二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.146 )
- 日時: 2012/09/18 17:45
- 名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)
- 参照: ■緋色の欠片 アニメ放送記念
【想うことが罪だとしても/ゲントウカ×玉依姫】
——————彼女はとても強く、美しい女性だった。
人間に化物と恐れられてきた自分にも、彼女は優しく微笑んでくれる。
幾人もの人間を喰い殺し、孤独の中で死に絶えようとしていた自分にも、彼女はぬくもりを与えてくれる。
自分にとって彼女は、生きる意味、そして、この世界で唯一の希望だった。
彼女の傍で、彼女を守ることが出来るなら、どんなに幸せだろう。
花のような笑顔も、川のせせらぎのような声も、光のようなあたたかな手も、星のように美しい涙も、全てが愛しかった。
たとえ彼女のために命を落とすことになったとしても、本望だと、そう思った。
◇
紅い葉が舞い落ちる静かな世界の中に、彼女は佇んでいた。
長くのびた髪は風に攫われ、それらを掻きあげるように、彼女は自らの髪に触れた。
その光景を眩しく感じ、目を細める。
狭まった視野にうつる彼女の姿。
それはひとつの幻のようで、手を伸ばしても触れられないような気がした。
いや、実際、そうなのかもしれない。
彼女は姫で、自分は妖。
共に在ろうと願っても、決して交われない存在。
傍から見ればさぞ滑稽だろうと、彼は薄く笑った。
決して愛してはいけない存在。
でも、惹かれずには、愛さずにはいられないから。
ならばせめて、遠くから想おうと。
自分には、彼女を幸せにすることも、幸せにする資格もないから。
だから今は、遠くから見つめていよう。
届かなくても、彼女が笑っていてくれるなら、微かに痛む胸も、幸福で満たされるから。
「姫……どうか、あなたを想う罪を許してください」
想いを綴る、儚い贖罪。
呟いた言葉は、刹那におきた風によって攫われた。
きっと、彼女には届かない。
——————ゲントウカ。
誰よりも、何よりも、愛しい存在。
たとえこの想いが罪だとしても、きっと消えることはないだろう。
「愛してる……」
届かないように、小さな声で言葉を紡ぐ。
人と関わりをもたなかったせいなのか、元来からの性質なのか、その言葉は酷く不器用だったが、自分の口元が緩く弧を描いているのがわかった。
こちらに気付いたのか、彼女が歩み寄ってくる。
「ゲントウカ」
恋焦がれた彼女の声音。
胸を満たす安らぎと、僅かに残る痛み。
そして、切ないほどの愛しさ。
どうかいつまでも、彼女が笑顔であれるように。
「たとえどれほどの時が経とうとも、あなただけをお慕いしております……」
この想いが、永久に届かなくても。
■後書き
緋色の欠片がアニメ本放送ということで、お祝いに書かせていただきました。
個人的に遼の登場が気になるのですが……どうなんでしょう。
蒼黒の楔 緋色の欠片3 明日への扉 のサンプルボイスがとても素敵だったので、今回の話にも使わせていただきました。
まだ聴いていない方は、是非聴いてみてください。