二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: LILIN ( No.12 )
- 日時: 2011/12/09 00:44
- 名前: そう言えばこしょうの味知らない (ID: 1kkgi9CM)
昇降機から降り、一本の細長い廊下に出る。この廊下は側面に幾つか応接室へ通じる通路に枝分かれしていて、ここ最近ではよく来ている場所だった。
季節によって社内で名称、彩りが変わる変幻自在の魔境だったりするこの空間。
春では新入社員歓迎の紅白。夏では主に商談が行われ、そして年末の今頃は----------“示談室への棘道”と早変わりする。そう、唯でさえ底をつきそうな予算を、名も知らないような夜間業者がせっせと口実を作ってやって来る。蓄えておいた高床の米が知らぬ間にネズミどもに齧り付かれているのだ。お蔭で近頃ここに来るだけで胃がキリキリ痛むようになってしまったのも言うまでもないだろう。
閑話休題。
さて、そんな魔境の巣窟や根源のごとく怪しく居座る奥の両開きの、これまた謎すぎる蛇やリンゴのような意匠の扉。どれほど悪趣味なのか人間の目もレリーフに含まれ……どうにもうちの上層機関は分からん。どっかの○ッ○ル社にでも強引に版権を訴えられてくればよいのだ。そもそもこんなロゴに需要があるものか。
息を整え、深呼吸。それからやっと、無駄に重そうに見える扉を片手で開け、副司令室に足を踏み入れた。
「呼びましたか?」
「ん……来たか。サンチェス」
彼はこちらに一瞥もやらない、手元のチェス盤に没頭しているようだ。
「電話してもすぐに出てくれないだから。僕は相当君の目に届かない所まで追い出されてしまったのかと思ったよ」
「そんな、ただ……」
「ただ?」
「いや、ケータイの使い方が未だに……」
ほう。そこで一旦会話が遮られた。
一つまみの沈黙の後、副司令は顔をほころばせる。と、同時に席を立ち、硬い絨毯を歩き出すと茶箪笥からしゃれたティーカップを二つ取り出し、コーヒーメーカーに。
「ハハハ、そうかそうか」
「えぇ……それで用とは?」
「用か……相手を頼むかな?」
にこやかに彼が指す先にあるのは、先ほどの熱戦で戦禍が残るチェス盤だった。
この人は全く。天下ってからというもの毎日このような平穏を過ごしていたら、ほんの数年でボケ始めるだろうよ。
一応勤務中なので、と断っては見たが。
「まぁまぁ、現場監督なんてものは“いざと言う時”にいればいいのだから。君もそれを見越してサボっている癖して」
と、痛い所を突かれてしまったからには仕方なかった。
しかし、思いのほか相手も手練れのようで、瞬く間に数十分が過ぎた。お互いに陣駒がハゲ始めているのだか、俺の前線ではポーンがクイーンに喧腰だった。アホめ、お前では真ん前のジャジャ馬姫は狩れないんだ。
ここの副司令は先ほどから手先を間違えたやら何とやら言うが、結局は何かしらの用のためにここに私を留めているに違いないはず。
「そう言えば今日、臨時集会でこっぴどくしごかれたそうじゃないか、仲間内で聞いたぞ、二個隣のラウンジにまで怒声が響いたってね」
「全て私の誤謬故----------」
何食わぬ顔でビショップを突き立てる。クイーンかナイトの弐者択一。
うぬ。と目の前の彼もこの手は効いたようだ。ざまぁみやがれ、と心中で揶揄。
「淡泊だね、今日は。あの時と同じで」
「ん、私はただ」
「ただ?」
珈琲を一口、口に含み彼は笑みを笑みを浮かべ、戦況を見守る。
「ただ……貴方に濡れ衣を着せるわけにはいかないと」
「……嬉しいねぇ。そこまで僕に気を遣ってくれていたなんて」
下げろ、下げろ。ジャジャ馬なんぞ下げておけ。
しかし、彼はそんな邪険を一蹴するか如く、クイーンの位置を手早く変えた。しかし、依然としてポーンと睨みあう形になった。
「さて、ゲームが佳境を迎えたことだし。そろそろ本題に入ろう。臨時集会の情報提供を求むよ」
-------- つづく