二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.180 )
日時: 2012/11/13 21:59
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=hqmN-3bk--Y

【守りたい人/ACT1】



<分かたれた結末を想う。>



「『彼は外の世界に怯えていた。だから、彼と共に行くことがどうしても出来なかった』」



 声に出して読んだその文章は、酷く悲しい物語の結末だった。
二匹の仲のいいペンギンの話。でも、二匹は引き裂かれる運命にある。
一人は外の世界に憧れていた。
一人は外の世界に怯えていた。
彼はもう一人に、「一緒に行こう」と言った。
でも、彼が首を縦にふることはなかった。
そこで二匹の運命は、完全に二つに裂けた。


悲しいことだと、思う。
この物語の作者は、どうして二匹の道を別れさせるようなことをしたんだろう。
二匹とも幸せになれる。そんな結末も、あっただろうに。
無機質な本の表紙に書かれた、日本人のものではない名前にそっと視線を落とした。



「二人とも、幸せに……」



 そう呟いたところで、名前を呼ばれる。
慌てて本を閉じ、声のした方へと顔を向けた。



「珠紀先輩」



あんな物語を読んでいたせいだろうか。
優しい声で名前を呼ばれ、酷く安心した。
本を机の端へと追いやりつつ、彼に微笑みかける。
まるで、何かを隠すように。



「もう用事は済んだの?」

「はい。待たせてしまって、すみません。あ、本を読んでいたんですか?」



その言葉に、体をビクリと震わせる。
曖昧に返事をすると、彼は嬉しそうに笑った。



「その本、僕も読んだことがあります。悲しいけど……好きな本です」



「私も、」



好きだよ。
そう言いかけて、口をつぐむ。

 
違う。
もっと正確に言うならば。
私の、






好きだった人が教えてくれた本。



「……先輩?」



 酷い顔をしていたのだろう。
心配そうに、彼が私の顔をのぞき込んでいた。



「どうか……しましたか?」



あんまり頼りなさげに言うものだから、思わず笑みがこぼれてしまった。



「ううん、なんでもないよ。さ、帰ろっか」



立ち上がって、カバンの中に本をしまう。
手を引くと、彼は安心したように微笑んでいた。









■後書き

「守りたい人」を題材に書いていきます。
いつもより長くなりますが、お付き合いいただけたら光栄です。