二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 573章 分離 ( No.841 )
- 日時: 2013/04/02 17:49
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「っ、ウォーグル!」
ホワイトキュレムが繰り出す龍の波動を避けきれず、ウォーグルは吹っ飛ばされた。クロスフレイムで既に相当なダメージを負っていたため、この一撃でウォーグルは戦闘不能だ。
「くっ……これで、残るはデスカーンとチラチーノだけか」
しかもデスカーンはウォーグルと同じようにクロスフレイムで致命傷を受け、チラチーノもずっと攻撃し続けていたために疲弊している。
「でも、もう少しなんだ。もう少しで、レシラムは……」
なんとなく、イリスには伝わってくる。キュレムとレシラムは分離しかかっていることが分かる。あと少し乗り切って、二体が分離すれば、そこでキュレムを捕獲する。
イリスはイリゼに手渡されたマスターボールを強く握り込み、残る二体のポケモンに指示を出す。
「デスカーン、鬼火! チラチーノ、ロックブラスト!」
デスカーンは青白い火の玉を、チラチーノは無数の岩石をそれぞれ放つが、ホワイトキュレムの大地の力で阻まれてしまう。
「まだだ! デスカーン、サイコキネシス! チラチーノは横からロックブラスト!」
デスカーンはそのまま念波を放ち、チラチーノは角度を変えて岩を連射する。相殺はしても攻撃を避けないホワイトキュレムには、どちらの攻撃も直撃した。
「おい、イリス」
とその時、イリゼから声がかかる。
「どうしたの? 父さん」
「お前も気付いてるだろうが、キュレムがレシラムと剥がれかかってる。そろそろ攻め時だ」
どうやらイリゼも気付いていたらしい。攻め時ということは、今まで力を温存していたゼクロムにも攻撃させるということだ。
「俺たちが一斉攻撃で奴を叩き、直後にゼクロムがでかい一撃をぶち込む。そうすりゃたぶん、奴とレシラムは分離するはずだ」
「もし……分離しなかったら?」
「そん時になったら考えろ。行くぞ!」
イリゼは残ったポケモンたちに指示を出し、一斉にホワイトキュレムを攻撃する。どの攻撃も高火力だが、特にヒードランのマグマストームが凄まじかった。以前戦った時よりも強化されているように感じる。
「よし、僕らも……デスカーン、シャドーボール! チラチーノ、スイープビンタ!」
デスカーンは四つの腕から影の球を発射し、チラチーノはホワイトキュレムに急接近して連続で尻尾を叩き付ける。
この攻撃が止んだら、すぐにゼクロムの雷撃を叩き込む。イリスがゼクロムとそう目配せをした瞬間——ホワイトキュレムの頭上に、いくつもの火球が現れた。
「っ、クロスフレイム!? しかも、なんて量だ……!」
レシラムでも一度に一発しか放てないクロスフレイム、それをホワイトキュレムは、十発近く同時に生成している。
「これはまずいねぇ。ただでさえ残存戦力が少ないのに、ここでそんな大技を連発されると、僕が困っちゃうよ」
「ぼさっとしてんな! さっさと避けろ!」
とイリゼが叫ぶが、もう遅かった。
直後、無数の火球がホワイトキュレムを包囲していたポケモンたちに、降り注ぐ。
「——!」
そのあまりの熱気に、思わず腕で顔を覆うイリス。熱気が収まってきた頃に、なんとか前方を確認するが、
「デスカーン! チラチーノ!」
そこには戦闘不能となったデスカーンとチラチーノの姿があった。いや、この二体だけでなく、他の者たちのポケモンも全滅だ。イリゼのヒードランも、ターボブレイズの特性で貰い火を貫通され、等倍のクロスフレイムを喰らってしまっている。
さらに、イリスたちの不運は続く。
ホワイトキュレムが冷気を吸収し、周囲に熱気を放出し始めたのだ。
「コールドフレア!? 金縛りが解けたのか……!」
よりによってデスカーンが倒された直後に金縛りが解かれ、金縛りが解けた直後にコールドフレアを放つホワイトキュレム。あんな攻撃、ポケモンでも回避が難しいというのに、生身の人間が避けられるわけがない。
絶対絶の命の危機に瀕した一同。しかし、その危機を救うのが、英雄の役目だ。
「っ、ゼクロム!」
今まで後方で待機していたゼクロムが飛び立ち、激しい雷撃をぶつけてホワイトキュレムを攻撃する。その際、ホワイトキュレムは体が麻痺してしまったようで、コールドフレアも不発に終わった。
「そうだ、まだ全滅じゃない。ゼクロムがいる……!」
Nから借り受けたポケモン、真実を司る黒龍、ゼクロム。レシラムをキュレムから引き剥がすのに、これ以上の適任はいないだろう。
「ゼクロム、思念の頭突きだ!」
ゼクロムは一旦ホワイトキュレムから離れ、頭に思念を集めて突貫。ホワイトキュレムに強烈な頭突きをかます。
「ドラゴンクロー!」
続けて龍の力を宿した爪で引き裂く。普通のポケモンでは動じなかったホワイトキュレムでも、ゼクロムの攻撃なら効くようで、態勢が少し崩れた。
だがホワイトキュレムも負けてはいない。地面から土砂を噴出し、ゼクロムを引き剥がす。そして直後、頭上に巨大な火球を生成する。
「ゼクロム!」
生み出された火球は一直線にゼクロムへと向かっていき、レシラムのものよりも圧倒的に強い炎は黒い体を焼き焦がしていく。
だがしかし、その炎は、ゼクロムに力を与えるものでもあった。
「ゼクロム、クロスサンダー!」
ゼクロムは全身に弾ける雷を纏う。雷はゼクロムを襲う炎を吸収し、その力を肥大化させていく。
「デュアルクロス……ゼクロム、頼んだ!」
ゼクロムは急上昇し、ホワイトキュレムの頭上まで飛ぶ。そして自身が巨大な雷球となり、ホワイトキュレムへと突撃した。
「ゼクロム!」
雷が弾け、ホワイトキュレムは甲高い叫び声を上げる。ジェットエンジンに接続されていたコードは外れ、氷塊のプロテクターも砕け、体の白い部分は灰色に染まっていく。
「分離してる、のか……?」
灰色の体は地面に這いつくばるような姿勢となり、背中からは純白の体が飛び出していた。間違いない、レシラムだ。
ゼクロムの雷を受け、キュレムとレシラムが分離している。
チャンスはレシラムとキュレムが完全に分離した一瞬。その一瞬で、全てのポケモンを捕まえられるマスターボールで、キュレムを捕獲する。
イリスは確実にボールをぶつけるため、距離を調整しつつキュレムに近づく。レシラムの体はもうほとんど出ており、あと少しで完全に分離するだろう。
イリスはいつでも投げられるように、握り込んだマスターボールを構えた。その時、
レシラムが火の粉を散らし、大空に飛び立った。
「今だ! イリス!」
イリゼが叫ぶ。
キュレムとレシラムが完全に分離した。あとは手にしたボールを投げるだけで、長かったこの戦いも終結する。
「行け——!」
小さく呟きながら、イリスは力いっぱい、それでいて的確にキュレムを狙って、マスターボールを投げつける。
キュレムにボールが直撃し、カプセルが開いてキュレムをその中に封じ込める。
カチ
思えばこの戦いも本当に長かった。始まりは三年前、7幹部といった者たちとの戦いからだった。
カチ
一年経って、遂に戦いが終わるかと思えば、そこからが本当の戦いだった。7Pという、途轍もない力を持つ者たちと争い、時には敗れ、ポケモンと成長しながらここまで戦ってきた。
カチ
そして今、最後の敵、ゲーチスをNが倒し、自分は世界を滅ぼしかねない龍、キュレムを捕獲する。そうして、イッシュの危機は去り、この長かった戦いも終結する。
次の一音で、キュレムは捕獲される——世界が、救われる。
そして、
カチン
最後の音が鳴る——
——パキンッ
刹那、マスターボールが、砕け散った。