二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.152 )
日時: 2012/04/13 21:40
名前: 雲雀 (ID: Rk/dP/2H)
参照: ■君と僕。2 アニメ放送記念

【桜日和/浅羽story&塚原story&松岡story】



<浅羽家の場合>



「悠太、お花見行こう」



「え?」



それは、弟の一言から始まりました。



「だから、お花見。ね?」

「まさか、今から?」

「うん。だって桜、散っちゃうじゃん。ほら、早く」

「え、ちょっと祐希。せめて上着くらい着ていきなよ。まだ少し肌寒いんだから」

「はいはい。悠太も、ね」



ばさり。



その音と共に、悠太の視界が暗くなる。
頭の上から被せられたものを手にとって見ると、自分のパーカーだった。
祐希が軽く笑う。



「たまには自分のことも考えなよ。お兄ちゃん」



今日は弟に一本とられたようです。



               ◇



「結構咲いてるんだね」



祐希が無表情のままに桜を見つめる。
その横顔を見つめてから、悠太は満開の桜に目をうつした。



桜。



春に花開き、春に咲き誇り、春に散っていく花。
長い冬を耐え、短い春を彩る。
まるで儚い幻影のような、短い一生。
気づけば葉桜へと変わり、季節は初夏になる。
それでもこうして目を奪われるのは、人間の性なのか。



「悠太」



祐希の無表情な声が、花びらを攫っていく風の音と共に聴こえる。
顔はこちらを向いておらず、その横顔は長い前髪に隠されていて見えなかった。
でも、



「来年も一緒に見れたらいいよね」



確かに、そう呟いた。
きっと、確かな意味はないんだと思う。
でも、たったそれだけのことが嬉しくて。



「そう、だね」



淡く弧を描く口元と、少しだけ熱をもった頬。
それらを隠すように、口元に右手をあてて、押し殺したような声で笑った。



【END】



<塚原家の場合>



「あー……眠ぃ……」



昨日は徹夜で勉強をしたせいで、ただでさえ眠くなる春の空気と共に眠気がどっと押し寄せてくる。
元来視力はいい方ではないのだが、今日はさらに視界が霞んでいる気がする。
欠伸をひとつすると、視界の端に淡い色の花びらが舞い込んできた。



「ん……?」



目で花びらを追いかけると、ちょうど桜の花が満開になっていた。
何故今まで気がつかなかったのだろうと、その光景を見ながら思う。
優しい色素の花びらは、春という季節によく似合っていた。



「桜……か」



そういえば、自分の母親もこの花が好きだったかも知れない。
今年も花見について行かされたが、この花を見て喜んでいた気がする。
まぁ、日本人なら大抵の人間は喜ぶか。



ちょうど、桜の花が二輪ばかり咲いている枝が落ちていたので、拾って掌におさめる。
少しは、喜んでくれるだろう。



「たまには親孝行でもするか……」



僅かに、口元が緩んだ。



【END】



<松岡家の場合>



「あー……雨降ってきた」



今日は朝から曇だったが、時計の針が正午をこえた途端に雨が降り出してきた。
今は雨を逃れるために、公園にある屋根つきの休憩スペースで雨宿りをしている。



「だから、明日にすれば良かったのに」



横から冬樹の不機嫌そうな声が届く。
濡れた前髪が邪魔なのか、煩わしそうに指でかきあげている。



「だ、だって、散っちゃうかと思ったし……」



春は僅かに反抗したが、一度ちらりと横目で見てから、すぐに興味をなくしたように目を逸らした。
長い沈黙だ続く。
それを破ったのは短気な冬樹ではなく、春だった。



「冬樹とお花見したかったなー……」



決して誰かに言った訳ではなく、完全な独り言。
でも冬樹の耳にも確かに届き、内心かなり驚いている。



「兄貴、今なんて……」



僅かに口から漏れた言葉は雨の音によってかき消され、春には届かなかった。
春はリュックの中を漁りながら、「折り畳み傘どこかなー」と独り言を呟き続ける。



「……」



完全に聞きそこねた冬樹は、拗ねたようにそっぽを向く。



「あ、あった。冬樹、雨が止むまでここにいたら風邪ひくから、帰ろう」



花のような笑顔で春が微笑む。
その笑顔を見てから、吐き捨てるように呟く。



「また来年、くればいいだろ……」



「え?」



「なんでもない」



弟の口から、来年という言葉が出てくることを予期していなかった春は、驚いたように目を見張る。
やがて、いつものような笑顔に戻り、



「うん」



と小さく呟いた。



【END】









■後書き

遅れましたが、君と僕。2 放送おめでとうございます。
春ということで、桜にまつわる話になっております。