二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.121 )
日時: 2012/01/25 21:45
名前: 雲雀 (ID: 7aD9kMEJ)

【黒ノ独白/零×優姫】



酷く懐かしい声が、耳元で聞こえた気がした。
他人を思って涙を流すことが出来る、あいつの声が。
不意に、体に意識が戻ってくる。
目を開けると、かけたはずのない毛布が自分にかけられていた。

「優、姫……」

久しく呼んでいなかった名前。
閉まっていたはずの扉は開け放たれていて、微かに優姫の気配を感じる。
この毛布は、あいつがかけたのか。
肩から滑り落ちた毛布を見つめた後、視界を手で塞ぐ。



——————————零……?



眠っている間。
酷く懐かしい声が、自分を呼んだことを覚えている。
心配そうに、気遣うように。
それから、優しく髪を撫でる感覚も、僅かに残っていた。
……優姫の涙が、頬にこぼれ落ちてくる感覚も。



「馬鹿なのか、あいつは……」



敵である自分に、気遣いなどいらないのに。
もしも俺が目を覚ましたら、どうするつもりだったのだろう。
血薔薇の銃で殺してしまったかもしれない。
吸血衝動も、あったかもしれない。
なのに、何故、あいつは。



——————————幸せになってね……零。



自分に向けられた、優しい言葉。
その言葉を言うのに、どれほどの苦しみを伴ったのか、俺は知らない。
一年前、幾度となく見ていた優姫の表情が、浮かんでは消える。
今、どんな表情をしているのか。
俺は知らない。



「馬鹿だ……本当に……」



幸せになるべきはお前で、俺じゃない。
玖蘭枢に裏切られ、ハンター協会からも監視され、
それでもお前はまだ、他人の為に涙を流し、幸せを願うのか。



——————————バン。



扉が閉まる音。
窓の外を見れば、長い黒髪が光から逃げるように駆け出していた。



「支えられていたのは……俺だ……」



その存在、全てに。
たとえその目が本当にうつしているものが、俺でなくても。



「優、姫……」



その存在が、全てだった。
去っていった黒髪を追いかけるように部屋から飛び出す。



               ◇



外の空気は冷えきっていて、吐く息が白い。
人の気配がして建物の屋上を見れば、案の定、優姫がいた。



「あ……」



俺の存在に気付いたのか、こちらを振り向く。
冷たい空気のせいなのか、頬を流れる涙のせいなのか。
その頬は紅く染まっていた。



けれど、それを隠すように笑う。
声では伝わらないと思ったのか、「さよなら」と口だけを動かして、その言葉を紡いだ。
その言葉を紡ぐ自分の表情を、お前は分かっているのか。
月の光に照らされている頬を見て、深くそう思った。



捨てられた子供のような。
誰かの愛情に飢えている瞳。



「ごめん……」



お前の求める存在には、もうなってやれない。
「敵」だから。



抱きしめることさえ叶わない二人の距離。
想うことが罪だったなら。
絡む視線の中で揺れる、この愛しさはなんなのか。






(かならず守ると、)
(誓うことさえ叶わない)









■後書き

【白ノ独白/零×優姫】の対になる物語です。
二人の幸せな未来を、いつか見てみたいです。