二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 550章 未来 ( No.806 )
日時: 2013/03/27 04:18
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 フレイを支えながら、ミキは森へと歩を進める。その途中で、二つの人影が現れた。
「フレイ殿!」
「フレイさん!」
 片方は時代錯誤な忍装束を身に纏った長身の男、ハンゾウ。
 もう片方は燕尾服に似た音楽家のような出で立ちの青年、シャンソン。
 ハンゾウは険しい眼差しでミキを睨み付け、シャンソンはフレイを見て驚いたような表情をしている。
「娘、貴様フレイ殿に——」
「待って」
 ハンゾウが一歩踏み出すのを、フレイが声で制する。
「前も言ったよ。この子に手ぇ出さないでって」
「っ……! ならばフレイ殿、その娘は一体……!」
「あたしのお友達」
「えぇ!?」
 サラッとフレイは答える。その答えに対し、ミキは驚いたような受け入れがたそうな声を上げる。
「い、いや、私はただ、肩を貸してるだけで……」
「あたしと友達になるの、嫌?」
 下から覗き込むようにしてそんなことを言うフレイ。そう言われると、無下にはできない。結局ミキは曖昧に頷いてしまう。
「そんなことよりも、ハンゾウ、シャンソン。ちょうどいいとこに来たねー。あたしは君たちに伝えなきゃいけないことがあるんだー」
 いつもの間延びした口調で、しかしどこか真剣みのあるフレイの声。ハンゾウとシャンソンはそんなフレイをまっすぐに見つめ、次の言葉を待つ。
「まず、あたしはもうプラズマ団から抜ける。もう負けちゃったし、この組織もそろそろ終わりっぽいし……だから、さ」
 他にも何かあり気だったが、濁して次に進めるフレイ。
「まずハンゾウ、残った焦炎隊をよろしくね。みんな癖の強いのばっかだけど、きっとハンゾウならあたしよりも上手くまとめられるよ」
「フレイ殿、それは、まさか……!」
 目を見開くハンゾウ。驚愕というより、次に言われるであろう言葉を受け入れられないといった表情だ。
「うん、もうあたしの護衛は必要ない。これからは、焦炎隊の頭領として生きてね。これはあたしから下す最後の命令だよー?」
 そう言われては反論できないとばかりに、ハンゾウは悔しそうに目を瞑り、
「……御意」
 と答えた。最後まで尽くすつもりだったが、結局その決心は叶わなかった。そんな風な念が読み取れる。
「それから、シャンソン。君もプラズマ団から抜けて、普通に音楽家になればいいと思うよ」
 ある意味では至極まっとうなことを言うフレイだが、シャンソンは狼狽えていた。彼は人格がどうであれ、プラズマ団であるのは変えようもない事実。そう簡単に普通の人生が歩み直せるとは思えないが、
「え、でも、フレイさん。僕は……」
「君なら大丈夫だよ。だってどうせ君は、プラズマ団としての活動なんてしてないんだから」
「あ……」
 言われてみて、シャンソンは思い出した。確かに彼は、プラズマ団に入ってからプラズマ団として何かに危害を加えたことなどはない。精々英雄らとバトルをしたくらいだが、この世界では普通のバトルをしたくらいでは罪にはならない。
「まさかフレイさん、最初からこのことを思って……?」
「いやいや、最初は君に任せられなかっただけだけど、最近になってそうしようと思ったんだよ。だからシャンソン、君は普通の道を歩むべきだよ。大丈夫、君なら立派な音楽家になれるよ。あたしが保証する」
「フ、フレイさん……」
 今にも涙しそうなシャンソン。そして目を瞑ったまま動かないハンゾウ。
 フレイはミキを促し、二人に背を向け、歩き出す。
「それじゃばいばい、二人とも。達者でねー」
 ふるふると手を振って、フレイは、自らの部下との最後の別れを遂げる。



「……良かったの? あれで」
「いーのいーの。こんなとこで出会ったわけだし、どっかで別れなきゃいけないとは思ってたよ」
 気を遣うようなミキに対し、フレイはどこ吹く風でそんなこと言う。
「それに、あの二人には悪いけど、あたしとしてはもっと大事なことがあるしね……ことっつーか、人っつーか」
 しばらく歩いていた二人だが、森まではまだもう少しある。普通に歩けばもう着いてもおかしくないのだが、フレイの歩行スピードが遅く、ミキもそれに合わせているので、どうしても遅くなってしまうようだ。
「」

「あ……」
 唐突にフレイが声を上げる。ミキも同じタイミングで足を止めた。
 二人が並ぶ先には、一つの人影。二人よりもずっと大きい男の姿。
「……森に着く前に、会っちゃったね」
「まー……こんなもん、なのかな」
 彼に会えたことがか、それとも別の何かなのかは分からないが、どこか嬉しそうなフレイの表情。二人はそのまま、男の下へと歩んでいく。
 男もこちらに気付いたようで、向こうからも走り寄ってきた。
「フレイ、お前……!」
 驚愕の眼差しでフレイを見つめる男——フォレスは、何か言いたげだったが、口をつぐんだ。
「ごめんねー、今まで黙ってて。なかなか踏ん切りがつかなくてさー……ミキちゃん、もういいよ」
「う、うん……」
 ミキから離れ、フレイはフォレスに寄りかかる。フォレスもそんなフレイを当然の如く抱え上げ、背中に乗せた。
「お前は英雄の弟子か。悪かったな……いや、ありがとうな、こいつをここまで連れて来てくれたんだろ」
「え? えっと、まあ……そう、だけど」
 ほんの少し前まで敵だった相手から素直に礼を言われ、戸惑うミキ。そんなにミキに向かって、フォレスはさらに、
「お前にこんなこと頼むのもどうかと思うが、ついでに伝言も頼まれてくれないか。暴君——お前の兄貴と、父親にだ」
「兄さんと、お父さんに?」
 ミキは疑問符を浮かべる。フォレスがその二人に対して何かを伝えるというのが、まったく予想だにしなかったからだろう。実際、フレイも不思議そうにしている。
「兄貴の方には、あの人を頼んだと。父親の方には……礼を言っといてくれ」
「うん……別にいいけど……」
 あの人という言葉や、フォレスがロキに礼を言うということに対してどこか腑に落ちないようなミキだったが、悪い内容ではなさそうだったので、とりあえず頷く。
 それを確認してから、フォレスは踵を返す。
「すまないな……さて、と。もう俺たちはプラズマ団にいられない身だからな、そろそろ行くか。じゃあな」
「そーだねー。ばいばいミキちゃん、楽しかったよー」
 振り向き様に別れを告げ、二人はそのままいずこかへと去っていく。
「あ、ちょっと……」
 もう敵とは思えないような二人だが、それでもプラズマ団であったことに変わりはない。捕まえねばと、ミキは一歩踏み出して追いかけようとするが、
「……まあ、いいか」
 すぐにその足を止めた。
「もう悪い人じゃなさそうだし、なにより、今あの二人の邪魔をしちゃ、いけないよね……私も師匠たちのところに行かなきゃ」
 そしてミキも踵を返し、フォレスとフレイとは逆の方向へと駆け出す。



「ねえ」
「なんだ?」
「いっこだけ、聞いてもいい?」
 ミキと別れた二人は、空中都市の草原地帯を横断していた。
 男の背中に、へばり付くようにして乗っかった少女は、不安げな声で尋ねる。
「あたしの足はもう治って、その気になれば一人でも生きていけるけど……それでも、まだ一緒にいてくれる?」
 少女の切実な願い。男は足を止め、目を閉じ、息を吐き、言葉を紡いだ。
「……たりめーだ」
 粗雑で短く思いやりもない吐き捨てるような言葉だったが、その一言だけで少女の顔は明るくなる。
「えへへー……やっぱ優しいねー」
「そんなんじゃねえよ……俺だって、今更お前のいない生活なんざ考えられねえからな」
 抱きつくように細腕に力を込める少女の言葉に、男はそう返す。すると少女もその返答は予想だにしなかたのか、ぽかんとしたように口を開く。
 すぐにおちょくったようないつもの返しが来ると思っていた男は、こちらも予想外だった少女の反応を受け、自分の言葉に赤面する。
「あ、いや……それに、どうせお前みたいな面倒くさがりじゃあどっちみち一人で生きるなんざ無理だ。足のリハビリもあるだろうしな。どうせだったら、最後まで俺が付き合ってやる」
 矢継ぎ早に、言い訳するように言葉を発していく男に、少女はフッと微笑んだ。
「うん……ありがとう」
「……ああ」
 しばらく二人の間には沈黙が訪れる。広い草原の真ん中で、二人は天を仰ぐ。
「……なあ」
「んー? なーにー?」
「お前、俺んち来るか?」
 男は唐突に言った。
「家を出たっきり連絡してねえから見限られてるかもしれねえが……俺ももう住む場所のアテがそんくらいしかねえ。どうせまた一緒に暮らすんなら、もう俺の故郷でもいいだろ。お前が大好きな妹もいるぞ」
「あたしはどこでもいいよー……あなたと一緒なら、どこでもね」
「……そうかよ」
 今度は男がフッと微笑み、また沈黙。しばらくして、少女が再び問いかける。
「……ねえ」
「なんだ?」
「あたしのこと、好き?」
「はっ。馬鹿が、お前はまだガキだろ。生意気言う前に、まずは自分のことをなんとかしろよ」
「ちぇー、冷たいでやんのー」
 二人は青空の下、草原を渡る。
 天空に吹くそよ風に、歓喜と未来の思いを乗せながら——