二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: LILIN ( No.3 )
- 日時: 2011/12/30 14:43
- 名前: そう言えばこしょうの味知らない (ID: TQ0p.V5X)
第一章PART2
始まりの末端
俺の中の海はそれだけだ。祖母はそれから病を患い、逝ってしまって。もちろん元々両親が蒸発してしまった俺には他に身内は居ない。故にこの海が“家族”と結ばれる唯一の思い出だった。
この後、誰の申し出かは分からないけど孤児院に預けられて、14歳になるまでの7年間を過ごした。おかげで今日まで色々な人に大切にされてきたと思う。家族なんかよりもずっと多くの人にね。まぁ、それから孤児院にこの施設の人物が訪ねてきて……また安息の地から離される結果となったのだけど、それはまたの機会で話すよ。
上記の通りの内容を俺は同じテーブルに座る3人の聞き手に。聞かせるというより、独り言のように伝えた。
時刻は12:00の昼時。社員食堂の窓側席のテーブルに俺たち4人は座っている。
何の変哲もない俺のなりゆきを“先輩”たちは真摯に聞いてくれ、一人は涙を堪えもせず、次いで嗚咽を交える。
そもそもなんでこんな話をし始める羽目になったのか少し整理してみる。確か、一昨日からから新入りとなった俺の自己紹介を兼ねて4人で昼食取ろうという話になって……。
新入りなら何かしら話してみーと言われ、俺の成りの果てを話すことになったんだっけ。
「おぉ!! 新入り! なんて生涯してんだ畜生! 涙がと、止まんねぇ!」
隣に座っている、まさにガキ大将ばりな青年が顔面をくしゃくしゃにしながら俺の思い出に突っ込む。
「生涯って大げさな。これで終わる気ないよヘル」
仕方ないのでそのまま背中を撫でてやることに。いいんだ! いいんだぜ! とヘルナンデスは弁解しながらその手をそっと払った。
「ホント、君って結構ハードな人生してるよ。僕憧れちゃうなぁ」
今度は向かいの席の先輩……ターナーが感想を述べる。彼は胸のあたりで手を組んで目を閉じ、俺の話を自分と置き換えようとしているようだ。すぐに良いもんじゃないことに気付いてもらいたい。
「そうっすかね? 俺としてみれば、皆さんの方が大変そうだけど。」
なんせここに来るほどなんだから。おっと、今の一言は腹に押し込める。
「そんなことないよ。ねぇ、両親がいなくて寂しくも健気に生きるって大変なんだよねぇ」
「はぁ。ま、まぁそうですね……」
どちらの感想も感情の表し方も一抹の不具合がある気がするけど、共感は得られたようでほっとした。
「それだけか? もっと他にも聞かせてくれていいぞ。そこからまさかの某ホラー展開だとか」
その先輩の隣の先輩が……どうにも他の二人とは感じが違う質問をする。
「俺が言うのもどうかと思いますが、文哉さんはもっと人の生涯のハードさを重んじた方が」
「人の成れには多く耳を傾ける。それが武士道に準ずる者の礼儀だと。感じる心の深さよりも量が大事だってこともある。それは君のためでもあることだ」
「はぁ……武士道ですか。勤勉家なことで」
なんだ、あんたマニアか。
ヴォオンン! キ-----------------------ン!
突如、食堂の一角に付けられたスピーカーが狂ったような爆音を吐き散らす。
空気が一斉に振動を誘われ、食堂のほぼ全員がその音量に嘆くように耳をふさぐ。
------------あー アー あー ただいまマイク故障中、耐えろー馬鹿どもー
「いきなりなんすかコレ」
耳をふさいでいるが堪らず、目の前の先輩に助け船を求めた。
「あぁ、また使いだしたの? 三か月前まで連絡用に使われていたんだよ。前々から音が割れすぎてて聞こえないし、雑音はいるし皆迷惑してるんだよね」
「久しぶりに聞いた気がするこんな音質」
-----------金が回らないんだ、仕方ないだろうが
ちょ、聞こえてる〜ぅ!?
「それで。ついこの間、労働団体のお蔭で新しいスピーカーに代える為にねぇ。しばらく職員が持ってるケータイに通信するようになったはずなんだけどねぇ。そういうデジタル的なの嫌う人だから、今しゃべってる人。ちなみに若社長」
「えらい所に就職してしまった!」
--------------正常正常。
いや、今故障中て言いませんでしたか?
--------------諸君!! 14:30より、パイロットコードg、コードy、コードi。上の者は各自プラグスーツに着替え地下3Fにおいて待機するように。以上だ
ブッチッとスイッチが切られた音の後、やっと食堂に喧騒が蘇った。耳を固くふさぎ過ぎたのか何人か聞き直しを要求するも多々ある。
なんて社会的組織なんだろうか。そして何てとこに新入りしてしまったのだろうか。
色々自問したいことは多くあるが、ひとまず今流された情報を確かめたい。
「今の……シンクロテストのメンバーっぽいね」
倒した椅子をもとに戻しながらターナーは冷静に詳細を教えてくれた。
「一気に3人と来たか。もしかしたらこの中で呼ばれた人居るんじゃな〜い?」
席に座り、ターナーは俺たち3人をからかうように見つめ始めた。
すると、すっと手が挙がった人物が一人。
「あ、俺そうっすよ」
ヘルだった。
「うん? そうなんだ。……意外だね」
途端に彼の態度が変わった。
極端に感情を表したりしないけど、その代り、彼の目が緊張で強張った気がした。
妙な空気になってしまったのを不審に感じたのかヘルが俺に目配せしてくる。
「たぶん……俺もっすかね」「え、スグル君も?」
続けざまに驚愕したせいか、瞳は既にある種の関心を押さえつけるかのように、俺とヘルを見つめたまま動かない。そのまま何か言い出さそうとしていようだ。
「スグル君、いいかな」
「「は、はい」」俺とヘルの声が重なる。
「ほら、ラーメンのびてるよ」
「え? ……はい?」
「ツウの中には伸びた方がおいしいって人がいるけどね、そんなの厳禁! コシがあって命なんだよ。一番おいしいのを無駄にしちゃだめだよ」
☆
「全く、プラグスーツ着なれていないからって、これから2時間も時間かけるって行っちゃったけど。文哉」
「しょうがないだろう、あれは唯着るだけではなく、いくつか面倒な過程があったりするしな」
文哉が宥めると、ターナーは椅子の背もたれに踏ん反り返った。
「行儀悪いぞ、イカロス」
「いーのいーの」
軽く返答しながら、ターナーは二人が去った通路側を見つめる。
「……そっか。でもあの二人。随分早くないかな、文哉?」
「そうだな、しかし、司令の考えあってのことだろう。何か早めに伝えておく理由があるのかもしれない」
「金銭的な理由以外でぇ? それとも初めだけでも駒数を揃えておこうと?」
「……舐めてるのか?」
「別に君の兄貴を舐めるつもりはないよ。でも、既に5人いる中で。スグル君やヘルにはどこまで伝えるんだろうって考えていただけ」
「…………お前が思う所も分からぬでもないが、俺たちは何も伝えることはできないだろ。口が軽いのも気を付けろ」
「わかってるよ、だからとっさに誤魔化したじゃん。それに言えないでしょ、あの人以外」
険悪顔で見ら目付けてくる文哉にターナーは微笑みかけた
「頑張ろうよ文哉。あの後輩たちのためにも。もう二度と、あの人が彼らに“犠牲になれ”と言わせないためにも」