二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.220 )
- 日時: 2013/01/21 19:31
- 名前: 雲雀 (ID: Ma3wYmlW)
◆延命プレリュード
人は、心のどこかでかならず、きっとこの日々は明日も続いていくだろうと、勝手に思っている。
『永遠』——その圧倒的質量をもつ、言葉。その意味を、その存在を、心から信じている奴なんて、いったいこの世界に何人いるだろう。
いつか、終わる。それは誰もが知っていることで、そして、誰もが知らないひとつの真実。
あたりまえのような、非現実。
——甘ったれた思考に、吐き気がした。
気づこうが、気づかなかろうが、いつか来ることに変わりはない。
そうやって、今日もまた。
そんな思考に、蓋をした。
「初めまして、九ノ瀬遥です」
ありきたりな自己紹介とともに、目の前の彼は柔らかく笑った。
その笑顔に、目を見開く。
無表情だったときには、気づきもしなかった、のに。
——笑ったときの顔が、酷く、あの人に似ていた。
「あ、し、シンタロー、です」
コミ障全開の挨拶をぶちかましつつ、その人を上目に見る。
高い背に、白い髪。赤い目と、右頬にある同色のマーク。
俺の知る、あの人の姿ではなかった。
でも、笑顔だけは、何故か。
「初め……」
そこまで言いかけて、口を閉じる。
言えなかった。
それを言ってしまったら、認めてしまうことになる気がしたから。
「シンタロー……?」
「え、あ、いや、あの……っ」
不思議そうに首を傾げる彼に、何か言わなくてはと口を開くが、何一つ、意味をもった声が出てこなかった。
その代わり、なんの意味もない言い訳だけが頭を巡る。
別にあの人と、特別仲が良かったわけじゃない。
けれど、大切に思っていた少女と、どこかよく似たあの人の笑顔は、何故だか酷く、安心した。
たった、それだけのこと。
そして、それだけのことの為に、気づいてしまった。
——俺だけが、生きている。
『永遠』——いつかの思考を思い出す。
本当の馬鹿は、俺だった。
勝手に、この日々はずっと続いていてくれるって、そう思い込んで、君の悲しみに気づかずに。
明日も、またあの二人に会いにいくんだろうなって、今度は何話すんだろうな、とか。
またいつもみたいに、あの人は笑ってるのかな、とか。
そして突然、崩れた。
なんの前触れもなく、少しの別れの声もなく。
君も、あいつも、あの人も、いなくなった。
「……っ」
認めてしまうことが、怖かった。
目の前にいるこの人に、よく似た笑顔のあの人が、あの笑顔が、もう。
『シンタローくん!』
——もう、この世界にはないということを。
「シンタロー……?」
再び名前を呼ばれて、はっとした。
なんでもない。そう言おうとして、その人の顔を見たことを、酷く後悔した。
容姿も、態度も、俺の名前の呼び方も、何もかも変わってしまったけれど。
それでも、気遣うような、優しいあの笑顔だけは、
「大丈夫?」
——あの頃と、何一つ変わっていはしないんだ。
(その事実が、余計苦しい。)
(あなただと、確かめる術もないのに。)
■後書き
どうしても、あなたと重ねてしまうから。
私の中だと、シンタローと貴音、そして、文乃ちゃんと遥くん。この組み合わせが、所謂『似た者同士』なんじゃないかと思っています。
だからシンタローは、どことなく文乃ちゃんに似ている遥くんに懐いていたんじゃないかと、そう思ったら書いてしまいました。
そしてシンタローくらいの頭なら、ケンジロウ先生に何かされてない限りは遥くんのことを覚えていて、コノハの笑顔を見たりしたら、思い出すんじゃないかな……と。
四人が仲良かったとすると、シンタローは一人だけ取り残されてることになるんですよね。
長々と、すみませんでした。