二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.144 )
日時: 2012/03/26 13:19
名前: 雲雀 (ID: Rk/dP/2H)

【鮮やかな黒と無色彩の真紅−Deal of black and crimson−】



「きれいな宝石でしょう?」



少女は真っ赤な宝石を掌で転がしながら、くすりと笑う。
少女の足元には、本来目があるべき場所に包帯を巻かれた黒猫の人形が落ちている。
首には紫のスカーフを巻いていて、真っ黒な衣装の裾からはヒラヒラしたレースのついたシャツがのぞき出ている。



宝石は妖しく光る。
人形は鳴きもしない。



「ディールは呪われた眸をもつ黒猫なの」



少女は人形を拾い上げ、人形に巻かれている包帯を指先でそっと弾く。
包帯は紅く滲み出し、人形の頬は溢れた液体で濡れた。
頬からこぼれ落ちたそれは、やがて冷たい床の上に落ちる。



「ディールが初めて見たものは、母親、兄弟……彼らはたちまち灰になった」



彼の眸は、決して自分を害そうとはしなかった。
ただ、彼の眸にうつる全ての生命を灰にした。
彼は泣いた。
自分が奪ってしまった全ての生命を想って。
自分が縛られた醜い運命を憎んで。
彼の眸は、その心のようにきれいだった。



「ディールは泣いて、泣いて、泣いて……神に祈った」



自分がもう、誰の命も奪わないようにと。
誰かがもう、自分のような運命を辿らないようにと。



「神は代償として、彼の眸を奪った」



彼が流す鮮血は、その時の痛みそのもの。
彼は苦しんだ。
激しい痛みと、美しい世界との別れに。
彼は喜んだ。
色を失わない世界がそこにあることに。
彼の眸にはいつも、灰色しかうつらなかったから。



「だからこの子は【DEAL】……取引、なの」



願いのかわりに、光を失った。
彼の眸は、もう何もうつさない。
願いと代償。
これも立派な取引でしょう?



「彼の絶望は、今でもこの宝石に宿ってる……悲しみ、憎しみ、怒り、愛しさ」



彼の生から、一切の色を奪った絶望が、
彼の生から、一切の生命を奪った絶望が、



彼は悲しんだ。ぬくもりに触れられない孤独に。
彼は憎んだ。自分に宛てがわれた運命に。
彼は怒った。全ての生命を奪う自分の眸に。
彼は愛した。閉じた瞼の先にある美しい世界を。



「彼の眸はどこにあるかって?ふふ……あなたもさっき見たじゃない。思い出せないなら、この宝石を彼の瞼に入れてあげて……」



真っ赤な瞳が見えたなら、鎖はもうほどけない。
鮮やかな黒が心を支配したならば、あなたの心は彼のもの。
最後に美しい涙が見えたなら、彼があなたを愛した証拠。









世界との別れは、無色彩でありながら鮮やかに。










■後書き

【月下で踊る白うさぎ】のシリーズです。
今回使ったのは「ディール」で、「取引」という意味です。