二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.191 )
日時: 2012/09/25 21:38
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)

【color】



 彼の病室には、青いカーテンがかけられた、外開きの大きな窓があった。カーテンは、彼の両親が彼のためにわざわざ家から持ってきて、病院に頼んで取りかえてもらったものらしい。そして彼はそのカーテンの色を、『海の色』と呼んでいた。

「私は『空の色』だと思う」

 彼は読んでいた本を閉じて、私のほうを見た。
その口元には、柔らかい笑みが浮かんでいた。

「空と海って、似てるよね」

 彼は備え付きの引き出しから、色鉛筆とキャンパスノートを取り出して、真っ白な紙の上に水色と青色の鉛筆を走らせた。はじめは、水色。そしてその薄い色の上に、濃い青を重ねた。真っ白だった紙は、たちまち青空へと変化を遂げた。
そしてその横に小さく、『Y』と書いた。

「なんで『Y』?」

 私がそう聞くと、彼は笑みを深めた。

「お前のイニシャル。前、色の塗り方教えてもらったから」

 絵に色をつけるときは、空などの広い範囲から大まかに塗っていく。そして空の場合は、濃い青から下にいくにつれて、徐々に薄くしていく。思えば彼の空も下にいくにつれて、徐々に薄い色になっていた。

「これ、空だって思ったでしょ?」

 確信めいた言葉だった。ということは、と、私も心の中で思った。

「じゃあ、海なんだね」

 正解とでも言うように、彼はキャンパスノートと色鉛筆を私に差し出した。私が素直に受け取ると、続けてこう言った。

「お前が思う『海の色』を描いてみて」

 私は水色の鉛筆を取り出して、彼の描いた海の横に鉛筆を横に倒して色を塗った。その次に青、その次に藍、その次に紫。青系の色が終わると、今度は緑、その次は黄緑。最後には黄色と橙、そして赤もいれた。どこか湖のような、海になった。
 それらの色を指でぼかしてから、彼に差し出した。彼は笑って、キャンパスノートを受け取った。
そして愛しそうに、その色を撫でる。

「夕暮れの海みたい」

 恐らく赤がかいっているからだろう。彼はそう呟いた。
その夕暮れどきのような海は、彼が描いた青い海よりも悲しげに見えた。

 彼は海というものが大好きだった。彼と話をすると、いつの間にか海の話になっていた。早朝の海の色、昼間の海の色、夕暮れの海の色、深夜の海の色。水平線、空と海が交わる場所。海神の神話、空と海のどちらが好きか。
 私はいつも空が緋色に変わるまで、彼の話を聞き続けた。
彼はまるで、宝石についてでも語るかのように海のことを語るのだった。









■後書き
 
 なんとなく思いついたので、書いてみました。
気が向いたら、続きを書くかもしれません。