二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.181 )
- 日時: 2012/08/31 01:02
- 名前: 雲雀 (ID: L1bEpBtf)
【守りたい人/ACT2】
<独白>
夜風が頬にかかった髪をさらっていく。
その冷たさに、思わず肩をすくめた。
もう、冬が近いのだろうか。
この村に来たとき、すでに色づきはじめていた木ノ葉は、いつの間にか散りつつあった。
「寒いな……」
腕をさすりながら、上着を部屋においてきたことを後悔する。
今からとってこようか。
そう思ったところで、後ろから小さな足音がした。
「……」
振り向こうとはしなかった。
夜の闇にとけこむような、静かで、優しい空気。
きっとあの人だろうと、心の隅でぼんやりと思った。
「珠紀」
声をかけられたが、やはりそのままでいた。
ただ振り向かないかわりに、
「はい」
とだけ、返事をした。
木枯らしが、その声をかき消すように流れていく。
先程まで、足音は遠いように思えていたが、いつの間にか、月明かりは二つ分の影を地面にうつしていた。
おそらく、木枯らしが足音もさらっていったのだろう。
どこへ行ってしまったのか分からない木枯らしに、ふっと笑みを漏らした。
「珠紀……?」
声に気付いたのか、彼が不思議そうに私の名前を呼ぶ。
くるり、と振り向けば、金色の瞳と目が合った。
振り向かないほうがよかったのかもしれない。
彼の顔を見た瞬間、急に目尻が熱に晒された。
「泣いて……いるのか……?」
その声で我に返り、慌てて目元を拭う。
幸い、涙は流れていなかった。
首を横に振ると、そうか、とだけ返ってきた。
「祐一先輩、」
強ばった声で、彼の名を呼ぶ。
不自然だったが、今はこれが精一杯だった。
「なんだ……?」
静かな、声。
それはどこか、拒絶のようにも聞こえる。
「あ、の……」
声を出そうと開いた唇は、酸素を求めただけで、何も紡ぐことなく、震えながら閉じてしまった。
握りしめた手が冷たい。
悔しさからか、悲しさからか、先輩の顔を見ていられず、足元まで視線を落とした。
————微かな音が聞こえる。
ザァ
ァァ
ァァ
ァァ
ァァ……
空を見上げれば、水に滲む満月が見えた。
冬の温度にさらされた体は芯から冷え、雨は氷のように心の温度を奪っていく。
でも雨のおかげで、頬に流れる涙がばれることはないだろう。
「珠紀……?」
私を気遣う、声。
逃げないと、この人から。
はやく。はやく。
この人から与えられる、無条件の優しさが、私に届いてしまわないように。
「な、んでも、ありません……」
声が、震えた。
彼の視線から逃れるように、彼に背を向ける。
「私、もう、戻り、ますね……。先輩も、はやく……雨、降ってますから」
辿たどしい言葉で、なんとそれだけを伝えると、走って家の中へと戻った。
彼は、追いかけてはこなかった。
どんな顔をしていたのかも、分からない。
心の底から安堵した。
これで、もう、彼の優しさに傷つくことはない。
はずなのに。
「……っ」
涙があふれて止まらない。
雨のせいで冷えた体に抗うような熱をもった感情が、心を突き刺す。
「……っ、ぁ……」
そこで、ようやく悟る。
自分は、彼を拒絶しながらも、
それでも、心のどこかで、
彼の優しさを求めていたのかもしれない。
それはたった、一ヶ月前の出来事。
■後書き
本編でも似たようなところがあったので、参考にしました。
緋色やりたいな、と受験生のくせにつくづく思っています。