二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.18 )
日時: 2012/12/15 20:02
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)

【譬えばそれを。】






 優しい人が嫌いだった。
 いつも他人のことばかりで、自分を傷つけてしまうから。

 あの人も、そういう人だった。

 誰に何を言われても怒らないで、ただ困ったように笑って、その人の望むような答えを出して。
 そのくせ自分の心なんてお構いなしで、ただ他人を、友達を、本当に大切にする人だった。

 でもそのせいで、あの人は自分を傷つけすぎてしまった。
 日々が過ぎていくごとに、あの人は上手く笑えなくなっていった。

 その事実が、私はとても悲しかった。

 あの人は、本当に優しい人だった。
 今まで会ってきた人間の中で、一番優しかった。
 どうして、と思うくらい。
 他人にどこまでも、どこまでも、優しい人だった。



 ——どうして。



 その言葉が尽きることはない。
 どうして、彼の様な優しい人間が傷ついて、無理をして笑って、いなくなって。
 なのに何故、私の様なくだらない人間が、今もなお生きて、息をして、ここにいるのか。
 
 優しい人が好きだった。
 あの人の笑顔に、言葉に、何度救われたか分からない。
 けれど、あの人自身は深く傷ついていて、そのことに全く気づいていなかった自分がいて。
 そのことが、その事実が、酷く腹立たしい。



 死ぬべきは私で、あなたじゃなかったはずなのに。









(もう見ることが出来ないその笑顔が、)
(この世の何よりも、誰よりも、私は。)









■後書き


 大好きでした。


 優しい人は大好きです。でも優しい人は、時にどんな人間よりも残酷になります。
 そんな瞬間が、私は堪らなく悲しいです。