二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 562章 復活 ( No.827 )
日時: 2013/03/29 16:51
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「英雄、そもそもあなたはキュレムの復活にどのくらいのエネルギーを要すると思いますか?」
 唐突に、ゲーチスはそう訪ねてきた。
 だがそんなことを言われてもイリスには分からない。なのでイリスが黙っていると、ゲーチスは口を開く。
「キュレムの封印は本当に強固なものでしてね。生半可なエネルギー量ではびくともしません。軽く世界のエネルギー不足を解消できるほど莫大な、それでいて良質なエネルギーを注ぎこまなければ、この氷塊が溶けることはないのですよ」
 氷漬けにされたキュレムを一瞥し、ゲーチスは続ける。
「ワタクシは色々考えました。それと同時に境界の水晶についても、アクロマというアシドに次ぐ科学者の手を借りて調べ尽くしました。そして、分かったのです。境界の水晶に最大までエネルギーを溜めこんだとしても、キュレムの復活は不可能だと」
「っ……?」
 ゲーチスの言葉を受けてイリスは反応を示すが、次の言葉を紡ぐ前にゲーチスが発声した。
「正確に言えば、境界の水晶に最大までエネルギーを溜め、それをこの氷塊に流し込む。その作業を延々と続けて行けば、いずれキュレムは復活するそうですが……流石にそこまで悠長にやっている暇はありません。なにせ、あなた方がことごとく邪魔をするのですからね」
 ですから、とゲーチスは続ける。
「ワタクシは短期間でキュレムの封印を解く、莫大かつ良質なエネルギーを蓄える術を探したのです。これは7Pでも知らない話ですよ。知るのはワタクシとアクロマだけです」
 そのアクロマという人物が誰なのかイリスは知らないが、どうやらゲーチスが信頼を置いている——というより、信用して利用しても支障ないと判断している人物のようだ。それでいて、7Pとは違う立場ではあるものの、高い地位にいる人物であることも窺い知れる。
「アクロマの研究結果により、ワタクシはキュレムの氷塊——そこから削り出した氷で刻む刻印、我々がキュレムの刻印と名付けるものに注目しました。この刻印は、刻むと同時にその者の核となる物事——例えば、ザートなら巫女としての自分、ドランなら自らの本性、レイなら溢れ出る感情——を一時的に封印するのです」
 それを聞いて、イリスは納得したような表情を浮かべる。
 だが、まだゲーチスの説明は終わらない。
「そして、この時キュレムの刻印は面白い力を発揮ましてね。刻印を刻むと、刻まれた者は時間の経過や感情の高ぶり、戦闘行為などを経ることで人間から発せられる波動の力——その余剰エネルギーを吸収し、さらなる時間の経過で増幅する特質を持っているのです。その蓄えた力の一部を行使するのが、7Pの解放状態です」
 つまり、7Pは基本的に何もしなくても、というより普通に生活しているだけでもエネルギーを蓄えてそれを増幅しており、解放状態というのはその増幅された余りの力を受けることで強くなる、ということだろうか。
 ならば解放率や解放時の強さの違いがあるのは、蓄えたエネルギーを引き出せる量が人によって違うから。
 と、ここまでイリスは推理し、整理した。恐らく、概ね当たっているだろう。
 それと同時に、もう一つ、イリスの頭の中に何かがよぎった。
「あれ……? ていうことは、今の7Pって、相当なエネルギーを溜めこんでて……エネルギー? ……っ!」
「お分かりですか」
 ゲーチスは勝ち誇ったような表情を浮かべる。
「お察しの通り、キュレムの刻印はキュレムを復活させるためのエネルギーを集めるためのもの。7Pの面々は本当によくやってくれました。お陰で、一、二年程度の期間でキュレムを復活させることができるのですから」
 つまり、7Pとはキュレムを復活させるためにエネルギーを蓄えさせられた、いわば発電機。
 そのためだけに、ゲーチスは七人の7Pを、世界中からかき集めた。
「なんて、奴だ……!」
 しかもゲーチス自身、今の話は7Pも知らないと言っていた。つまり結局、ゲーチスは7Pを利用しただけなのだ。
 険しい眼差しで睨み付けられるゲーチスだが、動じた様子もなく、むしろ不敵な笑みを浮かべている。
「さて、ワタクシからの演説はこれで終わりです。そしていよいろ、キュレムが復活する時です——!」
 刹那、キュレムを覆う氷塊が七色に光る。しかしその光は暗く、濁ったように輝いている。
「くっ、ディザソル!」
 咄嗟にディザソルに指示を出すが、氷塊が発する言いようもない威圧感で、ディザソルも動けないようだ。
 そうしている間にも、氷塊——そしてキュレムに変化が起こる。
 イリスは氷塊が光を発しているものだと思ったが、光が収束されていくにつれ、実際は氷塊の中に幽閉されたキュレムが光っていることを知る。
 腹は紫、右翼は赤、左翼は緑、両脚は青、両手は黄、顔面は藍、首は橙——それぞれの部位が、七色に光っている。



「ガッ……!?」
 ジバコイルに乗って飛行している途中、アシドは腹部に疼きを感じ、ジバコイルを止めさせる。
「んだぁ、こりゃ……?」
 Tシャツを捲って腹を確認すると、そこには先ほどまであったはずの、キュレムの腹を模した刻印が消えていた。
「なんかあったか……僕の設定通りに進めば、今頃はジャイアントホールに着いてるか。ケヒャッ、どうやら僕は、まだ退場が認められないらしいな。おい、ジバコイル!」
 アシドは叫び、ジバコイルに指示を飛ばす。
「進路変更だ。今すぐジャイアントホールに向かえ」



「ん……っ」
「ぐっ、んだ……?」
 フレイは右腕、フォレスは左腕に疼きを感じ、それぞれ袖を捲って腕の状態を見る。
 するとそこには、フレイは右翼、フォレスは左翼。それぞれ刻まれていたはずのキュレムの刻印がなくなっていた。
「刻印がないよー……? なんでー?」
「さあな。だが、どうやら俺たちは、ゲーチスに利用されていたっぽい」
 フォレスはずっと先にある樹海を一瞥し、言った。
「俺たちも行くぞ。このまま、何が起こったか分からず仕舞いで終わらせたくはねえ」
「おっけー、了解だよー」



「うっ……!」
「おい、どうしたっ?」
 突然、両脚に疼きを感じ、レイはしゃがみ込んでしまう。ザキも何事かとレイに声をかけ、同じ姿勢になった。
「これは……」
 レイはワンピースの裾を捲り、白い太腿を露出させる。そこには、レイの体で唯一残っている傷であった、キュレムの両脚を模した刻印が消滅している。
「ジャイアントホールで、何かあったのかもしれません……あの、ザキさん」
「言わなくても分かってるつーの。行くぞ、俺もゲーチスの野郎を止めなくちゃならねえしな」



「っ……!」
 キリハ、アキラ、そしてアキラに背負われたリオと共に歩んでいる途中、エレクトロは両手の甲に疼きを感じ、立ち止まった。
「? どうした?」
「……両手が」
 エレクトロが急に止まったため、キリハとアキラも同時に足を止める。
 エレクトロは手袋を外し、手の甲を確認するが、
「刻印が、なくなっている……?」
 両手刻まれたキュレムの両手の刻印が、跡形もなく消えていた。左右どちらもだ。
「……何があったのかは分かりませんが、嫌な予感がします。急いだ方がいいかもしれません」
「そうだね。この都市ももう止まったみたいだ、急ごうか」
「了解でっす」



「……?」
 ムントは手にした牙に、言いようもない疼くような感覚を覚えた。何事かとそれを顔の前まで持ってくると、突然その牙から光が放射された。
「っ、なんだ……?」
 光は一瞬だけ、虚空に龍の顔のようなものを映したが、すぐに消えてしまう。それっきり、疼くような感覚もない。
「……何かあったみたいだな。急ぐか」



「ぐぅ……!?」
 ザート——否、ガイアは、自身の首に激しい疼きを感じる。
 しばらく首を押さえて蹲っていると、やがて疼きも止まる。しかし同時に、自分の体に変化が起こっていることに気付いた。
「これは……ガイアではない……!? まさか、刻印が……!?」
 咄嗟に首をなぞるガイア——否、ザートは、そこに刻まれていた刻印がなくなっていることにも気付く。
 突如消え去った刻印。その事実に戸惑うも、ザートはキュレム復活の兆しを感じ、憔悴しながらも微笑む。
「ゲーチス様……!」



 七色の濁った光を受け、氷塊にひびが入る。
「刻印に充填された力は、キュレムの各部に注がれたようですね。では、これで最後です」
 ゲーチスは手にした境界の水晶を掲げる。すると、水晶からも濁った灰色の光が発せられた。
「まさか、本当に復活するのか……!?」
 八つの光を受け、氷塊はピキピキとひび割れていく。
 そして、

 ——パキンッ

「————」

 地上最強のドラゴン、真実と理想の抜殻、虚無の龍、混濁の使者——数々の名を持つジャイアントホールの主。
 境界ポケモン——キュレムが、復活した。