二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.215 )
日時: 2013/01/21 19:36
名前: 雲雀 (ID: Ma3wYmlW)

◇君が好きでくるしい。






「生まれてきてくれて、ありがとう」

 他人より優れているところなんて、何一つ無かった。
 寧ろ、他人よりも劣っているところばかりで、そんな自分が嫌いだった。
 だから、誰かに好きになってもらえることなんて、きっと一生ないだろうって、ずっと諦めていた。

「え……」

 聞こえたその声に驚いて、目を見開く。
 彼女はまた、ふんわりと笑って、

「はっぴーばーすでー」

 わざとらしい拙い発音で、そう言った。
 両親でさえ、言ってくれたことは無いだろう。
 『生まれてきてくれて、ありがとう』なんて。
 その言葉に込められたあたたかさを、優しさを、ずっと自分は知らなかった。
 家族でさえ言ってくれない言葉を、どうして彼女はくれるのだろう。

「本当に、ありがとう」

 ねぇ、気づいて。
 そう言いたいのは、私のほうなんだ。



 伝えようって、思ったんだ。
 君の誕生日に、君が来たら、『生まれてきてくれて、ありがとう』って。
 なのに、どうして。

 どうして、写真の中で笑ってるの。
 クラスの全員が好きだったであろう、優しげな笑顔。
 私と違って、君は愛されていた。
 いなくなる理由なんて、どこにもなかったじゃないか。
 ねぇ、どうして。

「どう、して……」

 どうして、私じゃないんですか。
 君に『生まれてきてくれて、ありがとう』って言われて、幸せだった。
 もうそれだけで、充分だった。
 あのとき死んだって、悔いなんて無かった。
 私が死んだって、きっと誰も悲しまなかった。
 どうして、君なの。

『ほら、笑って』

 私を笑わせようと、君は何度も笑ってくれた。
 気づけなかった。
 あの笑顔の意味に、どうしようもないくらいの、助けての声に。

『うん、笑ってるほうが好きだよ』

 ありきたりな話でも、君は笑って聞いてくれた。
 もう、伝えることなんてできないけれど。
 もう、手を差し出すこともできないけれど。


「生まれてきてくれて、ありがとう……」


 君の笑顔が、大好きだった。









■後書き

 一番幸せなときって、どんなときだろう。
 そう考えながら書きました。
 失ってから気づくこともありますよね。
 あのときのあの言葉、嬉しかったな……とか。