二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.209 )
日時: 2012/12/29 21:04
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)
参照: どんなに願っても、変わらない。酷く、残酷だけれど。

【それでも、世界。】






 いつから見つめていたのかは、わからない。


 ずっと、終わらない夏の夢を見ていたコノハは、何を思ったのか、それとも、疲れ果ててしまったのか。
 青空が広がる、けれど、モノトーンの世界しか見えない少年のことを見つめていた。
 もっと細かく言うならば、その少年の心を、見ようとしていた。

 少年は自分を救ってくれた少女をなくし、その取り返しのつかない悲しみを、いつも、屋上でひとり、自分に染み込ませているようだった。
 いくら悲しんでも、物語の結末は変わらない。
 それでも、少年はそれをやめなかった。
 まるで彼は、少女のことを忘れまいともがいているようだった。
 本当は、苦しくて、寂しくて、今すぐにでも忘れてしまいたいと思っているだろうに。


「なん、で……」


 屋上のフェンスに凭れながら、ずっと彼を見ていた。
 その日、『今まで』と違う行動をとった彼は、涙を流しながら。


「また会いたい……」


 そう、呟いた。


 その言葉に、心を抉られるような痛みを覚えた。そして、そんな自分に、驚いた。
 今まで自分は、何度もコノハの邪魔をして、終わらない夏の世界を造りあげてきた。
 寧ろ自分は、悲劇を嘲笑うものとして、生まれてきたはずなのに。

 そして、もっとに驚いたのは。


「僕が君の願いを叶えられたらよかったのにね」


 そう言って、コノハが彼の頭を撫でたこと。


 コノハはここには存在していない。
 あくまでこの世界は、コノハの夢で、もう取り返しのつかない、過去のことで、だから、あの少年に言葉など届くはずないのに。


「ごめんね」


 呟いて、少年を後ろから抱きしめた。
 ゆらゆらと揺れる透ける身体が、酷く滑稽にうつる。


「あ、やの……」


 少年の口から漏れた声に、コノハは顔を歪めて、また。


「ごめん……」


 震える声とともに、少年のことを強く抱きしめた。
 

 あんな行為に、意味などないのに。
 あの少年には、何一つ、届かないのに。


 それなのに、こんなにも嫉妬している自分がいる。


 もしも、あそこにいれたのが、自分だったなら。
 もしも、その悲しみを受け入れる人間として、自分が生まれていたならば。
 自分が、『クロハ』ではなく、『コノハ』だったなら。
 自分は、悲劇をつくる人間ではなく、悲劇を受け入れる人間になれていたかもしれない。
 

 悲劇を————覆す人間になれていたかもしれない。


 少年が、何かに気付いたように目を見開いた。
 その視線の先には、一匹の折り鶴。


 また一筋。少年の頬を、涙が伝った。


 少年は、何も言わなかった。
 ただ、叫びたい心を覆い隠すかのように顔を歪めたあと、目を細めて、一言。


「ありがとう……」


 その言葉に、コノハは抱きしめていた少年の身体をゆっくりと離した。
 きっと、もう必要ないと思ったのだろう。
 愛おしげに彼を見つめた後、ゆっくりと、目を閉じた。


 そのとき、本当に、そのときだけ。
 コノハになれたらと、そう思った。


 どこまでも広がる青い空。
 悲しいまでに彼女を思う、彼。






(きっと俺は、)
(そんな彼を。)









■後書き

 そんな彼の心を、愛おしいと思ったのだろう。

 【あの日、いつか。】の続き。
 というよりは、クロハから見たお話……なんですかね。
 コノハにコンプレックスを感じるクロハが書きたかっただけです。
 そして、コノハが見ているなら、クロハも見ているに違いないと←
 原作が好きな方、本当に申し訳ありません。捏造が半端ないですね。
 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。