二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: LILIN  ( No.8 )
日時: 2012/02/28 00:56
名前: そう言えばこしょうの味知らない (ID: 2ft.mOaW)

「「はぁ〜」」

お互いに疲れ切ったのか、溜息をほぼ同時にしながら、俺とヘルは夕日の差し込んでくる側の席に隣合わせで座った。
一見、職業体験みたいなものだが、慣れない仕事となれば流石に肩が凝る。
同時に、今回の職場案内で俺たちは歩き廻ったのだろうかと自問する。そもそもこの疲れは、スミレさんのの意欲的な健康志向が俺たちを1階から5階、5階から7階、7階から2階と連れまわした結果なのだ。
スミレさんがあぁ、そうだと思いつけば上下左右振り回される。刑事コロンボ氏みたいに振る舞うのは些か人生の合理性をご理解していないように思われた。
しかしながら、普段からあのような要領の悪さを利用し、脂肪消化に当てているあたり、流石は侮れないとも思えたのでした、まる。

「歩き疲れるなんて久しぶりかも。ここいらの砂浜で散歩しまくっていた自分がウソみたいだよ」
「砂浜? お前、地元出身なのか?」

身を捩って窓の外を見つめる。現在この電車ジオフロントを抜けて、住宅街や、そびえ立つビル群がの奥の海が丸ごと見渡せるような高地に差し掛かっていた。
あの赤い海は夕日のオレンジ色に溶け込むように、その鋭い鮮血を思わせる姿を落ち着かせている。

「こっから見えるかなぁ……あった。あの左っかわの奥に鐘っぽいやつがあるじゃない?」
「左ってことはA−11地区あたりか? あそこで鐘って……あの教会ことか」
「うん、あそこで俺はまぁ、7年間くらいだけども育ったんだ」

視線をヘルに向けなおしてみると、彼は窓を見ていなかった。
それどころか、ふ〜んと息を吐いて今のところは興味を示していないようだ。

「で、この間その7年間の別れを惜しみながら、ここへ……ネルフっていう最高峰の国営企業に俺がスカウトされたって“おばば”が」
「あの熟年シスターか」「それは、可笑しいなぁとは思ったけど。世の中どんなことでも起こるものなんだって教わったから信じるしかなくて」

俺が両親に捨てられ、そのまま孤児暮らしを平然と送って来れた事がその例だ。あまり実感はないけど、実際にはすごい事なのだろうとは分かる。
ホント、よく生きて来れたものだ。少しは両親や祖母-------家族の事を思って泣くべきなのだろうが、生憎今までそんな感情に押し流されたことがないのだし。

「そしたら、来たら来たで、設備投資の穂先が最先端過ぎて笑える、というね」

なんだか、恵まれているのか、単に目の前に爆弾がチラついてるだけなのか、よくわかったもんじゃなかった。

「俺もここに来て2週間ぐらいだからまぁ、今でもお前みたいに驚かされてばっかだな。この前なんかスミレさんにコーヒー買ってもらった時、明日あたり初CMのゴールデンマウンテンが既に自販機にあってよ」

「それはちょっとベクトルが違う気がする」

「良い所に来たなぁと思ったな」「それだけで(笑」

お互いに、微笑しながら。また、流れゆくA−11地区を見つめる。
あの場所での思い出はもうすでに褪せたものだから、たまに回顧に浸ればいいのかもしれない。そのためにこの電車に乗って通って。帰りにこの風景をまた一度見られれば、それだけで満腹だろうと思う。

俺がそんな風に考えていると、閑話休題というように、ヘルがこんな話題を振ってきた。

「とこでよ。お前はさ、あれ見てどう思ったんだよ?」「あれ?」

「EVA……見たろ」

縮こまった腰を伸ばし、捻り、声を絞り出すようにヘルが言う。声の質が先ほどと変わらないのに、どこか重みを感じる質問だった。

「一言で言うなら、まじかよぉーって感じかな」「ハハ、同じく」

彼は渇いた笑い声で肯定してくれた。

「ありゃゼッテー夢に出てくると思われる代物だ」
「俺なんか昔受けた健康診断先の病院で、巨大MRIから逃げ回ったのを思い出したよ」
「どうにしろトラウマの種か、あれは」
「でも、使徒ってやつが来れば乗るんだよね、やっぱり」


あの場所に通う、その意義。業務内容、EVAパイロットであるから。それだからここに俺たちは居る。
これから一体、職務内容に対し、どんなに不安にさいなまれることなのだろうか。
昔、俺が教会の前に置いて行かれた時とまた同じような恐怖を味わうことになるのかどうか。それは、まだまだ定かではない。