二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.207 )
- 日時: 2012/12/26 23:14
- 名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)
【感情制御。】
【LPS】——Last Point Strategy
被験者が唯一、この泥沼から這い上がり、望みを叶えられるかもしれない場所。
施設のAIとのゲームに勝ち、それらを【成果】として、ひとつだけ望みを叶える。
ただし、負けたものはほぼ死亡確定の劇薬を飲まされ、この世界の糧となっていく。
今までの勝者は0人。勝率は0%。
そんな歪んだこのシステムは、被験者によって皮肉られ、【Last Stage】と呼ばれた。
今日もまた、そんな最終地点の扉が開く。
——酷く、冷めた目をした少年だった。
目にかかるほど伸びた前髪からのぞく、赤と黄金のオッドアイ。
どこを見つめているのかわからない。けれど、真っ直ぐに前を睨みつけている猛禽類のような目。
それほどまでに、冷えた目が印象的な少年だった。
画面の中からその姿を一瞥したあと、プログラムを進行させていく。
いつもとなんら変わりない。ただ相手が子供というだけだ。
「被験体【1122‐6424—0079】、最後に確認します。【LPS】を受諾しますか?」
少年はびくりともしなかった。
大抵、生半可な覚悟できた大人は、ここで一度は私の声に震える。
けれど目の前の少年は、ただただ無機質な表情で、こちらを見据えた。
「受け入れないなら、こんなところにいないけど」
こんな冷めた目をした人間でも、人の言葉を話すのかと、そう思考を巡らせて、やめた。
この思考は、システムの一部に過ぎない私には必要のないものだ。
少年の口から吐かれた言葉を承諾とみなし、表示された【YES】を選択する。
これで、この少年は引き返せなくなった。そのはずだった。
けれど目の前の少年は、それでもなお、ただ無表情にこちらを見つめているだけだった。
「それでは、あなたの望みを」
叶うはずのない望み。
プログラムが、どうやったら人間に負けると言うのだろう。
目を閉じて、ため息をつく。
くだらない。このシステムをつくった人間も、このシステムに縋る人間も、全て。
目を開いて、驚いた。
冷えきった少年の目が、その言葉を口にした瞬間だけ、優しげに細められていたから。
「妹に、会いたい」
きっとこの少年は、権力や富みなどには一切興味はないだろうと、確かに思っていた。
けれど、この望みも、想定外だった。
「いもう、と……?」
気づけば、口が勝手に開いていた。
少年は少し考えた素振りを見せたあと、淡々と話し始めた。
「妹もここの被験者で、俺よりは安全なところにいる。そう頼んだから」
少年の口から伝えられた情報に、違和感を覚えた。
被験者が、安全な境遇にいる?何故?
ここは等しく、絶望と痛みを味わうところなのに。
「俺にどんなリスクをかけてもいいから、妹にだけは手を出すなって、そう頼んだ」
その代わり、妹には会えないけれど。
そこで、少年は言葉を終えた。
そんなこと、有りうるのだろうか。
彼らが、被験者の要求をのむなんて、そんなこと。
「リスク……」
その言葉を思い出すように、目の前の少年をまじまじと見つめた。
酷く冷めたオッドアイ、上がることのない口角、普通の人間よりも遥かに遅い、心音。
身体は何故立っていられるのかわからないほど、痩せこけていた。
そんな酷使しすぎた身体で、このゲームに負けたあとに飲まされる健康体であっても死亡必至の劇薬に耐えられるはずがない。
言葉が、漏れた。
「死ぬ気……ですか」
そう問えば、少年は首を振る。
髪がまとわりつく首筋に、いくつもの傷が見えた。
恐らく、少年の言ったリスクによるものだろう。
少年は、再び口を開いた。
「どうしても、妹に会いたいだけ」
だから、早くしてよ。
ゲームの開始を催促され、穏やかな拒絶の意を感じた。
もうこれ以上、彼は何も話さないだろう。
彼をうつす画面が揺らいで見えた。
満たされない何かを、この日、初めて感じた。
「——ゲームを、始めます」
今日もまた、終わりへと。
◇
ゲームの結果は、引き分けだった。
まさかと思った。
その身体のどこに、そんな確実な判断を下す能力が残っていたと言うのだろう。
彼はつまらなそうにコントローラーをおいて、「負けちゃった」と呟いた。
扉が開いて、数人の研究者が部屋へ入ってくる。
「もう用意はしてある。早く、【Last Stage】へ」
そう言って、彼を連れ出そうとする。
何故。彼は負けてなどいない。
連れて行かれる理由など、殺される理由など、何一つない。
なのに、何故。
「ばいばい。楽しかったよ、お姉さん」
上がらない口角を精一杯歪ませて、私を見るの。
「あ……」
頬を、得体の知れない熱が通り過ぎていった。
わからない。
彼が連れていかれた理由も、彼の言った最後の言葉も、
頬を伝う僅かな熱も、機械でしかない心に突き刺さる、この感情の名も、何一つ。
「な、んで……」
人間に同情する気なんて、さらさらなかった。
その境遇に生まれてしまったのだから、仕方ないことなのだと。
そう割り切って、生きていけばいいだけのことなのだと。
そう、思っていたのに。
(でも、)
(あの人だけは。)
■後書き
幸せになってほしかった。
思いついたので、なんとなく書いてみました。
消えていく彼の背中に、心をもたない機械がどう思ったのか。
少しでも、何か伝わればいいなと思います。
かなり思いついたままに書いたので、酷い文章になっています。御免なさい。ありがとうございました。