二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

番外編Ⅰ−それぞれの思い− ( No.8 )
日時: 2011/07/30 15:42
名前: 苺瑠・x・。 (ID: ikU4u6US)

※これは燐がサタンの息子だとばれた後の話です。尚、京都遠征に行く前の話なので、志摩と勝呂と子猫丸は病院に行っていて塾を休んでいます。

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【番外編Ⅰ−それぞれの思い−】

「神木さん、一緒に鹿子草を取りに行こう?」

祓魔塾の魔法円・印章術の授業が終わって、次の授業で使う鹿子草を取りに行こうとした時、急に背後から私—神木出雲を呼ぶ声がした。振り返ってみると、そこにいたのは杜山しえみだった。

「はぁ?まぁ…べっ別にいいけど?」

「あ、ありがとう!じゃあ行こう!」

私が渋々杜山しえみと廊下を歩いていると、奥村燐が先の方を歩いていた。きっとトレーニングが終わったあとなのだろう。Tジャツを着ている。どうやら奥村燐がいることに杜山しえみも気が付いたらしい。

「!燐…」

彼女は前までなら奥村燐の方に喜んで駆けていったであろう。でも今—奥村燐がサタンの息子であることが判ってからは、どうやって接したらいいかわからないらしい。

「あ、奥村燐」

私が呼びかけると、奥村燐が振り向いた。案の定、杜山しえみは驚いて後ずさりした。少し酷いことをしたかもしれないが、これが私のやり方だもの。奥村燐がサタンの息子だからって、怖くもなんとも思わない。

「おー、まろまゆにしえみ!」

相変わらず杜山しえみは後ずさりしている。私は少し意地悪をしたくなった。

「ねぇ、今からこいつと鹿子草を取りに行くんだけど。あんたも一緒に…」

「いっ出雲ちゃん!早く行かないと授業に遅れるから行こう!」

そう言って彼女は私の腕を引っ張って走っていった。

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「しえみの奴…どうしたら普通に接してくれんだよ…」

俺がサタンの息子だってばれてからは、祓魔塾ではまろまゆぐらいしか普通に接してくれない。でも俺は、祓魔塾の奴らは皆いい奴ばっかだから今はきっと動揺してるだけだと思う。
きっといつか—…
—皆が俺と普通に接してくれる日は必ず来ると、信じている。

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「ねぇ、あんた…奥村燐が怖くて嫌いになったの?」

私は黙々と鹿子草を探している杜山しえみに尋ねてみた。

「嫌いになるわけないよ…私はただ…」

杜山しえみは、俯きながらぽつり、ぽつりと話し始めた。

「私ね、初めて燐に会った時も…悪魔から助けてもらったんだ。それに…皆が屍に襲われて大変な時も助けてもらったし、祓魔師になりたい、って思ったのも燐のお陰だったの。私…いつも燐や雪ちゃんに助けてもらってばかりだった。それなのに…私は燐や雪ちゃんを助けたことなんかない…。私がこんなに頼りないから…二人ともあんなに大変なこと相談してくれなかったんだ…。燐がどんなに大変なこと抱え込んで苦しい思いをしてるかも…こんなに近くにいたのに気が付かなかったの…」

私はちらっと彼女の顔を見た。驚いたことに、杜山しえみの瞳には涙が滲んでいた。
こいつも…実は意外とそんな深いところまで考えてるんだ…。

私はどうなんだろう。私が奥村燐のことを怖いと思わなかったのは事実だ。だって、今まで奥村燐が人を襲ったことは一度も無かった。それどころか、いつも人助けばかりしていた。考えてみれば、私も皆もあいつにかなり救われていた気がする。屍に襲われた私や皆を助けたり、アマイモンという恐ろしい悪魔の地の王に襲撃された時もあいつは…。自分がサタンの息子だってばれたら、皆が自分のことを恐れると判っていたであろう。それなのに…剣を抜き、私たちを守る為に戦っていた。
認めたくないけれど、奥村燐は凄い奴だと思う。こんなこと絶対に口には出さないけれど、あいつはいい奴だと思う。

私は…あいつがいい奴だと判ったから、あいつと普通に接することが出来ているのだと思う。
だから他の皆も、いつか必ず奥村燐と普通に接する日が来ると思う。

私は今、珍しく自分の気持ちに素直になれた。
また—奥村燐に救われた。

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