後に回ると、影の拳を突き出してレジュリアを殴り飛ばす。
「氷柱落としだ!」
吹っ飛ばされるレジュリアに、テペトラーはすかさず氷柱を落として動きを止める。そこ隙にレジュリアに接近し、
「インファイト!」
氷柱を砕き、拳による乱打を叩き込む。技術なんて必要ない。ただただ力だけを求めた拳を凄まじい勢いで何度も繰り出し、最後に放つ渾身の正拳突きでレジュリアを吹っ飛ばす。
「くぅ、放電!」
レジュリアはテペトラーがいる前方方向に向けて電撃を放とうとするが、
「氷柱落とし!」
その前にテペトラーが虚空から氷柱を落とし、レジュリアの電撃はシャットアウトされてしまう。
「スプラッシュだ!」
テペトラーは水流を纏って氷柱に囲まれたレジュリアに突貫。氷柱を砕き、水飛沫を散らしながらレジュリアを吹っ飛ばした。
「この……サイコバーン!」
「当たらねえよ! シャドーパンチ!」
レジュリアは態勢を立て直すと、念力の爆発を起こして衝撃を放つが、衝撃波はかわされ、テペトラーのシャドーパンチがレジュリアを捉える。
「どうした? さっきから攻撃が単調だぜ。そんなんじゃ俺は止められねえぞ! テペトラー、インファイト!」
影の拳を叩き込んだ直後、テペトラーは再び力ずくの猛撃を繰り出す。ひたすらレジュリアを殴り続け、最後にテペトラーはハイキックでレジュリアを蹴り飛ばした。
「っ……レジュリア、アイスバーン!」
空中で姿勢が整わないまま、レジュリアは氷の衝撃波を放ち、テペトラーに直撃させる。
しかし氷技はテペトラーには効果いまひとつ。大きなダメージを与えるには至らない。
「それで終わりか? なら次も行かせてもらうぞ! テペトラー、スプラッシュ!」
テペトラーは全身に水流を纏い、水飛沫を散らしながらレジュリアへと突っ込むが、
「レジュリア、ハイドロポンプ!」
レジュリアも同時に激しい水流を発射して、テペトラーを押し返す。だが、
「氷柱落とし!」
テペトラーは虚空から氷柱を落とし、またしてもレジュリアの動きを止めてしまう。
「またですか……! レジュリア、サイコバーンで吹き飛ばしなさい!」
「遅せえんだよ! テペトラー、スプラッシュ!」
レジュリアが念力の爆発を起こすよりも早く、テペトラーは水飛沫を散らしてレジュリアに激突した。
「ぐぅ、レジュリア、反撃です! アイスバーン!」
「シャドーパンチだ!」
レジュリアはすぐさま氷の衝撃波を放つが、それを突き破ってテペトラーの拳がレジュリアを捉え、殴り飛ばす。
ドサッと地面に落ちるレジュリア。バトルが始まってからまだそれほど長い時間は経っていないが、レジュリアは既にかなりのダメージを受けていた。逆に、テペトラーの負った傷は微々たるものである。
「……なにをそんなにキレてんのかは知らねえけどよ、そんな頭に血が上った状態じゃ、俺には勝てねえ。俺だって、伊達に親父がいない間、セッカ支部を仕切ってきたわけじゃねえ。昔でこそ忌み名だった暴君は、いまや俺の二つ名であり、俺のバトルスタイルの象徴みてえなもんだ。力押しで、俺に勝てると思うな」
ザキは非常に高圧的で、叱咤するようにレイに言葉をぶつける。しかもそれだけにとどまらず、さらに続けた。
「それに、俺はこんなことを言うタチでもねえんだが、俺には仲間がいる。ムカつく英雄やら、女らしくない同僚やら、お節介な大親友やら……それと、俺より強くなりやがる妹に、ムカつく上にウザい親父。それだけじゃねえ」
睨むような鋭い眼光。しかしその瞳の奥には、確かな決意と信念が感じられる。
「ミキと親父、三人で約束したんだ。てめえらをぶっ飛ばして、母さんを見つける。そして、また家族四人で暮らすってな。その標がある限り、俺は負けねえ」
静かに、しかし途轍もない威圧感をもって発せられるザキの言葉。同時に、テペトラーの気迫も増した。
対するレイは、拳を握り、ギリギリと歯軋りし、整った顔立ちが崩れるほどの怒りを露わにしてザキを睨み付けている。
「なにが……なにが妹ですか、父親ですか、母親ですか……そんなに、家族が大事なんですか」
「たりめーだ。家族はかけがえのないもので、助け合い、一緒に暮らすものだ。百人が百人、そう答える」
「だったら!」
レイは叫ぶ。内に秘めた感情をありったけ垂れ流して、叫ぶ。
「だったらわたしを売ったあの男はなんなんですか!? わたしを捨てて逃げたあの女はなんなんですか!? そんな人間でも、あなたは家族と言えるんですか!?」
支離滅裂に、自我が崩壊寸前となっているレイの剣幕に気圧されそうになるが、ザキはそれ以上に困惑していた。
「さっきからわけのわからないことを……一体、お前に何があったっつーんだよ」
「そんなことをあなたに言って何になるんですか! もうあんなものは思い出したくもない……ああ!」
頭を抱え、発狂したようにレイは叫び散らす。そして、
「レジュリア、サイコバーン!」
直後、レジュリアは念力の爆発を引き起こし、衝撃波を放った。
「っ! やばっ——」
発狂したような振る舞いのレイに気が向いていたというのもあったが、それ以上にレジュリアから放たれたサイコバーンの威力は凄まじかった。アイスバーンで特攻が上がっているということを考慮しても、その一撃は大きい。
(これがあの野郎の言ってた暴走か……だが、話に聞いてたよりも随分と様変わりしてるじゃねえか)
襲い掛かる念力の衝撃波。かわすことは不可能だと、ザキは一瞬のうちに判断する。
「耐えろテペトラー! スプラッシュ!」
全身に水流を纏い、テペトラーは衝撃波を防御する。一瞬で水流と共にテペトラーは吹き飛ばされたが、すぐに立ち上がる。
しかし、
「放電!」
すぐさまレジュリアは電撃を放出する。その出力が尋常ではない。とてもじゃないが、氷柱落とし程度では防ぎきれそうにはない。
「だが、とりあえず防げるだけ防ぐぞ! 氷柱落とし!」
テペトラーは虚空から何本もの太い氷柱を落とし、襲い来る電撃をシャットアウトしようとする。だが氷柱は電撃に突き破られ、テペトラーは電流を浴びてしまう。
「ぐぅ……!」
効果抜群の攻撃に、テペトラーは呻き声を上げる。だがレイとレジュリアの猛攻は止まらない。
「ハイドロポンプ!」
もはやタイプ相性すら無視したレジュリアの攻撃。しかしその水流は相当な勢いで放たれている。スピードも威力も段違いだ。
「そろそろなんとかしねえとな……! テペトラー、かわせ!」
大きく横っ飛びして、テペトラーは水流を回避する。
(なんなんだこいつ……! わけわかんねえ……!)
レイの変貌ぶりを見て、ザキもまた、胸中で感情を募らせていた。