二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.222 )
日時: 2013/02/03 14:40
名前: 雲雀 (ID: Ma3wYmlW)

【さよならにキスをする。】



「ばいばいシンタロー、また明日!」

 靴を鳴らしながらそう言えば、また明日。と、素っ気ない声が返ってくる。
 このやりとりは、もう何回もしてきた。
 こんなことをしなくても、明日はやってくるし、シンタローにも会えるだろう。
 でも、私にとってこのやりとりは、とても大切なものだった。
 何もかも不確かな明日というものの中で、たった一つだけ、シンタローのまた明日。という言葉だけ、それだけは信じられた。
 だから私は、今日も嘘をつく。

 ——さよなら。そう伝えようと思ったことは、何度もあった。
 また明日は、また明日も会おうね。ということで、でもさよならは、違うから。
 私の中で、明日というものが信じられなくなってしまったときは、ちゃんと伝えようって、そう決めていたのに。
 シンタローがまた明日って言う度に、また明日も会えたらって、そう思ってしまうから。
 だから、ずっと言えないまま。

 二人分の足音を聞きながら、もうそろそろかな。と思い、顔を上げる。
 今日こそは、伝えないと。君の前で、笑っていられるうちに。
 シンタロー。そう呼ぼうとしたら、不意にシンタローがこちらを振り向いた。


「またな、文乃」

 
 そう言って、ふわりと笑う、彼。

 言えない。
 言えるわけ、ない。

 さよなら、なんて。

 
「——またね、シンタロー」


 こんなに、大好きなのに。






(そして私は、)
(初めて嘘をついた。)









■後書き

 言えるはず、ないよ。

 あえてどんな痛みなのかは書かず、シンプルにまとめました。
 「絶園のテンペスト」のОPから、歌詞を使わせていただいております。