二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.131 )
日時: 2012/02/24 17:07
名前: 雲雀 (ID: zTHJAdPC)

【終わりに重ねる掌】



深淵の底に産み堕とされたその日から、向こう側にいる“ 私 ”の目を借りて、いつもその世界を見ていた。
けれど、“ 私 ”のいる世界はいつも冷たい壁に閉ざされていて、その向こう側を見ることは叶わなかった。
赤いじゅうたん、紫のカーテン、白い人形、積まれた絵本。
それが、世界の全てだった。
向こう側の世界から切り離された、小さな世界。
いつも窓の中から向こう側の世界を見つめては、色素のない空に手を伸ばしていた。


その世界に、色をくれた人。
私の心に、ぬくもりをくれた人。


「アリス」


笑顔で私の名前を呼んで、私を外の世界へ連れていってくれる。
その人のおかげで、取り巻く世界の美しさを知った。
けれど、彼は二人の“ 私 ”に気付いた。
黒と白、闇と光、過去と未来。
境界線は、その世界そのもの。


「アリス」


そして、名前はひとつだけ。


鎖で繋がれたのは、私。
世界へ連れ出されたのは、私。


そして私は、この世界で一番大切な人を失う。
涙を流しても、どんなに願っても、叶わないこと。
その日から、私を覆う闇はより濃くなった。



          「 もうアヴィスの意思でいたくない……! 」



壊されることを願った。
「私」を、「あの子」を、
「アリス」を助けて、と。



それでも紡がれていく時間。
終わらない生。
否定される世界。
過去への執着。
消えない鎖。
愚かな願い。



ひとつ、涙がこぼれた。



「世界って残酷ね」



ぽつり、と少女は呟いた。
少女の他に、言葉を発するものはいない。



「私から色々なものを奪っていくのに」



手に抱えられているのは、白い人形。
足に繋がれているのは、深淵の鎖。



「まだ、私をここに縛りつけるの?」



床に落ちる人形。
またひとつ、少女の瞳から涙がこぼれる。



「終わりさえ……」



少女の体が揺らいで、床に倒れる。
長く白い髪が、赤と黒の上に淡い色素を重ねた。



「願わせて……くれないのね」






残酷で滑稽で、美しいこの世界。






(願うことを、)
(罪だと知った)









■後書き

本編が色々な展開を見せていて、目が離せないです。ジャックの過去やレイシーとの関わり、オズの正体……色々なものが明かされていって、過去の話を読み返しながら頭に「?」を浮かべています。