二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.126 )
日時: 2012/02/12 22:40
名前: 雲雀 (ID: zTHJAdPC)

【二度と帰れない場所/零×優姫】






——————————自分がいるべき場所は、どこか。






たとえどこだと言われなくても、間違いなく、零の元ではないのだろう。
今はその事実だけが、胸に深く突き刺さっている。
零に向けられた、激しい敵意の瞳。
その瞳はもう、私達が今までの関係ではいられないことを、悲しいまでに指し示していた。


「大丈夫なら、いいんだ……」


そう言って、触れようとした手を離した。
触れることは、もう叶わない。
零にとって、私は憎むべき存在だから。
今は、零の無事さえ確認出来ればいい。
零が無事でいてくれれば、それでいい。

心に重い枷をはめて、
屈めていた体を起こそうとした瞬間。



「……っ」



零に腕をつかまれ、思いっきり引き寄せられた。
突然のことに驚いて、零の顔を見ようと視線を上げる。
でも抱きしめられているせいか、視線の先には空しか見えない。
背にまわされた腕に、残酷なほどの安心感を覚える。
懐かしい匂い、懐かしい感触。



懐かしい……零の体温。



「お前の中に、俺の知ってる優姫はいるのか?」



不意にそう問われた。
その言葉に、引き裂かれるような胸の痛みを感じながら、口を開く。



「……いるよ……でも溶けて無くなっちゃうかもしれない……」



それが、今できる精一杯の返答だった。
記憶を取り戻した優姫と、私は元は同じだから。
でも、人間と吸血鬼、保たれていた境界がどんどん溶けていって、いつしか私の心を「おにいさま」が支配した。



「私……」



続けようとした言葉を、零に遮られる。



「俺は」



聞きなれた、でもとても懐かしい、零の声。



「お前の血だけが欲しかったよ……」



耳元で囁かれた言葉は、切ないまでに優しい。



欲しくてたまらない、と。
相手の命の源を貪るまで絶対に満たされない、と。



こんなにも、必要としてくれていたのに。



「……そういう、生き物だろう……?」



それは枢の血に溺れる優姫に対して言ったのか、優姫の血に飢える自分に対して言ったのか。
私にも分からない。



首筋に牙を突き立てられた。
自分の体に、血が流れる感触がする。
けれど、あまり痛みは感じない。
何故、と自問自答する暇もなく、視界が霞んでくる。
何を悲しく思うのか、頬に涙が伝う。
でも、これがあなたとの決別だと言うのなら。
私には受け止める義務がある。
静かに瞳を閉じて、心に歯止めをかけた。



「……っ」



首筋から、零の牙が離れる。
すると、視線を真っ直ぐに向けられた。
苦しそうに、息を乱している。
何も言及せずに、ただ真っ直ぐに見つめ返すと、彼の目が一瞬、切なげに揺らいだ。






きっと、最初で最後になるだろう、唇の温度に、
悲しいほどの安らぎと、切ないほどの愛しさを感じた。






          < 口づけだけで満たされる想い >






(こんなにも、)
(焦がれていた)









■後書き

第四十六夜「敵」から台詞をお借りしました。
数年前にやっていたアニメではだいぶ違うシーンになっていたので、かなり悲しかったです。