二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.210 )
日時: 2013/01/01 14:54
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)

【この思いが届くなら。】






「飛鳥!」


 優しい声が、自分を呼んだ。
 振り返れば、その声に違わない優しい笑顔と、目。

 ふわり、と、頭に何かをのせられる。
 不快には感じない。でも、いったいなんだろう。
 気になって、その何かに手をのばす。
 それはとても柔らかくて、人工のものではないことがわかった。


「よく似合ってるよ。飛鳥」

「これは……?」


 疑問をそのまま口に出せば、その人は軽く笑って、


「花冠」


 と、答えた。


「花……?花でつくるの……?」


 また質問を重なれば、そうだよ。と、優しい笑顔のまま、その人は頷いた。


「私もつくれる……?」


 そう聞けば、その人は目を見開いたあと、勿論。と、また笑った。
 その笑顔が嬉しくて、気づけば、自分もつられて笑っていた。



 ——思い出の中のあの人は、いつも優しい笑顔で笑っていた。


 施設の中で本ばかり読んでいた私を、いつも外に連れ出しては、一緒に花を見たり、鳥の声を聞いたり。
 その人は私に、世界には色があることを教えてくれた。
 嬉しかった。いつも、とても優しくて、あたたかくて、両親はいなくなってしまったけれど、この人さえいればいいって、そう思っていた。


 ——その人は会うたびに、どんどん弱っていっているように見えた。


 背こそ高かったものの、身体はやせ細り、いたるところに傷らしきものが見えた。
 心配になって、どうしたの。と聞いてみても、その人はいつもの笑顔で、なんでもないよ。と、笑うだけだった。


「飛鳥」


 いつもの声で名前を呼ばれ、何。と返す。
 その人は目を細めると、静かに私の頭を撫でた。


「きっと俺がいなくなっても、世界は何一つ変わらないけれど。でも、飛鳥は違うんだよ」


 そう言って、頭を撫でた手で、優しく私を抱きしめた。
 何を言っているのか、全くわからない。
 いなく、なる。誰が?あなたが?どうして?


「飛鳥はね、俺の世界そのものなんだ」


 耳元で聞こえる声が、酷く優しくて、それでいて、冷たくて。
 抱きしめられてわかったのは、その人の身体は、何故立っていられるのかわからないほど痩せこけていて、傷だらけだったことだけ。


「大好きだよ。俺の……世界でたった一人の妹……」


 口から、声が漏れた。
 それは、大好きな双子の兄の名前。


「い、おり」


 それが、その人を見た最後の日。



              


 後で知ったのは、その施設がただの孤児院ではなかったこと。
 兄が、いくつものリスクを背負って、私に会いにきてくれていたこと。


 兄が——自分を犠牲にしてまで、私を守ってくれていたこと。


 その兄は、施設でも最高ランクのリスクを伴う【LPS】を受諾し、その後、消息不明になった。
 死亡リストにはのっていない。ただ、もう私の目の前には、いないけれど。


 ——よかった、のに。


 私なんて、守らなくて、よかったのに。
 ただ、傍にいてさえくれれば、それでよかったのに。



「伊織……」



 ただ、傍にいてほしかっただけなのに。






(あなたの犠牲の上に成り立っていた幸せは、)
(今、こんなにも私を苦しめる。)









■後書き

 大好きだった、その笑顔。

 あけましておめでとうございます。喪中なので年賀状がもらえない雲雀です。
 【感情制御。】と繋がりのあるお話です。
 もういっそ、長編で書こうかなと悩んでいます。というか書きたい←
 今年もよろしくお願いします。