二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 557章 信仰 ( No.813 )
日時: 2013/03/28 06:12
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 プラズマ団——特に7Pの面々は、各々違う目的の下に動いている。
 アシドは研究のための環境を求めて、フレイは大切な人と一緒にいたいゆえ、フォレスは一人の女性に幸福を教えるため、レイは自分の道を探すべく、エレクトロは記憶を失いどうにもならなかったから、ドランは強制され——そしてザートは、伝説ポケモンの力を、世界に示すべく7Pとなった。
 ゲーチスの野望は、キュレムの力を持って世界を制圧し、支配すること。ザートの目的は、キュレムの力で世界を制圧し、伝説の力を世界に知らしめること。
 一見似たような二人の目的だが、決定的に違うところは、ゲーチスの最大目標が支配であることに対し、ザートの最大目標はキュレムの力の誇示である。
 ザート——彼女はとある北の地方の巫女だった。
 巫女、即ち神に仕える者、この世界で言えば、伝説のポケモンを崇める者だ。
 彼女には、その地方の巫女としての才能があった。神の声を聞き、思いに触れ、啓示を受けた、それを民衆に伝えた。
 彼女もまた、アシドやフレイなどとは違う方面での天才だったのだ。そのため彼女はいつしか大地の巫女——ガイアと呼ばれ、その才能を如何なく発揮した。
 だが、技術力、科学力、情報力の発達していく世界では、神などというものの信仰は薄れていく。もはやその事実が、流布されるように人々へと移っていった。
 誰も伝説のポケモンの力などは信じない。彼女はそれを許せなかった。
 あるとき彼女は、神の声を聞き、一つの物事を予言した。それは、遠くない未来、彼女の街が災害に見舞われることだった。
 彼女は使命としてその事実をすぐに民衆へと伝えたが、それを信じる者は一人もいない。彼女の力も、伝説のポケモンも、誰も信仰しない。
 伝説は、伝説のまま。いつしか歴史の陰に埋もれていく。
 彼女は考えた。どうすれば皆、神——伝説のポケモンに対する信仰を取り戻すのか。そして行き着いたのが、力を示すことだった。
 伝説のポケモンが如何に強大なものであるかをこの世界に示す。その事実を知れば、信仰を失ったものと言えども、伝説という存在を受け入れずにはいられないだろう。
 だから、彼女はゲーチスに付き従った。キュレムという伝説の龍を復活させ、その力を世界に知らしめる。そうすれば、信仰心が消えた民衆は、その怒りに触れたくないがゆえに伝説のポケモンを信仰せざるをえなくなる。
 そのため、ザートとゲーチスは利害が一致し、手を組んだ。
 余談だが、彼女の存在があったからこそゲーチスは7Pの設立を思いたのだ。
 ゲーチスに最も近く、伝説のポケモンであるキュレムに対して最も切実で、7Pの始祖とも言える彼女だからこそ、彼女は7Pの頂点に君臨している。
 ゲーチスに服従している彼女だが、決して彼の傀儡というわけではない。
 キュレムの刻印をその身に刻んだ彼女は、かつての巫女としての諱、ガイアを名乗ることで、自分が巫女であることを忘れないようにしている。
 伝説のポケモンに対する真摯な思い。そのたった一つの信念だけが、彼女の生きる意味なのだ——



「我は……こんなところで負けるわけにはいかないのだ! 必ずやキュレムを復活させ、この世界に伝説の信仰を取り戻す! それが我の役目だ!」
 ザートは叫ぶと、握った最後のボールを放る。
「出撃! ハサーガ!」
 ガイアの最後のポケモン、ナーガポケモン、ハサーガ。
 黄土色の体を持つ異形の大蛇だ。一歩足の人型に見えなくもないが、足、両手、胸、頭——計五つの頭を持ち、その一つには殻が被さっている。
 ハサーガは五つの頭で激しく威嚇する。しかも大きさが異常とも言えるほど巨体で、ドランのドラドーンに匹敵するほどの巨躯を誇る。その姿は、正に砂漠の怪物だ。
「遂に来たか……!」
 ハサーガの登場で、イリスに緊張が走る。
 未解放ならプラズマ団最弱であるザート——否、ガイア。そんな彼でもこのハサーガだけは別格で、解放せずともイリスのリーテイルを追い詰めるほどの力を発揮していた。
 以前戦った時は未解放。だが今回は解放状態だ。あの時点で相当な強さであったハサーガが、さらに強力になると思えば、確かに7Pでは最強かもしれない。
「でも、僕らだって強くなってる。負けるわけにはいかないんだ! フローゼル、アクアジェット!」
 フローゼルは水流をその身に纏い、超高速でハサーガに突っ込んでいくが、
「ハサーガ、ドラゴンバイト!」
 腕のような部位の頭が牙を剥き、フローゼルの突撃は止められてしまう。
「潜る!」
 そして次の瞬間、ハサーガは砂の中へと潜ってしまう。
「っ、どこから……?」
 気を張って、周囲を注視するイリス。あれほどの巨体が動けば、地面にも異常が起こるはずだと考えていたが、
「やれ、ハサーガ!」
 直後、地面からハサーガの頭が一つだけ飛び出し、フローゼルを突き上げた。
「! フローゼル!」
 空中に放り出されたフローゼルはあえなく落下し、地面に叩きつけられる。ガルラーダ戦でのダメージもあり、フローゼルはそこで戦闘不能となった。
「戻って、フローゼル。ガルラーダを倒しただけでも十分だ。よくやってくれた」
 イリスはそう言葉をかけ、フローゼルをボールに戻す。これで、イリスの手持ちも残り一体。
「相手はハサーガ。それならやっぱり、君しかいないよね」
 イリスはボールを握り締め、最後のポケモンを繰り出す。
「行くよ、リーテイル!」
 イリス最後のポケモンは、発芽ポケモン、リーテイル。
 獣のような雄々しくも凛々しい顔つきに、しっかりとした体格。背中と尻尾には深緑の葉っぱがあり、首元は赤紫色の体毛で覆われている。
 イリスの第二期エース称され、その実力は第一期エースのダイケンキと双肩を成すほど。
 加えて相手はハサーガだ。リーテイルは草技で弱点を突け、逆にハサーガの地面技はリーテイルには届かない。タイプ相性を考えても、圧倒的にリーテイルが有利。
 とはいえ前回も同じ条件でかなり苦戦したため、油断はできない。絶対に勝つと心の中で呟き、イリスは気を引き締めるが、
「……あれ?」
 思わず声が漏れてしまう。
 だが無理もないだろう。今からハサーガを倒そうと意気込んだ矢先、そのハサーガの姿がないのだから。
「どこに行った……って、まさか」
 イリスは視線を周囲に巡らせた瞬間に既視感を覚え、ハサーガの所在を察知する。そして、視線を砂漠の地面へと向け、

「ハサーガ、ドラゴンバイト!」

 次の瞬間、地面からハサーガの頭が飛び出す。今度は二つだ。
 ハサーガは牙を剥き、リーテイルに襲い掛かる。
「まだ地中にいたのか! リーテイル、かわせ!」
 リーテイルは羽ばたいて上昇し、間一髪のところでハサーガの牙を回避する。もしイリスの察知があの一秒でも遅ければ、ハサーガの牙はリーテイルに突き刺さっていただろう。
 ハサーガは攻撃を回避され、ゆっくりと地中に沈んでいく。それから地上へと姿を現す気配はない。
「まさか、ずっと潜っているつもりか……!」
 砂漠の地面を見つめ、イリスは唸る。それに対しザートは、あっさりと肯定した。
「そのまさかだ。我がハサーガは地中に身を潜めてからが本領を発揮する。そのために、潜るの技も永久に地中へと潜れるよう鍛えた。貴様もすぐに砂漠の底へと引きずり込んでやろう! ハサーガ、ドラゴンバイト!」
 またしても地中からハサーガの頭が三つ飛び出す。
「くっ、リーテイル、かわしてリーフブレードだ!」
 襲い掛かる牙を潜り抜け、リーテイルは尻尾の葉っぱでハサーガを切り裂いていく。
 効果抜群のはずだが、ハサーガは怯むことなくリーテイルへと牙を剥く。
「やっぱり殻を被った頭に攻撃しないと効果は薄いのか……」
 ハサーガは殻を被っている頭だけが思考することができ、その頭が司令塔となって指示を出している。そのため、ガルラーダとは方向性が違うものの、ハサーガの弱点も頭の殻ということになる。
 以前もその弱点を突いて勝利を収めたリーテイルだが、今のハサーガのように地中に潜られてはその弱点を突くこともできない。地上に飛び出しているのは全て殻のない頭なので、恐らく弱点を隠し続けるつもりだろう。
「ハサーガ、ドラゴンバイトだ!」
 ハサーガの攻撃は止まらず、三つの頭が牙を剥いてリーテイルに襲い掛かる。三つの頭が同時に襲い掛かってくるのは脅威だが、攻撃自体は単調なので、リーテイルの機動力があればかわすのは難しくない。
 だが、
「怒りの炎!」
 ハサーガの頭の一つが炎を吐き出した。発生させるのではなく火炎放射のように口から放たれた業火は、まっすぐにリーテイルへと襲い掛かる。
「っ、かわせ!」
 ギリギリ業火を回避するリーテイル。いきなりだったので少々焦ったが、やはり攻撃は単調だ。
 などと思っていたら、
「ぶち壊す!」
 残り二つの頭が同時にリーテイルへと突っ込んできた。
「なっ……リーテイル!」
 片方は咄嗟にかわしたが、もう片方は直撃を喰らい、リーテイルは吹っ飛ばされた。
「リーテイル、大丈夫?」
 吹っ飛ばされたリーテイルはむくりと起き上がる。リーテイルはイリスの二代目のエースだ。一発や二発の直撃程度ではやられはしない。
 なにはともあれ、イリスとザート、二人の最後の戦いは、まだまだ続く。