二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 575章 母親 ( No.845 )
- 日時: 2013/04/04 19:45
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「そんな、ブラックキュレムだなんて……どうすればいいんだ」
現状、イリスたちの手持ちは全滅。残っているのはレシラムのみ。残ったイリスたちのポケモン総出でホワイトキュレムを攻撃し、最後の最後でゼクロムがなんとか分離させたが、逆に言えばそうでもしなければキュレムとゼクロムを引き剥がすこともできないということだ。レシラム一体で太刀打ちできるはずがない。マスターボールがなくなり、普通のボールで捕まえようにも、ゲーチスの杖がそれを許さない。
今まで幾多もの絶体絶命の危機を乗り切ってきたイリスたちだが、流石にこの状況は絶望的すぎる。打開策が全く見当たらない。どうしようもない。
「万策尽きたようですね。それではレシラムを屠り、最後にはあなたたちをまとめて消し飛ばしてしまいましょう。ブラックキュレム! 全ての民に凍てつく世界を!」
ゲーチスの叫びを受け、ブラックキュレムは鈍い声で咆哮する。
突如、ホワイトキュレムの周囲に激しい冷気が集まり、同時に大量の電気が放出された。
「っ——! レシラム!」
レシラムはジェットエンジンを稼働させ、僅かに残った木々の隙間を縫い、大空を縦横無尽に駆け巡る。そして、
「フリーズボルト!」
電気を帯びた巨大な氷塊が作り出される。氷塊は空高く浮かび上がり、刹那——振り下ろされた。
「レシラム!」
幸い、氷塊はレシラムには直撃しなかった。
だが、氷塊が激突した地面はクレーターの如く吹き飛び、同時に砕けた氷塊の破片が四方八方に飛び散る。破片と言っても、通常のポケモンが放つスターフリーズ並みの大きさがあり、しかも衝撃波で周囲の木々や地面を砕きながら散っていく。
「っ、青い炎!」
飛び散る破片はレシラムに襲い掛かるが、レシラムは寸前で青く燃える炎を放ち、破片を相殺した。一瞬だけ電気が弾けたものの、レシラムはノーダメージでブラックキュレムの攻撃をかわすことができたが、
「これはひどいな……」
周囲を見渡すと、場の惨状は酷いものだ。もとからキュレムが凍える世界で氷結させてはいたが、その後ホワイトキュレムが暴れたせいで凍りついた木々の多くは砕け、地面は抉られ、一部には氷山の如く巨大な氷塊がそびえている。
そこにさっきのフリーズボルト。地面には巨大なクレーターが一つでき、そこを中心として四方八方にかけて地面が直線的に抉られた跡。木々もほとんどが消滅し、凍りついた世界がさらに荒らされ、まるで荒野に氷河期が訪れたかのようだ。
「こいつは、流石にどうしようもねぇな……」
「打つ手なし、か……」
イリゼとロキも、ほぼ諦めている。イリスだって、他のものだってそうだろう。残りポケモンは総合でレシラム一体。対するゲーチスはゼクロムとキュレムの力を合わせたブラックキュレム。戦闘力では圧倒的にブラックキュレムの方が上、ボールでの捕獲も不可能。となれば、いよいよ万策尽きたことになる。
「もう、終わり……なのか」
絶望の空気流れ、皆を代表するかのように生気のない声でイリスが呟く。
しかし、まだ道は閉ざされていなかった。
「まだ終わりませんよ」
「え……?」
不意に、声がかかった。女性の声だ。
イリスはその声を聞き、反射的に振り返る。すると、そこには、
「ミキ、ちゃん……?」
その女性の姿を見て口を突くように言葉を漏らすが、すぐにイリスは否定した。
(いや違う。似てるけど違う。じゃあこの人は……?)
イリスは突如現れた女性を見つめる。女性と言っても、身長自体は非常に低い——というより、体格や顔つきや髪型にいたるまで、ほぼ全てが弟子であるミキそのものだ。ただ一つ違うのは、髪色。
ミキは鮮やかなピンク色だが、この女性は雪のように真っ白だ。もしキュレムの作り出した銀世界にいれば、溶け込んでしまいそうなほど、美白の髪をしている。
イリスは突然現れた女性に対し困惑するだけだったが、四人の人物は、非常に大きな反応を見せていた。
「お母さん……?」
「……母さん」
「ユキちゃん……」
「ユキ……!」
ミキ、ザキ、ロキ、そしてイリゼの四人は、目を見開いて女性を見つめている。
ユキと呼ばれた女性は、ゆっくりとした足取りでイリスに歩み寄る。が、先に顔を向けたのは、ロキとイリゼだった。
「お久し振りです。ロキさん、イリゼ君」
声をかけられた二人は呆然としていたが、すぐに気を取り直す。
「久し振り……帰ってたんだね、ユキちゃん」
「昔から機を狙ったような奴だと思ってたが、まさかこんな時に来るとはな……」
気を取り直したものの、らしくもなく二人はまだ戸惑っていた。対するユキは、非常に落ち着いている。
「遅れて申し訳ありません。力を溜めるのに時間がかかってしまいまして……ミキとザキにも謝らなくては。しかし、大きくなりましたね」
今度はミキとザキに向き直るユキ。二人も唖然としているが、こちらからは歓喜に似た雰囲気が感じられる。
「二人にも言いたいことはあるのですが、今は時間がありません。積もる話は後でということにしていただきましょう」
ミキとザキから視線を外し、ユキはやっとイリスと向き合った。身長差があるので、イリスがユキを見下ろす形だ。
「初めまして、イリスさん。イリゼ君から名前は聞いていると思いますが、名乗らせてもらいますね。私はユキ、娘と息子がお世話になっています」
「え? えっと、はあ……」
丁寧にお辞儀までされ、イリスも戸惑ってしまう。ただ、この雪という人物が、ミキやザキが探している、行方不明になった母親だということは分かった。
問題は、彼女が何故このタイミングで現れたのか、その一点。
「知っているとは思いますが、私は巫女であり預言者です。今の状況は全て把握しています。それを踏まえて、私が今この時、この場所に現れた理由はただ一つ」
一拍置き、ユキは静かな口調で言い放つ。
「復活してしまったキュレムを、再び封印します」
その一言で、場の空気が変わった。少しだけ明るい兆しは見えたが、やはり皆はまだ困惑している。
「そ、そんなことが、出来るんですか……?」
恐る恐るイリスが尋ねると、ユキは頷いて肯定した。
「そもそも、キュレムが復活したのは今回が初めてではありません。過去に何度か、何者かの手によって復活しています。これほどの被害が出たのは初めてですが、キュレムが復活するたびに、私たちの一族は、それを封じてきたのです。この——」
言ってユキは、何かを取り出した。それは三角錐の形をした物体で、色は透明な灰色。底面には、これも透明な水色の錐体が逆方向を向いてはまっている。その外見は、まるで楔のようだった。
イリスたちは、それとよく似た物体を見たことがある。それはキュレムとレシラム、ゼクロムを繋げる楔、遺伝子の楔だ。
ユキは取り出した楔を小さな掌に載せ、イリスに差し出すように見せる。そして、
「——境界の楔によって」
その楔の名を告げた。
「境界の楔……? それがあれば、キュレムをまた封印できるんですか……?」
「はい、その通りです。ただこれも、境界の水晶のように力を溜めなくてはいけない……というより、これに溜めた力の分だけキュレムの封印が強くなります。なので、その力を溜めるのに時間がかかり、遅れてしまいましたが」
なにはともあれ、この楔があれば、キュレムをまた封印できる。イリスたちにも、未来の兆しが見えてきた。
「それではイリスさん、これをあなたにお渡しします」
「え? 僕ですか?」
いきなり重要なものを手渡され、またしてもイリスは困惑してしまう。
「私の予言した未来では、キュレムの復活は止められず、また封印する光景が見えました。その時キュレムを封印したのはあなたです、イリスさん」
温和な表情で、しかし真摯な眼差しで、訴えるようにユキはイリスに言う。
「未来は変えることが可能です。しかし、未来を変えるためにはそれ相応の大きな力が必要。ロキさんやイリゼ君は、キュレムが復活する未来自体を止めようと、色々頑張っていたようですが、結局は未来を変えるには至らなかったようです。ですがこれは、逆に言えばゲーチスも未来を変えることは困難だということです。私には、あなたがキュレムを再び封印し、世界を救う姿が見えます。あなたが世界を救う鍵なのです。ですからお願いします、イリスさん。」
「…………」
黙り込んでしまうイリスだが、ユキの言うことは最も……だと思う。そもそもユキがいなければ、この状況は変わらなかった。彼女が自分たちを救ってくれたとも言える。
ならば、彼女に逆らう理由もない。
「……はい、分かりました」
それに、自分が世界を救う鍵だというのなら、やれるだけのことはやってみせる。できることならすべてやる。いつか、そう決めたのだ。
そしてイリスは、宣言する。
「僕が、キュレムを封印します」