二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.10 )
日時: 2011/09/25 11:54
名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=a2GT4EnEtpo

【月光と黒/KAITО】



紅涙の雫で滲んだ
黒く醜く
呪われたおとぎ話


(獣は少女に恋をしたんだよ、)
(叶わない恋なのにね)


その宿命は、誰に背負わされたものなのか、そんなことさえ分からない。
この世に産み落とされたその日から、“ それ ”は自分を蝕み、浮世の因果に縛りつける。

夜の暗闇の中、淡く輝く金色の光。

「美しい」

そう思うのに、それを見て自分は狂う。
夜の闇に苦しむ彼に、いつかの祝福がありました。

(この時、出会わなければよかったのかもね、)
(なんて、お話にならないか)

歪な風の音、夜の闇に凍える森。
そして、一人の少女。

「少女?」

月光の世界に呪われて、自分は醜い獣へと成り果てる。
そんな自分の姿を見ても、彼女はここにいてくれるだろうか。

「お前は私の事が怖くないのか?」
(お前は私が怖くないのか?)

そう彼が訊くと、少女は優しく微笑んだ。
その笑顔に、どれほど救われたことか。


今までにどれほどいた?
 醜い自分の姿を見て、
逃げ出さなかった者など、
 「化け物」そう言わなかった者など、
身を凍らすような恐怖に、逃げ出せなかった者はいた。
 余りの醜さに、声を失った者はいた。
だが、優しく微笑みかけてくれた者など、
 この世にいただろうか。
彼女は醜い自分に微笑みかける。
 彼女は何故、笑っているのだろうか。


そして彼は、愛してはならない少女を、愛してしまった。
(罪の中に浮かぶ愛、)


ほんのひと時、優しい少女との、幸せな時間がありました。
愛おしい温もり、自分にはなかったもの。

ですが彼は呪われて血に餓えた獣。
きっといつかは、この少女を傷つけてしまうでしょう。

「きっといつか、自分は彼女を傷つける」

彼はそうなる前に、気づかれぬようにそっと消えてしまおうと、考えたのです。

「ごめんよ、さよなら」

少女の幸せを願ったのは、醜い獣。
月光の世界に呪われた、血に餓えた狼。


最後に残ったのは紅涙の雫で滲んだ、
彼の笑顔と赤い頭巾と、月の光でした。


嗚呼、最果ての月よ。
(宵闇が背負うは、霧の中に隠されたいつかの光)


「嗚呼、最果ての月よ。
                  どうか彼が、安らかに眠れますように」


彼は知っていたのだろうか。
 少女にとっての幸せは、
彼と共にいることだと。
 彼が血に餓えたなら、
少女は迷わず自分を差し出すだろう。
 しかし優しい狼には、それが出来なかった。
少女を傷つけるくらいなら、
 己の命を絶った方がましだと。
だから、少女の前から消えた。
 少女は彼との優しい思い出に、ただただむせび泣く。
愛しい人との思い出は、
 時に刃となり、己を貫く。
醜い獣は、今でも彼女の笑顔を想う。
 少女の頬を伝うのは涙、
十字架に添えられるのは、美しい花。


(以来、二人が逢うことはなかったんだって、)
(好きだから、愛しているからこそ、人は大切な者を遠ざけたがる)


          「愛してる」


耳に残る、愛しい声音。
手を伸ばせばそこにいたのに、大切すぎて、触れられなかった。



(愛してる、)
(そして、さよなら)









■後書き

好きな人に別れを告げるのはとても辛いことだと思います。傷つける前に少女の前から消えた彼は、本当に彼女のことを愛していたんでしょうね。その切なさが、自分の文章能力じゃ書けない……申し訳ありません。