二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.171 )
- 日時: 2012/07/07 19:48
- 名前: 雲雀 (ID: Rk/dP/2H)
【薄紫の手紙】
あなたの傍にいることが出来なくなった日。
どうしても、あなたに私の存在を覚えていてほしくて、ある花をあなたにおくった。
青い色をした、小さな花。
涙が零れそうだった。
必死にこらえながら渡すと、彼は静かに微笑んだ。
優しい笑顔だった。
そして、一言。
「忘れない」
そう、囁いた。
◇
一年のなかで、たった一日だけ、あなたに会える日。
それが、七月七日の今日だった。
でも、降り続いた雨のせいで向こう岸へ渡る橋が壊れ、あなたに会いにいくことが出来なくなった。
本当は水を掻き分けてでも会いにいきたかった。
でも途中で力尽きて、命の灯火が消えてしまったら、それこそ二度とあなたにあえなくなる。
閉じた瞼から、涙が零れた。
たった、一日、なのに。
それ以外、会うどころか、見ることさえ、叶わないのに。
雨のせいで、もう何年も彼に会っていない。
その日の晩は、声を押し殺して泣いた。
夢をみた。
あなたが傍にいる夢。
手を伸ばせば手が触れて、お互いに握りあった。
名前を呼べば、呼び返されて、自然と笑顔になった。
これはきっと、幸せだった頃の夢。
夢なら夢で構わない。
だから、どうか、醒めないで。
朝日が頬を染めていく。
残酷な、光。
一日が、また始まっていく。
外に出て、川を見つめる。
昨日の激しい流れなど嘘のように、澄んだ色をしていた。
昨日が今日だったら良かったのに。
涙が流れる。
いつも荒れ狂っていて構わない。
だから、どうか、七月七日だけは、今のように澄んだ色をしていてほしい。
それ以外願わないから、だから、どうか。
「、」
ふと遠くを見つめれば、向こうから紫色の花が流れてくる。
水の流れに身を任せて、ゆるゆると、ゆるゆると、こちらに向かってくる。
やがて岸へと辿り着き、その場で動きを止める。
掬い上げて見てみると、それは水に濡れ、光を反射させてきらきらと輝いていた。
不意に、その花の名を思い出す。
「紫苑、」
花言葉は、
「『あなたを忘れない』」
そのまま、その場に崩れ落ちる。
喉からは時折嗚咽が漏れて、うまく、息ができない。
なんて、優しい人なんだろう。
あの日、おくった青い花の名を、青い花のその意味を、こういう形で返してくれた。
あの言葉だけで充分だったのに、本当に優しい人。
見えない向こう岸を見つめる。
霞のかかったその向こう側で、
彼が、笑ってくれているような気がした。
勿忘草。
花言葉は、『私を忘れないで』。
■後書き
今日は七夕ということで、
七夕に関係するお話を書かせていただきました。
もうひとつ書きたい話があるので、出来たら今日、
書いてしまおうと思っています。