二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: LILIN  ( No.5 )
日時: 2012/02/18 00:57
名前: そう言えばこしょうの味知らない (ID: TQ0p.V5X)

連れて来られた場所は先ほどよりも照明が明るく、人にも動きがあった。ガラス窓越しの仕事が丁寧そうな爽やか兄さんや、手が真っ黒になるまで機械弄りに没頭しているおっさんらが懸命に汗と涙の結晶を作り上げる。が……その結晶の姿に思わず目を剥く。
この世界に銃刀法があるように、この不毛な土地にもそれなりの法律を作ってくれと真剣に考えてしまった。例えば……体長十五メートルはあろうと思える、ビル4階分巨大のロボット業務禁止令とか。それじゃぁ、正義の戦隊ヒーローが活躍出来ないじゃないかっとお叱りを受けてしまうのだけど、目先の幸福には代えられないような気がする。

「極秘に製造を行ってるって聞いたが、こいつぁすっげぇなぁ。これが“EVA”」
「そうだぜ、まだ実験段階だけど。まだパイロットを乗せてロクに歩いていやぁしない、設計者に似て運動音痴か」
「音痴って、スミレさん運動ぐらい意外にできそうだけどなぁ」「意外に、は余計っしょ?」「そうかなぁ」

ミカン色の作業ズボンにグレーのタンクトップという、何とも無防備な女性がヘルを諭す。長身でショートカットの茶髪が特徴的な彼女は傍から見ればロシア製のリ○ちゃん人形のように肌が白い。

「装備や骨格もちゃんとしてやってるのに休日の腹だし親父みたいにノロマ。たとえ人造人間でも現代の人間が育てた“ガキ”はどうしてこうも情けねぇの?」
「ちゃんと潤滑油を打っておけばそんな心配は要らないはずだがな、お前はもっとこいつの事を知るべきかもしれん」
「ちゃんと知ってるよ、零時。そこら辺の下手な業務用油よりも無菌状態のサラダ油の方がコイツは好んで動くさ。はい、これ発注リスト。来週のB番までちゃんと諮っておいて」「あぁ……ってまたこの部品なのか?」
「おや? その部品知ってるなんて。ちょっとはEVAに興味でも芽生えたかい?」

女性が差し出したバインダーを驫木さんが受け取り、何枚かめくる。
常に冷静な雰囲気を感じられる人だけど、この時のバインダーを持つ手元は例外中の例外のようだった。

「報告書の上覧にいつもピックアップされているんだ。嫌でも覚える。しかしこんな沢山……」
「さぁ、そうと分かったらヒヨっ子連れてないで今すぐ行け、さっさと行け、走って行け」
「……しょうがない。たく、人使いが荒すぎる……スグル」

そこではっと我に返った。
もし名前が呼ばれなければ、俺は目の前に広がる怪奇を呆然と眺め続けるところだったかもしれない。

「え? あぁ、なんでもないです。続けてくれて……」

実際には何でもなくない。目の前の怪奇。巨大ロボット、先には人造人間と呼んでたのが引っかかる。これほど巨大な兵器らしき危ないものを作っている……益々不安になってきてしまう。

「初めは確かに驚くかもな。こんなでっかい化け物を開発していることに」
「あれが、貴方が言っていた力を貸してほしいという奴ですか」
「そうだビックリだろう? ここに居るといつもこうだ。現に俺も今、報告書を見て腰が抜けそうだ」
「失礼ですけど、こんな事のために……俺をここへ?」

呆然としていたせいなのか、少し口が軽くなってしまい不躾なことを言ってしまった。首の部分に重石がかかったように垂れ下がる。そんな俺に零時さんは追い打ちを立てるかのように言う。

「そう。ここに就職させた。その方が君にとってもいい経験になると思ったからね」
「あれに乗ることが?」
「尊い命を救う立派なことだ、自信持っていいさ」

零時さんはそう言って何か微笑ましいものを見たかのような表情を見せる。

「そこの君! そんな遠くに居ないでさ、こっちおいでよ」
「お、おっす」「さぁ、急げっ!」

突如、スミレさんなる人に呼ばれ、思わず同意する。
タッタっと走って彼女の元へ。おしおし、と彼女はその迅速な行動に満足そうだ。
なんだろ、悪い気がしない。

「え…っと・。スミレさんでしたっけ、よろしくお願いします」

そしてどうしてかかしこまってしまう。

「こちらこそ、市井スミレよ。ここの技術開発の参謀役さ。たまに零時の補佐もやってるからいつでも声掛けてくれよ」
「そうだったんですか、道理で仲がよさそうで」
「うん? まぁ、大学の同期生だし。それに……彼、いつか私の亭主になるらしいぜぇ」
「そ、そうなんですか!」
「へぇ! よかったじゃんスミレさん」
「まぁね。国籍日本のままで……でも姓名はせめて市井にしてもらうつもりさぁ。あんま好きじゃないんだけど、驫木サンチェスよりマシでしょ? な〜によ、サンチェスって。だからいいっしょ、零時?」
「あぁ、それで構わないさ。別に反対するような人も」

親すら元々ないからな。

……え?

「そいじゃぁ、市井。そいつら頼む!」
「氏名で呼ぶんじゃない! 慣れ慣れしく名前で呼びやがれ!」
「頼んだ、スミレ〜」

それじゃぁ、俺は仕事があるから。
零時さんはそう言って去って行った、走って……案外、色々素直な人だったみたいだ。

「今、尻に敷かれそうだっと思わなかったかい、スグル君」
「いや、そんなぁ。少しだけ」
「はははっ。君もきっとそうだのに」
「……うぐっ」

地面を一生懸命掘っていたら、でっかい石にシャベルの先端が跳ね返された時と同じような声が出てしまった。

「それじゃぁ、君ら3人をご案内だろ? 任せときなって、こんなとこよりもっと穴場紹介しっちゃうからさ」「さっすが、スミレさん、太っ腹」

それから俺たちはスミレさんの大雑把な案内聞いた。
ホントにおおざっぱとでしか言いようがない、とりあえず、内容は割愛。後で少しばかり触れたいと思っているので乞うご期待。

「だからさ、どっか〜ん。って爆弾落とされてもビクともしないのよ、ここは。侵入するにはショベルカーやらツルハシなんかじゃ1億年かかるわね。地上のエントランスから専用のエスカレーターで改札口通った方がいいの」
「ショベルカーとツルハシって作業量に結構違いが」
「お・な・じ・よ。同じ☆」
「同じですか☆」

なんだかスミレさんが強引に説明するとどんなに気が遠くなる話でも、どこか身近に感じる。

「ふ〜、やっと改札だね。以上だけど、他に質問あるかい? ないと今夜は帰さないよ」
「何言ってんだ」

改札とはその通り、駅にあるようなものと全く違いがない。ここ、ネルフには専用の路線があり、もちろん専用のトレインが走っている訳で、専用の……うん。


「そうだよねぇ、見る人によっては税金泥棒そのものかもね。事実、シュワルズ○ッガ—州知事もかんかんなのよ。ここでの成果は直接私たち開発グループの成果であるから、失敗には怖いほど当然の代償が付く。まぁその皺寄せは全て零時にいくから、私たちとしてはまだいいか」

ただ単に「色々お金かかってますねぇ」 とインテリっぽく質問しただけなのに。
殆ど一人で話を広げ、遂には「でも、また部品予算任が……。あー!」と、突如改札のど真ん中で叫ばれた。どう収拾つけろっていうんだ。

「今頃シュワちゃんにキレられているのかしら、零時。昔からあいつゴツイ男には耐性がないからなぁ。相手はターミ○ー○ーだし……う〜ん」

「えっと……もしも〜し」
「やめとけ、スグル」「なんでさ」
「一旦考慮が始まるとさ、ケリつけないと夜眠れないってよく言ってるんだこの人」
「大人になっても悩むんだね」
ねぇ〜。

とよく分からん同意をヘルと交わした。

「あ、そうか」

まるで本当に頭の上の電球が点いたように思いついたスミレさんが俺たちの方を向いてその内容を話す。

「もし、シュワちゃんが、同意しないならばだよ?」「はい」
「うちの幽霊諜報部ことパパラッチどもを動かして、司令部のお蔵入り情報コレクションも唸る、“花”を摘んできてもらうとするのは?」
「……願うなら冤罪を生むような真似しないで」