二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 571章 共闘 ( No.839 )
日時: 2013/04/01 20:28
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 Nとゲーチスは互いに倒れたポケモンをボールに戻す。これでゲーチスの残るポケモンはあと一体、対するNは二体と、ゲーチスがいよいよ追い詰められた形となる。
「……いや、まだ終わってはいない。ワタクシには、このポケモンがいるのだ……!」
 ゲーチスは最後のボールを握り締め、血走った眼でNを睨み付ける。
「まだ、ワタクシは終わらない……! このイッシュを、そして世界を! 完全に支配し尽くすまでは、終わるわけにはいかないのだ!」
 狂ったように叫び散らすと、ゲーチスは八つ当たりのように最後のボールを投げ飛ばす。
 そして、三つ首の龍が姿を現す。

「サザンドラ! 抗う民に灰色の絶望を!」

 ゲーチス最後のポケモン、凶暴ポケモン、サザンドラ。
 両腕が頭となった三つ首の龍。三対の漆黒の翼を持ち、凶悪な眼光でNを睨み付けている。また、通常のサザンドラと比べて三倍以上もある体躯と、かなりの巨体だ。
 サザンドラはゲーチスの最後の砦。今まで戦ってきたポケモンたちとは一線を画し、それを誇示するかの如く巨躯を見せつけ、威嚇する。
「……!」
 その圧倒的とも言える覇気を前に、Nは一歩後ろに退いてしまうが、すぐに前に出る。
「……大丈夫だ。僕には、ゲーチスにない力がある。トモダチ——いや、仲間という力があるんだ」
 Nも次のボールを取り出すが、それはNのボールではない。
 長い年月を経たように傷の入ったモンスターボール。その中からは、溢れんばかりのたゆたう激流の如き力が伝わってくる。
「イリス……君の仲間の力、借りるよ」
 小さく呟き、Nも手にしたボールを放り投げる。
 そして、激流迸る一角の海獣が姿を現す。

「僕に力を貸してくれ! ダイケンキ!」

 Nの次なるポケモンは、貫禄ポケモン、ダイケンキ。
 青い体を持つ海獣のような意匠。豊かな白髭と、貝の鎧を纏い、兜は鋭い角となった法螺貝のような形をしている。
 前足の鎧から一振りの刀——ダイケンキの分身とも呼べる武器、アシガタナを抜き、構える。
「そのダイケンキは……!」
 ゲーチスがさらに険しい眼でNを睨み、露骨に不愉快だと言わんばかりの表情を見せる。
「あの忌々しいダイケンキ……真実の英雄め!」
 そう、このダイケンキはNのポケモンではない。Nとは違う、もう一人の英雄、イリスのエースポケモンだ。
 過去に一年旅をし、一年空白の時間があっても離れず、さらに一年再び旅をした、彼の仲間。
 Nは最初の一年、何度もこのダイケンキと戦った。勝ったり負けたりを繰り返し、最後には自分のエースが敗北したポケモン。それが今、仲間として戦ってくれている。これ以上に頼もしいことはない。
「ふん。しかし、そのダイケンキはもう一人の英雄の力があってこそ真価を発揮する。貴様程度が使いこなせるわけがない!」
 ゲーチスは二年前、このダイケンキ一体に、当時所持していた六体のポケモンを全壊させられた。そのためか、ムキになっているかのように叫ぶ。
「……そうだね。僕じゃあイリスのダイケンキの力を全て引き出すなんて出来ない。でも」
 逆上しているゲーチスとは対照的に、落ち着き払ったN。Nは、静かに言葉を紡ぐ。
「僕の仲間が貸してくれた力だ。その力と、思いには応えなくちゃいけない。ダイケンキ、もう一度言おう。僕に、力を貸してくれ」
 真摯な面持ちでNが言うと、ダイケンキは静かに首を縦に振った。
「……ありがとう、ダイケンキ」
 そして、バトルは再開される。
「ダイケンキ、シェルブレード!」
「サザンドラ、悪の波動!」
 ダイケンキはアシガタナに水のエネルギーを纏わせて振るい、サザンドラは三つの頭から悪意に満ちた波動を発射する。
 斬撃と波動がぶつかり合い、やがてダイケンキは身を退き、波導も消滅した。
「吹雪だ!」
「火炎放射です!」
 ダイケンキは続けて凍てつく猛吹雪を放つが、サザンドラも三つの頭から同時に炎を吹き、吹雪を相殺する。
「生温い攻撃ですね。サザンドラ、大地の力!」
 サザンドラは咆哮し、次の瞬間、ダイケンキの足元から土砂が噴き出す。
「くっ、だったらこれだ! ダイケンキ、メガホーン!」
 土砂に襲われながらもダイケンキは地面を蹴り、大きく飛び上がって角の一撃をサザンドラに突き込む。
 効果抜群の攻撃を喰らい、サザンドラはぐらりと姿勢を崩してしまった。
「そこだ! シェルブレード!」
 その隙に素早くアシガタナを抜いたダイケンキは、二連続でサザンドラを切り裂く。
「もう一度だ! シェルブレード!」
「調子に乗るなと言ったはずだ! 火炎放射!」
 ダイケンキはさらに刀を振るおうとするが、サザンドラも黙ってはいない。サザンドラも両腕の頭から炎を吐いてダイケンキの動きを止め、最後に頭からも火炎放射を放ち、ダイケンキを地面に落とす。
「悪の波動です!」
 続けてサザンドラは悪意に満ちた波動を連続して発射し、ダイケンキを追撃。一撃一撃の威力が高いので、連続攻撃は辛い。しかし、
「吹雪!」
 悪の波動で生じた砂煙を吹き飛ばし、ダイケンキは凍てつく猛吹雪を放ってサザンドラを攻撃する。これも効果抜群なので、サザンドラへのダメージは大きいはずだ。
「ぬぅ、サザンドラ、大地の力!」
「ダイケンキ、防御だ!」
 サザンドラは大地を揺るがし、地面から大量の土砂を噴射してダイケンキを攻撃する。対するダイケンキは身を縮めて鎧に体を隠し、土砂によるダメージを最小限に抑える。
「火炎放射です!」
「シェルブレードだ!」
 サザンドラは灼熱の火炎を放つが、ダイケンキのアシガタナで振り払われる。
「ダイケンキ、メガホーンだ!」
 そしてダイケンキも勢いよく跳躍し、サザンドラに角の一撃を突き込む。
 だが今度の攻撃は予測していたのか、サザンドラはその一撃を耐え切り、態勢も崩していない。つまり、
「撃ち落とせ! 悪の波動!」
 直後にサザンドラの反撃が放たれる。至近距離から三発もの悪の波動を直撃され、ダイケンキは地面へと墜落した。
「ダイケンキ、大丈夫?」
 砂煙を巻き上げ、体を起こすダイケンキは、大きく雄叫びを上げる。このくらいの猛撃なら今まで何度も受けてきた。まだ、ダイケンキもやられたりはしない。
「ありがとうダイケンキ、流石イリスのポケモンだ。頼んだよ、吹雪!」
 ダイケンキはサザンドラを見据え、凍てつく猛吹雪を放つ。
「サザンドラ、火炎放射!」
 だが吹雪はサザンドラの放つ火炎放射に相殺されてしまう。
 以前のサザンドラは、大文字でやっとダイケンキの吹雪を相殺できる程度の力だった。しかし今は、タイプ相性で勝っているとはいえ、火炎放射で完全に吹雪を打ち消している。Nがダイケンキの力を全て引き出せないことを考慮しても、ゲーチスとサザンドラは以前よりも格段に強くなっている。
 これが、ゲーチスの野望の力。善悪はともかく、世界を支配するという強い信念が、彼とサザンドラを強くしたといことなのだろうか。
「悪の波動!」
「シェルブレード!」
 サザンドラの悪の波動を、ダイケンキはシェルブレードで打ち消す。
「大地の力!」
 続けてサザンドラは大地の力を繰り出し、地面から噴き出される土砂でダイケンキを攻撃する。この攻撃は避けるどころか相殺も難しい。なので、防御することでなんとか耐え切る。
「いつまでも耐えていられると思うな! サザンドラ、悪の波動!」
 サザンドラは悪意に満ちた波動を連射し、さらにダイケンキを攻撃。怒涛の攻めは衰えもしない。
「火炎放射!」
 さらにサザンドラは、三つ首から同時に炎を噴射する。
「ダイケンキ、吹雪だ!」
 ダイケンキは凍てつく猛吹雪を放って迫り来る炎を相殺。そして身を屈め、
「メガホーン!」
 勢いよく飛び上がり、サザンドラに一角の一撃を突き込もうとするが、
「当たるものか! サザンドラ!」
 二回目で耐えられ、三回目で見切られてしまったのか、ダイケンキが繰り出す渾身の一角はサザンドラに避けられてしまう。
「悪の波動!」
 そしてすかさず悪意に満ちた波動を発射し、またもダイケンキを地面に突き落とす。
「まだだ! 悪の波動!」
 まだ攻撃し足りないのか、サザンドラは両手を広げ、悪の波動を連射する。
「くっ……頑張ってくれ、ダイケンキ! 吹雪だ!」
 ダイケンキも凍てつく猛吹雪を放つが、サザンドラの悪の波動は量が多いだけでなく密度も高く、一撃一撃が非常に重い。そのため高威力の吹雪でも、相殺するのが精一杯だった。
「やっぱり、あれで決めるしかないのか……!」
 いつもダイケンキが勝利を切り開いてきた、彼の代名詞とも言える必殺技。些か時期尚早という気はしないでもないが、このままだとサザンドラに押し切られてしまいそうだ。
「でも、ただ撃っても避けられるだけ。なら……ダイケンキ、シェルブレード! サザンドラに突き刺すんだ!」
 ダイケンキはアシガタナを二刀流に構えると、それらを両方とも投擲し、サザンドラの腹部に突き刺した。
「なぬっ、サザンドラ!」
 ダメージ自体はそこまで大きくはないだろうが、サザンドラの動きを止めるには十分。今のうちに、ダイケンキは激流の力を凝縮させる。
「……イリス」
 小さく呟き、Nはダイケンキに最後の指示を出す。

「ダイケンキ、ハイドロカノン!」

 刹那、激流の弾丸が——三つ首の龍に撃ち込まれた