二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.204 )
日時: 2012/11/30 21:24
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)

【出鱈目セレクション】






 数字の羅列から目を逸らして、窓の外を見つめる。
 そういえば、次の授業は体育だった。
 天気は快晴。
 ため息が、ひとつ。



「さて、今日はどうしたい?」



 震える端末を撫でれば、可笑しそうに笑う文字の羅列。
 先生の目を盗んで交わされる、暗黙の了解。
 今日でもう、何回目だろう。
 
 
 くすり、笑いがこぼれた。



 授業終了2分前。
 鳴り響くサイレンの音。
 また派手にやるなと思いながら、涙目になるクラスメイトを見つめていた。
 

「生徒は速やかに避難してください」


 冷静に繰り返される放送も、生徒の不安にかき消される。
 生徒の渦にのまれていく数字の羅列を見つめながら、未だ震える端末を握り締めた。
 学校のチャイムが、ゲームの開始でも告げるかのようにサイレンの音に重なった。



「お気にめしたかな?」



 表示された文字の羅列に、正直笑えた。






 誰もいない机を通って、今日もまた席につく。
 今もまだ、声だけは聞こえてくるようだった。
 目を伏せる。
 記憶の中で、ゆらゆらと揺らぐ笑顔。



「悲しそうだね」



 震える端末が、無機質な文字を並べた。
 ディスプレイに表示される、透明な涙。
 今日もここに、君はいないんだね。
 馬鹿らしくなる、午前9時。


 ぽたり、自分の涙に気づいた。


「世界を終わらせて?」


 たった9文字の言葉に、自分がどんな思いを込めたのか。
 そんなこと、自分でさえもう分からない。
 不機嫌そうにそっぽを向く端末に呼びかければ、ディスプレイに表示される涙のマーク。



「悲しいんだね」



 少しだけ変わった文字の羅列。
 ずっと見ないようにしてきた自分の心。
 震える指で、ディスプレイを撫でた。


「悲しい」


 たった4文字の言葉で、何が変わるかなんて知らないけれど。
 それでも、声に出さないと死んでしまいそうだったから。
 吐き捨てるように言った世界の終わりは、案外とても簡単なもので、端末は未だに不機嫌そうに言葉を探す。


「いないなら、もう」


 全てを終わらせたって、後悔なんてしない。
 押しつぶされたような声で、自分の顔を覆った。
 


 今日もいない、君の笑顔。
 今日も繰り返される、君のいない世界。


 叶わないことだって、知っていたけれど。
 後悔なんて、実はもういくらでもしていたけれど。


 ずっと傍にいたのに気づかなかったなんて、あまりにも馬鹿らしい。
 ずっと何かに縛られながら生きてきた君の笑顔なんて、もう思い出せもしない。
 永遠なんて、この世には存在しない。
 そんなこと、悔しいまでに分かりきっている。



 こんな世界なら、もういらない。



 霞む世界の中心で、端末が震えた。
 


「耳にあてて」



 表示された文字の通り、端末を髪で隠された耳に押しつけた。
 息を吸う、音がする。



「君がいるこの世界が、大好きなんだ」



 懐かしい、声がした。









■後書き

 お久しぶりです。期末テストがあったので、暫らくあけていました。
 久々の更新が、こんなもので御免なさい。もっと、精進します。