二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.157 )
- 日時: 2012/04/23 20:11
- 名前: 雲雀 (ID: Rk/dP/2H)
【永遠の空白】
遠すぎるこの距離を埋める言葉が見つからない。
遠ざかっていくあなたの背中に縋り付くことで、この罪がさらに深くなると知っていたから。
追いつけなくなった想いから目を逸らして、自らに罰を与えた。
きっと永遠に叶うことのない、嘘と罪の逃避行。
「だって、」
あなたが泣いていたから。
「サーガはあの人に恋をした」
決して愛してはいけないあの人に。
決して望んではいけないあの人に。
主が愛したあの人に。
「けれど、サーガがあの人を愛したことを主は咎めなかった……」
あなたの笑っている顔が好きだから。
そう、彼女は微笑んだ。
「あの人は……サーガを選んだ」
それでも、彼女は笑っていた。
サーガは嘘を重ねた。
そして、叶うはずだった想いを手放した。
彼女は……泣いていた。
「どうして、と」
大切な人を、泣かせてしまった。
大切な人を、傷つけてしまった。
自分が心をもったばかりに。
自分が彼を想ったばかりに。
大切な、人を、傷つけた。
「サーガは嘘という名の自分に、罰を与えた」
愛した人と、永遠に結ばれることはない。
たとえどれほどの時が経とうとも、たとえ何度生まれ変わっても、叶うことはない。
贖罪など存在しない、愚かな罰と知っていながら、
自分の足に鎖を繋いだ。
「サーガは誓った」
未来永劫、あなただけを守ると。
もう、誰も愛さないと。
「そして輪廻転生を繰り返し、サーガは再びあの人と出逢う」
目が合った瞬間に、恋に落ちた。
けれど、叶わないと知っていたから。
「さよなら」
何度も何度も、嘘を重ねて。
深く深く、罪を刻んで。
遠く遠く、遠い面影を探して。
「 好きだった 」
それはきっと、あなたの言葉。
あの人は、泣いていた。
掴んでいた私の手が、静かにほどけていくのを見て、
透明な、涙を流していた。
私は大切な人を二人も傷つけた。
その過ちは、もう取り戻せない。
「サーガは微笑んだ」
泣かないで、と。
あなたが悲しむ必要はないのだから、と。
「そしてサーガは、あの人から自分の記憶を奪った」
どうかこの血が絶える日まで、
紡ぐことのできなかった二人の明日を、
自ら壊した儚い夢を、
真実を告げられなかったあの人と、
共に在ることの出来なかったあの人に、
あたたかな夢として、
降り注ぐように、と。
嘘を重ねて、罪を刻んで、罰に委ねる。
裁くのは、自分。
裁かれるのは、自分。
だって、あなたが泣いていたから。
愛ゆえに、罪を重ねる物語。
少女の上で人形がぽてり、と倒れた。
右目は包帯で隠されていて、左目は眼帯で覆われている。
首には紺色のスカーフを巻いていて、裾からのぞくのはヒラヒラとした真っ白なレース。
灰色の毛をした、狼の人形。
「サーガはね……もう二度と大切な人を悲しませないために、このお話を語り継ぐの」
呪われたおとぎ話として、
忌み嫌われる神話として、
「語り継がれて幾星霜……」
絶えることなく語られるのは、心からあの人が消えないからでしょう。
何度でも罪を重ねるのは、伸ばした手に溶けてゆく雪が、いつかの明日と重なるからでしょう。
「だからこの子は【SAGA】……伝承、なの」
滑稽でしょう?
「愛ゆえに……」
愛ゆえに、人は罪を犯す。
愛ゆえに、人は涙を流す。
愛ゆえに、人は誰かを傷つける。
愛ゆえに、人は罰を受け続ける。
「それなら……」
もとから愛などなければ良かったのに。
■後書き
この小説で「ギルティ」「ディール」「ロンド」「サーガ」の物語は完結です。
今回使ったのは「サーガ」で、「伝承」という意味です。