二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: LILIN (スレッド変えて活動再開します ( No.1 )
- 日時: 2011/12/30 19:46
- 名前: そう言えばこしょうの味知らない (ID: TQ0p.V5X)
プロローグ
今日まで、準備はできたんだ。やれる。
真っ暗で、生暖かい液体に満たされてゆく操縦席で。
実験開始前、まるで夏の肝試しに選ばれたようなその空間で冷静に、そんなことを自分に言い聞かせてみたが。席に深々と腰の重心を後ろにして腰かけ、軽く目をつぶる。……どうしてだろうか、この空間に入ってから、本番前にも関わらず大分リラックスしている。
その空間……筒状のカプセル、L.C.Lと呼ばれる液体、極秘に開発された巨大な人造人間。自慢ではないが、これらの中に順応するすべての準備がすでに数十日前からできていた。この実験をどうにかして成功させなけば……と、先ほどコックピットから見下ろせた、ガラス張り通路の科学者たちは言うのだ。
この失敗の先に未来はないから。そこで抜擢されたのが自分なのだから。
なんとしても成功しなければならない。
実践訓練時には体中が好奇心という刺激に埋もれていき、同時に栄誉と武者震いを喚起していた。そんなふうにロマンと興奮を感じる自分はまだ15歳の身なりだけど、こいつに乗るには十分な条件らしい。
しかし、いざ本番となるとボーとしてしまっている。全く意味がないじゃないか。
---------L.C.L注水完了しました。神経回路97%まで接続
----------パイロットコードEパターン、識別完了。心拍数、シンクロ率ともに異常なし
---------OK、そのまま第三段階へ移行。……回線をコードEのみに繋げてくれ。……気分はどうだ?
機内の無線が響く。それを合図にするように機内が蠢き、コックピットも暗闇から解放される。眩まないよう、閉じていた目に少量の光が入るようにして慣れさせる。
気分と言われれば、この冷静な自分が恐ろしく感じることぐらいだ。その旨を伝える。
「……不思議な気分なんだ、サンチェス。妙に落ち着いててさ。自分が自分じゃない。そんな気分なんだ。誰かが俺を見ているような。」
もしくは、自分を俯瞰してみているような------------
「……いやきっと成功させてみせるよ」
少しばかり沈黙が入る。
--------ははっ。逆に、緊張のしすぎが原因じゃないか?
「確かに、昼間からじゃ眠れなかったほどだったさ」
--------この実験は夜間行わなければ色々まずいのさ。勘弁な
「さすが、やり慣れてるよな」
--------……う、うるせぇ!
無線の向こうからにこやかに笑う声がした
--------大丈夫、お前は訓練生の中でもシンクロ率やら体力からなにもかも優秀だったんだ
失敗するはずがない。そういって彼は再び笑ったようだ。
--------システムオールクリア。総員シェルターより退避しました。準備は万全です
---------承知した。現時刻23:52これよりEVA_i号機の有人起動実験……始動
次の瞬間、その空間が呻きだす。稼働のために神経経路を流れる電流によるものらしい。内部器具が点滅し何らかの数値を取っている。どうやらいよいよ実験開始だ。しかし、それでも腕が操縦桿をだらしなく握る。思い通りに体が動かない。
とてもリラックスしている。重苦しい体が今度は眠気に包まれている。体が前かがみに、自然に前へ重心を落として、目が閉じてゆく。
---------第一拘束具、続き第二、第三拘束具解除
---------稼働時のプラグ内圧値および神経パルス値、いまのところ誤差範囲内です
---------シェルター、オープン。誘導班はジオフロント内まで先導。E、まずは現地点よりA−04地点まで歩行してくれ…………どうした、E? おい、答えろ
夢に似ている。何もかも自分が想像している癖に。自分が体験している妄想なのに。他人事のように痛みや責任を感じなくていい世界。友人の導く声がしだいに輪郭を失って、広がり、散漫する。耳にはぼんやりとした音声とでしか認識できない。失敗……その二文字の重さが今はどうしても分からなくなった。なんだってよいのだと思うことにした。ただ眠れれば。この気分からは覚めないのだと。
夢の中で眠るなんて面妖な話だと思うが。
その時、自分にそそぐ光量が一層多くなった。コックピットから入る光、人工の光じゃないことに気付く。白い純白の光に染められ、影となる部分は漆黒の闇のように何も見えない部分と昇華し。ただ、白光が当たる部分しか見えない。
突如、耐え難い眠気に襲われている自分に誰かが寄り添っているのが気配で分かった。ここには自分一人しかいないはずなのだが……誰が居るというのか。
その誰かは手を伸ばす。表情は伺えない。漆黒の影に染まってなって何も見えない。ただ自分に手を伸ばしている……その手を弱弱しい右手で受け取る。握ると柔らかい、光のお蔭かもの凄く白い手。その手に引かれると同時に自分の色も白と黒に統一されていることに気付く。……今ここには輪郭を作るペンの色と漆黒の闇の黒、陽だまりのように暖かい白しか存在しない。他の色は何もない。
☆
事態は芳しくない。
今回執り行ったEVAの稼働実験はこれまでも失敗に終わっていた。
原因のプロセスは常に以下のようなパターンによってなる。
--------i号機依然沈黙、次いでこちらからの信号に応答ありません
---------同機、プログラムが警告サイン発令。システムにロックがかかり究明ができません
--------シンクロ率上昇! 80、90、102、まだまだ上がっていきます!! 安全値を既に突破しています
--------プラグ内圧が減少。同機内の神経パルスおよび神経伝達情報が著しく発達しています。
「そのまま抑え込もうってか。実験中止だ。パイロット救出を最優先事項とし、サルベージ決行」
まず、決まって神経組織が一時的に強化され、パイロットの運動神経から神経情報を流し込み、そいつの脳に働きかけ、動きを封じていた。
---------パイロットに関する保存データがすべて喪失しました。数値が出せない以上、生存状態が把握できません。くそっ! またへそ曲げやがって。
「……まずい。参謀官、最終段階までにあとナンボだ?」
----------あと10〜20分程度。妨害していない訳じゃないけど、ヤローがメインを掌握していて作業が捗らない。
「こちら司令部、誘導班に通達 こちらからの応答はない。そっちは手動でエントリープラグを奪取。なんならL字ペンチで捻じ伏せろ!」
----------今回も力技なのかよ! 了解!
今回も、か。
「やはり。また“取り込まれた”のかね」
隣に来た人物、髭を少し蓄えた彼は既に救出を諦めているようだった。
「副司令、それはまだ言いかねます」
「この現象に直面するのは何回目かね、サンチェス」
「今回含め、5事例目です。内、生存者は」
「そんなことまで聞いてないじゃないか」
「3人です、これはそんなことなんかじゃないんですよ」
「……それでも君は“試す側”にいる。この世にはあの類の化け物に乗れる人間自体ごくわずかなのだからね」
それでもふるいに落とす奴が、あの化け物さ。仇を見るような目で彼はガラスの外の巨体を見つめる。
「恨むべき存在だよ、あれは」
「恨まれるのは私たちの方です」
確かに。彼はそっと宣い、そのまま本部に背を向け歩き出した。
「どこに行くんです? どうせならパイロットの生存を確認なさった方が」
「……今回の責任は私にあるからね。委員会に報告してくるよ」
「助かるかもしれないんです、今回の事はそれで事故で済む」
「“そう”ならなければ、不祥事だよ。五分五分じゃ話にならないだろう」
話を付けてくる。彼はそのまま本部を後にした。
「……舐めんな」
心なしに呟いてから、何事もなかったかのように救出作戦の重要拠点を迎えた。