二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.14 )
日時: 2011/08/30 18:57
名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=WUzNVK55xd4

【鬼と娘/KAITО】



昔々に語られた
 心の優しい青鬼と
村の娘のお話を
 聞かせましょう
聞かせましょう


      「聞かせましょう」
   (無垢なあなたに、この唄を、)


村のはずれにある、森の入口。
少し進むと、一人の鬼の家がある。
人々は気味悪がり、近づくことはなかった。
鬼も自ら人里に近づくことはなく、静かに暮らしていた。

ある夜、鬼の家に目が見えない娘が迷い込んだ。
それが、鬼の家と知ることもなく。

「人……?」

ここに人間が来ることは、今までほとんどなかった。
皆鬼である自分を恐れて、ここに近寄ろうとしなかったから。
鬼が躊躇いがちに声をかけると、娘は安堵したように微笑む。
まるで白い百合が咲き誇ったように、美しい笑顔。


(ああ、)
(優しい笑顔だ)


鬼は娘を家に招き入れ、一夜を楽しく過ごした。
娘は村での出来事や、親しい人間のことを楽しげに話す。

「それでね……」

娘の話を聞き、その夜、鬼は初めて人の心を知った。
永遠とも思える時間を、ずっと独りで過ごしてきたから、人の心なんて、知らなかった。
人の心を、知ることもなかった。

人間のことで分かることと言えば、自分を恐れ、蔑み、疎んでいるということだけ。
それだけだった。

次の日の朝が来ると、鬼は娘を森の入口まで案内した。
きっともう、会うこともないだろう。そう思っていると、

「また来るね、さよなら」

娘はそれだけ言って微笑んだ。

「無理だよ……」

鬼がそう言っても、微笑み続けるだけ。
不思議な娘だと、鬼は思った。


その日から、娘は森の入口で鬼を待ち続ける。
声をかければ振り向いて、他愛もない話をする。
次の日も、その次の日も。
一日も絶やすことなく、娘は鬼に会いにいく。
いや、会いにいっているのは寧ろ、鬼の方なのかもしれない。


そしていつしか知らされる
(鬼の姿、人あらず)
姿見える
(怖い……怖い……)


ある日、青鬼の家へ、大勢の村人が押し掛けた。
手には松明を持ち、彼の方へと向ける。

「村の娘にもう二度と近づくな!」

娘……あの子のことだろう。
そうか、村の人間にとって、あの娘にとって、自分は化物でしかないのか。
青鬼は心のどこかで、そう悟った。

「二度と来るな!」

恐れと蔑みの視線。鬼というだけで、自分はここまで嫌われている。
害をなした覚えはない、でも、やはり彼らにとって、自分は化物なのだろう。
妙な喪失感を覚えた。
それでも気付かない振りをして、静かに瞳を閉じた。


村のはずれ、森の入口。
ここで別れるのは、全て彼女の為。

「さよなら」

握っていた娘の手を、静かに離した。

「え……?ま、待って……!」

娘は涙を流しながら、待ってと叫び続ける。
しかし青鬼は知らんぷり。
頬にある濡れた感触は、きっと気のせい。


村の娘は、あの場所へ行くたびに白い華を持っていく。
いつまでも、いつまでも、いつか聞こえる優しい声を信じて。


「ほら、後ろ聞こえるかい?」


懐かしい声。
まかれていた包帯が、唄に攫われる。
見えない目が初めて映したのは、風に揺れる蒼い髪。



(蒼い蝶が、)
(空へと羽ばたいた)









■後書き

切なくて涙が出る歌です。
しかし文章能力が歌に追いつかず、酷いことになりました。