二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: LILIN  ( No.2 )
日時: 2011/08/19 23:20
名前: そう言えばこしょうの味知らない (ID: PDV9zhSY)

 第一章PART 1

  キオクノウミ


10月某日、季節はそろそろ秋と呼ばれてもおかしくない、そんな日頃のこと。
幼い頃、鳥居スグルは地元の海に訪れた。

少年のはしゃぐ声、波の押し寄せては引くあの潮の香りに満ちた音、それ以外目立って耳に入ってくるようなものはなかった。さすがにこの季節になると海水浴に来る人々は居ない。みんな背中を十分黒く焼いてそれで海水浴に行った気分なのにスグルはそれが納得がいかないようなのか、今日は祖母を連れてここに来た。




スグルは一番乗りしようと浜辺まで走った。一緒に連れて来た祖母にこの一番を取られないように。しかし少年が振り向くと、まだ祖母は10メートルくらい後ろをとぼとぼ歩いていた。そのことが気に入らないのかスグルはほっぺを膨らます。

「もう、おばぁちゃ〜ん! 早く早くぅ!! 」

なるべくおっきく。走るのをやめ、スグルはそう意識して祖母に叫んだ。甲高く響く幼い少年の声。波の音に負けず、彼女のもとへその声は届いたはず。はっとしたように気づき、そのまま速度は緩めはしないが返信をしてくる。

「は〜いちょっと待ってね。ほんとうにお前は元気があるわねぇ」

彼女は若干砂浜に足を取られながらも、やっとのことでスグルのもとに足を運ぶ。
まがった腰を押さえながらも、スグルを見ながら目を細めている。

「ふふふ。す〜は〜……海だぁぁぁぁぁ!!!!」

またスグルは叫んだ、海に。波に声がさらわれた。そんなことがおかしいのか今度は思いっきり笑い出す。束の間の幸せをかみしめようとしているようにも聞こえる笑い声だ。

「海だわね、確かに」
「ねぇねぇおばぁちゃん」

スグルが向き直る。

「どうしたの」
「なんで、どうして海はこんなに“赤い”の?」

スグルは目の前に広がる事実のありのままを質問した。同じはずだ、どうして山が大きいのか、どうして空は青いのか、どうして太陽は眩しいのか。そんな類の質問をぶつける。

「さぁ、なんでなんだろうね。いつからか赤いもの。いつかは分からないものだよ
はじめっから赤かったような気がする。そんな気分ねぇ」

祖母はまだ目を細めている。しかし、それはさっきスグルを見つめた時とは明らかに違う。その奥が何かしら儚い思いで塗り替えられていた。

「ただ、ここの海はホントは昼のお空の色だったね」
「へ〜、おばぁちゃん物知り〜!」
「だから今のような色じゃないの。こんな色じゃないのにね」

次に彼女は何かに落胆したかのように顔を少し曇らす。

「なんで赤いのかな……?」

そんな彼女を気にしてスグルは同じような質問を続ける。

「なんでだろうねぇ」
「う〜ん。……そうだ! おばぁちゃん」

何か思いついたのかスグルが祖母に、その得意顔を見せつける。

「なんでか知ってさ。……僕ウミの色を変える偉い人になる!!」
「えぇ?」
「ウニ! ううん、ウミ、ウニ……ん?」
「あはは、それはすごいねぇ」

今度は祖母の方が大笑い。青く澄みきったお空を見つめ、そのまま首を固定する。

「そうかい、そうかい、息子のような子に海賊王になってやる! って真顔で言われた際にはきっとこんな気分になるんだろうねぇ」

「海が青いなら、お空の色頂いちゃおう!」
「それじゃぁ、お空の色がなくなっちゃうじゃないの」

大笑い健在、まるでそのまま幼い少年の屁理屈を誘い出そうかと言うような嘲り。
次の言動はまたどんな奇想なのか期待しているようだ。

「空のお星あるから大丈夫なの!」

少年はそう言って膨れる。

「ほう、そういえばお前は夜が好きだったねぇ。もし昼間でもお星が見えたらお化けが出て……怖い事ばっかだよぉ?」
「う〜、で、でも。晴れてお月様が見えるとき、お家から見えるウミ綺麗だよ」
「さもありなん」

ははは、そう彼女は笑い続ける。決しておかしいんじゃない。ただ少年の言うもっともな意見が素直すぎて笑っている。

「それじゃぁ、お前はお空のお星をすべて見守ることをしなくちゃいけないじゃないか、いつも」

それから笑い疲れたのか、そのまま上向きになった気分の余韻に浸った。

「スグル」
「うん?」
「なんでウミが赤いか。分かったら是非聞かせておくれ」