二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.145 )
日時: 2012/03/31 19:32
名前: 雲雀 (ID: Rk/dP/2H)

【永遠の物語−Eternal story−】



またひとつ、世界が終わった。
始まりを否定した白も、終わりを渇望した黒も、
繰り返される世界に気づかないまま。
消えてなくなることさえ、叶わずに。



「物語はいつも、こうして終わりを迎えるの」



少女は涙を流しながら、開いていた絵本をゆっくりと閉じた。
今まで数え切れないほどの絵本を読んできたが、物語の最後はいつも冒頭の文章で終わる。
世界は終わる。
そして、再び始まりを繰り返す。



「繰り返される世界の中で、ロンドはいつもあの人を探す」



始まりを迎えた世界の中で、終わりを迎えた世界の果てで、
輪廻転生を繰り返し、何度でも心に焼きついた面影を探す。



堆く積まれた絵本の上に、顔を包帯で巻かれたくまのぬいぐるみが置かれている。
顔は黒と白のつぎはぎでできていて、首には真っ白なスカーフを巻いている。
真っ黒な衣装の胸元には、真っ白な薔薇の花が二輪。
薔薇の花びらが散ることはなく、それは永遠の時を意味していた。



「ロンドは何度も何度も生まれ変わって……あの人を探し続けた」



けれど、二人の生が重なることはなかった。
どんなに求めても、どんなに願っても、
繰り返される世界の中で、二人が再び出逢うことはなかった。



「ロンドは泣いた……心に残る、あの人の面影を探して」



生命は何度もその姿を変え、再びこの世に生まれ落ちる。
形は変われど、魂は永遠に存在し続ける。
幾億の時を超えても、変わらない想い。
心に刻みつけられた面影も、声も、ぬくもりも、
永遠の中で色褪せることなく、切ないほどの遠い記憶は涙に変わる。



「幾億の生を繰り返し、再び深い眠りについた時……ロンドは初めて、あの人の心に触れた」



交わらない生。
出逢った事実。
別れた事実。
褪せない記憶。
褪せない想い。
そして再び、世界は終わる。



「ロンドの胸元にある薔薇の花は、二人の約束なの」



少女は濡れた瞳のまま、僅かに微笑む。
ぬいぐるみの頬を伝うのは、透明な涙。



「白い薔薇の花びらが紅く染まり、終わりを迎えた世界のなかで散ったなら、きっと二人は再び巡り逢えるでしょう」



少女の手から、銀色の砂が滑り落ちる。
それらはきらきらと輝きながら、時を刻む砂時計の中に次々と入っていく。
ぬいぐるみがぽてり、と絵本の上に倒れる。
少女は再び、涙を流す。



「“ またひとつ、世界が終わった ”」



薔薇の花びらは白のまま。
ぬいぐるみの頬には透明な涙。
少女の手には涙で濡れた絵本。
灰色になる世界。



「今回も……二人は出逢えなかったのね」



力をなくした手で支えきれなくなった絵本。
ばさり、と音をたてながら床に落ちる。
その音は、少女の耳に届いていたのかいなかったのか。



「それでも……また繰り返すの。世界も……願いも……」



終焉の鎖から解き放たれた世界は、
始まりの枷をはめられる。
砂時計が、再び時を刻み出した。



「だからこの子は【RONDO】……輪廻曲、なの」



繰り返したその先に、たとえあなたがいなくても。
何度でも、終わりと始まりを迎えるのでしょう。



「二人の願いは薔薇の花に託された……世界はただ繰り返すだけ……」



過ぎ去った過去。
刻まれる現在。
訪れる未来。
存在し続ける時間と空間。
終わりと始まりの中で、世界は何を願うのか。



「今度は……どんな終わりを迎えるのでしょうね」









白い薔薇の花びらが紅く染まり、終わりを迎えた世界のなかで散ったなら、きっと二人は再び巡り逢えるでしょう。
月が太陽に食い散らかされた瞬間に、涙で願いを繋いだなら、この想いは永遠になるでしょう。






(「永遠」の意味、)
(今はただそれだけを)









■後書き

【月下で踊る白うさぎ】【鮮やかな黒と無色彩の真紅−Deal of black and crimson−】のシリーズです。
今回使ったのは「ロンド」で、「輪廻曲」という意味です。